- まえがき
- 1 大学法人化で大学はどう変わったか
- 一 入学ガイダンスで新入生に言ったこと
- 二 法人化後大学はどう変わったか
- 三 教育学部主催の有料の出前講座をする
- 2 これからの大学における広報活動・戦略
- ――受験者獲得のデータ分析と戦略――
- 一 高校生の市場調査の必要性
- 二 受験生から見た千葉大学教育学部の魅力と弱点
- 三 データに基づく戦略を立てる
- 3 地域枠を設けたAO入試のねらいは何か
- 一 賛否両論のAO入試
- 二 千葉大学教育学部がAO入試を導入した理由
- 三 千葉大学教育学部AO入試のユニークさ
- 4 学生は教育学部をどう評価しているか
- 一 教育学部生の入学動機と大学満足度
- 二 学生から見た大学の授業評価
- 5 全国初の高大連携協定の出前授業
- 一 三校と高大連携協定を結ぶ
- 二 どんな出前講義を行うか
- 6 学部長はどんな出前授業を行ったか
- 一 千葉大学の魅力を説明する
- 二 私の教育学の授業をする
- 7 教大協研究集会千葉大会から何を学ぶか
- 一 教大協研究集会とは何か
- 二 どんな内容の研究集会であったか
- 8 ポスト10・プレ10の研修の在り方
- 一 教師の社会化とは何か
- 二 ポスト10・プレ10研修とは
- 9 全国初の教育委員会と大学の合同授業研究会
- 一 大学教師がなぜ小中学校で授業するか
- 二 木更津市との合同授業研究会の立ち上げ
- 三 どんな授業が行われたか
- 10 学部長のボランティア活動
- 一 シングルマザーの親子キャンプ
- 二 遊びの達人教室の展開
- 三 子ども「なぜなぜ」トランプとは何か
- 11 大学の臨床教育機能を高める
- 一 十年次研修でわかったこと
- 二 大学の教員養成の見直し
- 12 異業種から学ぶ大学マネージメント
- 一 異業種の多様な経験則
- 二 逆算の発想の導入
- 資料 幻の『千葉大学教育学部大学院改革案』
- 教育学部二年間の総括と次の方向性
- 千葉大学大学院教育実践開発研究科(修士課程)構想(案)の概要
- ─教育実践高度化をめざした既存の教員養成系修士課程大学院のトータルイノベーション─
- あとがき
まえがき
大学は全入学時代を迎え危機に直面している。大学が学生を選ぶのではなく、学生が大学を選ぶ時代になった。と同時に大学は文部科学省からの財政的な縛りが強くなった。運営交付金が毎年一%減になる。千葉大学の規模では一億六千万円になる。教授クラスで言えば一六名の首切りである。それに公務員五%削減がくる。さらに地域手当の補充がある。
教育学部はさらに困難に直面している。受験生が減っている。首都圏をはじめとした大都市地域では教員採用は好転している。それにもかかわらず受験生が増えないのである。学校がいじめをはじめとしてあまりにも多くの教育課題を抱えすぎている。それにマスコミをはじめとした学校・教員バッシングが起こり、免許更新の問題が浮上している。
「教師になりたい」「子どもが好きだ」といって教育学部を志望する高校生は多い。しかし、高校生は親や高校教師の「教師は大変だから今はやめたほうがよい、様子を見たほうがよい」の言葉に影響されがちである。
こうした大学を取り巻く厳しい状況に手を拱いているわけではない。少なくとも千葉大学教育学部はこの二年間さまざまな改革を試みてきた。代表的なものを列挙する。
・教員の正式採用率全国一位を達成した。文部科学省の就職率は年間講師をはじめとした非常勤の教員も集計に入れている。千葉大学は非常勤を入れない統計でトップになったのである。
・一八年度AO入試の倍率が九倍を超した。ペーパーテストだけでなく多様な才能を持った学生が欲しくAO入試を始めた。学部全体は三倍強の倍率であるが、それをはるかに超えている。「青田買い」でも「定員補充」でもない、本来のAO入試の趣旨にかなうと自負できる入試を実施した。
