- 〈一つ上の言葉の力〉をつける国語を創る
- 前書き
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- T 一つ上の言葉の力はこれだ!
- 一つ上の<言葉の力>をつけるための新しい授業のあり方
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- 一つ上の<話す・聞く>は「聞き手」を育てることから
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- 一つ上の<書く>は楽しんで「書くこと」
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- 一つ上の<読むこと>の授業とは「読むことの本質」に迫ること
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- 一つ上の<言語の力>は「習得と運用」のある指導と評価で高まる
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- 一つ上の<評価>は「学びの道筋」を明らかにさせること
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- U 楽しくなければ国語じゃない!
- 児童・生徒の側に立つ学びの過程
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- 楽しいだけでは国語じゃない!
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- みんなで学ぶ,一人で決める
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- V 一つ上の国語への授業実践
- 話すこと・聞くこと
- 「話す・聞く」でぬくもりアップ!
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- 「聞く力」を高めて一つ上の「話す力」に
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- 「場」を機能させることで「話すこと・聞くこと」の力を一つ上に
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- 書くこと
- 実態をステップに一つ上の書く指導を
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- かかわりあいの中で自らの表現を書く!
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- 「型」は豊かな思考と表現の礎
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- 読むこと
- 「まとまりに気をつけて読む」ことの指導
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- 多様な読みの保障の場で読み方の発見・深化を!
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- 言語事項
- 日本語の豊かな使い手になるために
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- 言語事項を他の領域に資する学習とする
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- 学びと評価
- 一人一人が学びと課題を認識するための教師や児童相互の評価
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- 学習の重点を絞った評価の実践
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- 一つ上の〈評価〉は状況設定!
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- W 国語実践への提言
- 話合いで読みを深めるためには
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- お話の「はじめ」と「おわり」に着目しながら楽しく読み進める学習
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- 意欲を高め,話す力・聞く力を伸ばす
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- 読み手から書き手へ
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- 話合いにおける付けたい力とその習得が子ども達にもわかる授業
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- 薄れゆく人間関係と国語科教育
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- 言葉に実感を持たせ,言葉へのこだわりを強める言語活動を!
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- あとがき
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- 執筆者紹介
前書き
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官
国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官
井上一郎
国語教師となるには,何が必要か。子どもへの愛情,教育者としての生き甲斐,子どもを友に学ぶ喜び,といった人間教師としての素質は当然だ。だが,それだけでは不十分だ。情熱が空回りするからである。それらに加え欠かせないのが,精緻な言語能力の体系と系統を何の資料も持たずに語れるほどの能力である。
