イギリス高等教育の課題と展望

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ここ20年で大きな変貌を遂げたイギリスの高等教育の現状を精緻に分析。今後の課題を検討することによって,少なからぬ影響を受ける日本の大学・大学院の未来を考察する。


復刊時予価: 3,355円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-005441-8
ジャンル:
教育学一般
刊行:
対象:
その他
仕様:
A5判 272頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

『イギリス高等教育の課題と展望』発刊に寄せて
はしがき
第T部 イギリスの大学の抱える問題
大学長の目を通したイギリスの大学
ピーター・ノース (前オックスフォード大学副学長,ジーザス・カレッジ長)
大学を維持するためには多額の資金が必要です
ロバート・テイラー (バッキンガム大学副学長)
イギリスで唯一の私立大学
イギリスの大学を支える組織
ジョン・クレメンツ (オックスフォード大学会計主監)
オックスフォード大学の総収入は570億円です
ロジャー・ブロウズ (イギリス大学学長委員会大学政策担当)
政府と大学長委員会との関係
象牙の塔に踏み入った政府
トニー・クラーク (イギリス教育雇用省高等教育局長)
政府と大学の関係は悪化している
イギリスの大学の将来の展望はいかに
ロバート・コーエン (ロンドン大学教育研究所シニア・レクチャラー)
政府の高等教育政策を憂う
第U部 イギリスの大学の未来
第1章 英国高等教育の歴史
A. 『ロビンズ報告書』以前のプライベイト・セクター
B. 『ロビンズ報告書』以前のパブリック・セクター
第2章 『ロビンズ報告書』後の高等教育
第3章 サッチャー政権時代の高等教育再編過程
第4章 1988年教育改革法によりもたらされた変革
第5章 英国大学の現状と課題
第6章 大学評価
第1節 高等教育財政審議会
1) 高等教育財政審議会の使命
2) 経常経費の配分
第2節 研究評価
1) 研究補助金の内訳
2) 研究評価と研究費の重点配分
3) 研究評価における問題点
第3節 教育評価
1) 質と水準
2) 教育の質評価機構
3) 教育評価における問題点
結び
第V部 イギリスの大学院の現状と課題
第1章 大学院の歴史的発展
第2章 大学院の制度とその構造
第1節 イギリスの教育システムの特徴
第2節 学生数の増大と専攻コース
第3節 大学院学生の資格と選抜
1) 資格の全国的な枠組み
2) 資格
3) 選抜
第4節 修了率
第5節 学生への補助金
第6節 高等教育機関の財政的基盤
第7節 学生の財政的基盤
第8節 大学院の財政制度への提言及び勧告
1) 『大学院教育の展望』
2) 『我々の大学と未来』
3) 『デアリング報告書』
第3章 大学院と労働市場
第1節 労働市場の変化
第2節 要求される技術の変化
第3節 現在の雇用状況
1) 専攻科目別雇用状況
2) パートタイム
3) 長期的観点に立った雇用状況
4) 大学院学生の就職先
5) 給料
6) 学生の借金
7) 将来の方向性
結び
〈補 稿〉
1 『ノース報告書』の要約
2 教育評価調査書
〈略語〉
あとがき
〈索引〉

序イギリスの高等教育――フランスとの比較(冒頭)

   文部省大臣官房・総務審議官 /本間 政雄


 1960年のフランスの大学入学資格であるバカロレア取得者(バシュリエ)は,5万9,287人であった。これが1970年には2.8倍にあたる16万7,307人に急増している。全フランスを震撼させたいわゆる五月革命は,この急激な大学拡大の過程で起きたものである。バシュリエの数は,その後も増え続け,時の社会党政権の「20世紀末までに同世代人口の8割がバカロレア取得」を目指す政策に沿って,従前の普通教育バカロレアに加え,職業教育バカロレアが創設され職業高校卒業者にも大学進学の道が開けたこともあって,1990年に38万3,850人,1997年には48万1,798人に達した。これは同世代の61.5%にあたるが,バシュリエのほぼ8割が実際に高等教育機関に進学するので,フランスの高等教育進学率は5割前後と考えられる。高等教育人口も,1974年の90万人から1996年には213万人へと2.3倍の増加を示している。

 フランスの高等教育システムは,中世以来の伝統を誇る大学の他,グラン・ゼコールと呼ばれる工学系・ビジネス系の分野で実際的・実用的教育を行う一群の高等教育機関,それに技術短期大学(IUT),リセ付設の上級技術者養成課程(STS)などから構成されているが,高等教育人口の拡大はバカロレア取得者なら原則無試験で入学を認める大学セクターで主として起き,厳しい入試を課すグラン・ゼコールではあまり増えなかった。

 このような急速な拡大は,フランスの高等教育に多くの課題を生み出している。

 第一に,財政問題である。高等教育に対する国,地方自治体,家計,企業などによる総支出は,1974年の88億フランから1996年には781億フランへと22年間で名目8.9倍,実質2.3倍の増加を見ている。フランスでは,憲法で公教育無償の原則が規定されており,国立大学在学者が圧倒的多数を占める高等教育の費用負担は国にかかってくる(総高等教育費の約8割は国が負担)。他方,フランスの大学はバカロレアさえもっていれば原則どこの大学でも無試験で入学できるため,大学の最初の2年間の第1期課程は常に過密の状態に置かれている。この課程では一般教育が行われるが,大教室での講義が中心で,教員による個人指導も不十分なため,この課程を修了できずに脱落していく者が半数近くおり,フランスの大学を取り巻く最大の問題となっている。これらの脱落者は,若年失業者となって街にあふれ,失業給付の増大を招くだけでなく政治的不安要因となって,歴代政府の頭痛の種となってきた。そもそもフランスの大学は,その出自から真理探究を旨とし(したがって,一部の工科大学をのぞき,大学本体に工学部はない),教育内容も学問的・理論的で実際的・職業教育的色彩はきわめて薄い。グラン・ゼコールはこうした大学に対するアンチ・テーゼとして生まれてきたのであり,今日では多少溝は埋まったとはいえ,両者間の隔たりは依然として大きい。ともあれ,今日まで公教育無償の原則が高等教育に至るまで貫かれているが,高等教育のユニバーサル化が進む一方,大学教育の費用対「効果・成果」(rentabilite)が改善されない状況で,授業料導入,国以外の大学収入源の多様化と収入増は今後とも重要な検討課題であり,同時に1985年に「大学評価委員会(CNE)」が創設され,大学が第三者機関による定期的評価にさらされるようになったのも自然な流れであろう。

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