・千葉県下の三校と高大連携を三年間継続してきた。出前授業は当たり前であるが、大学の教員が一五回という半期分を高校に出向き授業をした。それを高校側が一単位としてカウントする。この仕組みは日本初である。
・木更津市教育委員会と連携しながら授業改善フェステバルを開催した。大学の教員と小中学校の教員が同じ学年の小中学生を対象にして国語と数学の授業を行うのである。教育学部の教員の授業づくりの強さと不十分さを理解し、教員養成に活かそうとするのである。
・相模原市と市原市の教育委員会と連携し、二日間一万円の有料出前研修を行った。一八〇と一〇〇名を超す参加者があった。一五に近い講座を設けたが、アンケートでは手厳しい批評をいただくものもあった。教育学部ができる外部資金獲得の道筋をつけたかった。
・大学の広報のあり方を見直し入試戦略を立て直した。外部の企業の力を借りて、ホームページを抜本的に変え、受験者獲得の戦略を立てた。その結果、オープンキャンパスの参加者が六〇〇人増え二〇〇〇名を超えた。
・特命教授を四人任命した。学部長が独自で委嘱できるのが特命教授である。二人はマスコミに名前が知られている人たちで広報担当をお願いした。あとの二人は校長を退職された人で就職サポートルームで学生の相談をお願いした。
しかしすべてがうまくいったわけではない。教育学部の改革の本丸は既存の大学院改革である。千葉大学は当面教職大学院は設置しないと宣言した。教職大学院よりも人数的に主流を占める既存の大学院の改革を目指したのである。
なぜなら、二〇〇六年は残念ながら大学院の修了生の教員就職率は学部より少なくて五割弱にとどまっているのである。私たちは、「二年間、教育学部で勉強したにもかかわらず、なぜ教員になるものが少ないのか」、という世間の質問に答えねばならないのである。また、教育委員会の「大学院の卒業生より学部の卒業生のほうが欲しい」という声にも答えねばならない。
そこで既存の大学院を限りなく教職大学院に近づけようとした改革案を作り上げた。現実の教育課題に答える高度な専門性を持ち、実践的な力量を身につけた教員を育てようとする計画である。
ところが、学部の抵抗勢力(「守旧派」)によって今のところ陽の目を見ていない。今のままの状態がよくて、変化を好まない教員が改革の障壁となっている。研究室に閉じこもり、附属学校や地域の小・中学校の授業研究に出かけないのである。
医学部では午前中に患者さんを診察し、午後に手術や講義をするのが常識である。教育学部でも午前中に附属学校で授業を観察・分析し、午後に演習と講義をするスタイルを確立しようとしたのである。
本書の最後に、私の「二年間の総括と次の方向性」と、二〇〇六年までの執行部と改革に意欲的な教員が作り上げた「幻の大学院改革案」を載せている。参考にしていただければ幸いである。
/明石 要一
1学期が終わらないうちに辞めていく。
ベテランと言われる年配の職員が休職をする。
定年をむかえずに辞める。
そういうことが本市でも見られている。
辞めていく理由は様々だろう。
何とかできないものか。
そのまま手を拱いているわけにはいかない。
学校を取り巻く厳しい状況に誰がどう改革するか?
教育学部学部長でもある著者の明石先生が動いていらっしゃる。
様々な取り組みをされている。
高度な専門性と実践的指導力を兼ね備えた教員の養成。
現職教員の再教育の一層の充実。
そのキーワードは「技の上達」である。
教師の授業力が問われている。
教員免許の更新制も導入された。
授業技量の検定を受けることが今後は当たり前になるだろう。
学校現場との新しい連携を深めようとしている教員養成機関=大学の改革に対して大いに期待が高まった。