算数なら,つまずいた子どもを見て,何の能力が不十分なのか,すぐにも系統をたどれよう。第何学年の学習が不足するから補充してやろうと考える。理科なら,どの分野の知識が必要かと推論することだろう。
ところが,国語科では,残念ながら基礎・基本の能力が十分ではないと思っても,一体何を教えればよいのか,どのような内容を集中的に指導すれば一挙に新しい地平が開けるのか推断できないのである。子どもは,どのように階段を歩きながら国語力を身に付けていくのか。踊り場でどのように休憩しているのか。どこから新しい建物の階段を歩き始めるのか。子どもの学習風景を見て,子ども個々の情景としてとらえ直すこと,そしてそれらの背景を明らかにすること,そのようなことのために,言語能力の体系と系統を熟知している必要があるのである。
◆
発達段階は,一定の枠組みの中で徐々に慣れ熟知していく累積的なものと,前段階からは引き継ぐことができない構造的転換とによって構成される。言語能力は,このような発達段階を基盤に,多様な観点が複合しながら同時並行的に高次化していくものである。
ある観点の能力は,まだようやく知識を得ただけのものである。乳児が,流動食を終わり,固くて歯ごたえのあるご飯に切り替えられたときには驚き戸惑うように。一方,ある観点は,既に新しい枠組みを要請しており,教師の指導を強く求めている。ツバメの子どもたちが,母親が餌をとってきてくれるのを待っているかのように。
子どもが,どのような能力を身に付け,あるいはどのような能力につまずいているのか分かるためには,現在置かれている立場を立脚点に再び勉学するしかない。そうでなければ,子ども個々に対する〈一つ上〉の手だては打てないのである。
◆
子どもの国語力を着実に高めるには,次のような視点が必要である。
@ 国語力は,社会とかかわるために必要な言語能力である。
A 国語力は,多様な言語活動を通して育成される言語的思考力や言語認識力である。
B 国語力は,課題を探究したり,自らの課題を解決する自主的な学習力である。
C 国語力は,各教科等を貫く言語能力である。
D 国語力は,子ども時代に生きるとともに,生涯学習に生きる言語能力である。
(『確かな国語力をつける授業モデル』明治図書,2004年参照)
このような要請に応え,確実に学力を定着させるには,次のようなことに留意する必要がある。
〇 年間指導計画の上に立って実践を構想し,その成果を検証すること。
子どもの実態評価は,蓄積にしかなく,一つの単元だけで議論しても仕方がない。まずは単元構想が明確であることだ。ただ,それらの評価も,2学期なら1学期の,3学期なら2学期までの9ヶ月分があってはじめて,その単元は上を目指す重ねた提案となるのである。
〇 単元は,教師の指導計画と子どもの学習意欲によって練り上げ,具体化すること。
教師がいくら正しいと信じても,学級集団全員の学習意欲がエネルギーとなって学習を進める教室がなければ,「目指すばかり」で着実にはならない。学ぶ意欲の高さに支えられる学習指導案を創らなければならない。確実に国語力が一歩ずつ高まっていくことの結果や成果を評価することが重要なのである。
〇 個々の子どの発達過程に沿うこと。
子ども個々がどのように成長しようとしているのか,どのようなことにつまずいているのかを反映するような学校全体のカリキュラム作りや単元指導計画を立てなければならない。
〇 各領域等を貫いて反復して蓄積すること。
話すこと・聞くこと,書くこと,読むことなどの言語活動は,それぞれの指導内容を関連付けてはじめて着実に成果を上げることができる。教科書を見ると,それぞれの領域の単元数は,それほど多くない。説明や報告の能力は,話すこと・聞くことでも,書くことでも,読むことでも同様に求められているのだから関連付けて考えるようにしなければ確実にはならないのである。
〇 各教科等を貫く国語力をカリキュラムで実現したり,家庭や地域と連携すること。
フィンランドが読解力で成果を上げたのは,次のような考え方を大切にしたからである。例えば,「ルク・スオミ」(フィンランド読解力向上プロジェクト)では,次のように課題を提示している。
@ すべての教科を通じて、読解力、特に演繹的・批判的読解力の改善。
A 様々なジャンルの文章を書いたり、すべての教科において書くことによる学びの推進。
B 学校内外での読書量の増大。
C 学校図書館の整備と地域図書館との連携の増大。
D 読解力・文章力を支援することを目的とした学校―家庭間の連携強化。
(『読解力を伸ばす読書活動』明治図書,2005年参照)
各教科等を通じたり,家庭や地域との連携が重視されていることがよく分かる。しかも重要なのは,読解力だけでなく解釈力や記述力を同時に高めていることである。読むことが書くことへ,書くことから発表や交流へと領域を関連付けていることも先に述べた通りである。
◆
これからの教師は,自ら研修し,本書のような執筆の機会にも臆せず,明確に実践報告ができるぐらいでなければいけない。だが,個人で研究するだけが重要な時代も終わりを告げようとしている。カリキュラムを学校全体で構想し,指導すべき内容の系統を教師同士が「共有」することが必要だ。共有し,各学級の実態に応じて明確な指導と評価規準のもとに具体化し,たえず自己点検や自己評価を行う。さらに共有しているものを再検討すること。そのような一歩一歩の蓄積こそが,子どもを新しい丘の見晴らしに導いてやれるのである。
[付記] 本書は,北海道札幌市における「第8回新しい国語実践の研究会北海道大会」(平成15年)の発表内容から発展して生まれた。研究会での会員の活躍を見て,優秀な方がおられるので是非成果を発表されてはどうか。その結果,研究会員が全国で活躍されるきっかけとなれば嬉しいことだとお話申し上げたのが,研究大会にお呼びいただいた渡辺知樹先生へのお礼の言葉だった。こうして,刊行の日が迎えられたことを研究会の方々とともに喜びたい。そして,本書の刊行が研究会の発展の契機となることを強く願うものである。
2006年8月
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- 明治図書