- まえがき
- 第T章 セルフ・カウンセリングによる教育改革
- 第1節 子どもの自己発見を援助する教育であってほしい
- カウンセラーとして思ったこと
- 大学教師として思ったこと
- 教育学者として思ったこと
- カルチャー・センターの講師として思ったこと
- セルフ・カウンセリング講座の監修者として思ったこと
- 子どもの学習モチーフが自己発見モチーフであってほしい
- 第2節 セルフ・カウンセリングによる
- 教育改革運動の展開を目ざして
- お母さんへのセルフ・カウンセリングによる家庭教育運動を起こす
- 日常場面の記述
- 本当の学習意欲を引き出すには
- 作文への展開
- 大人と子どもが共に学ぶセルフ・カウンセリング
- 第U章 対話に導く
- 〜小学校の先生の,セルフ・カウンセリングによる教育実践
- 第1節 セルフ・カウンセリングによる
- 道徳教育の実践
- 友達と対立したときのことを書いてみよう
- 杉山君の記述〜何だよ。自分は何一つ悪いことしてないみたいじゃないか
- 杉山君が読み返して気づいたこと〜金子君は何で謝らないんだ,と怒っていたのかもしれない
- 佐竹君の記述〜何で言い返さなかったんだろう
- 佐竹君が読み返して気づいたこと〜カーッとしてたから,西川君が何してるかわからなかったんだ
- 第2節 セルフ・カウンセリングによる
- 少人数教育の実践〜元先生の,少人数教育の実践
- 1.子どもたちは大人の想像をこえた,さまざまな思いを抱いていた
- 2.子どもの現実を知ることが大切なんだ!
- 3.初めての場面記述〜心の思いをもっともっと表現してほしい
- 4.生活場面の中での自分の感情に気づいてほしい
- 5.子どもたちは自分の気持ちを味わうことをしてこなかったんだ!
- 6.他の子の話をじっくり聞くことができないんだ
- 7.自分のことを話したら,お友達の話も聞いてみよう
- 第V章 さまざまな領域における,セルフ・カウンセリングによる教育実践
- 第1節 お父さん先生の,セルフ・カウンセリングによる教育実践
- 〜何に対しても無気力だった息子が,やる気を取りもどした
- 1.社会教育主事として,お母さんたちにセルフ・カウンセリングを手ほどきする〜お母さんが変わると,子どもが変わる
- 2.研修担当として,若い先生たちにセルフ・カウンセリングを手ほどきする〜子どもとの思いの食いちがいを実感として認識できて良かった
- 3.父親として,わが子にセルフ・カウンセリングを手ほどきする〜いったい息子は何を考えているんだろう
- 4.親戚の子を集めて,セルフ・カウンセリングによる勉強会を始める〜ぼくは,自分なりにがんばったんだよ
- 5.セルフ・カウンセリングを国語学習に取り入れる〜国語の読み取り,いつも100点
- 第2節 お姉さん先生の,セルフ・カウンセリングによる教育実践
- 〜内気で引っ込み思案だった彩ちゃんが,こんなに積極的な子に
- 1.いとこにセルフ・カウンセリングを手ほどきしてみよう〜気持ちを書き表すことで癒され,問題に立ち向かってゆくことができるようになった
- 2.国語の学習にセルフ・カウンセリングを取り入れる〜問題を自分で解いてゆく醍醐味が学習意欲につながったんだ
- 3.洞察の手ほどきをする〜自分自身の気持ちだけでなく,相手の気持ちも汲みとれるようになった
- 4.引っ込み思案だった彩ちゃんが堂々と発表した〜私の12年間をふり返って(私だけの4383日)
- あとがきにかえて 〜生涯学習セルフ・カウンセリング学会への招き
まえがき
□感情表現できない子どもたち
最近、一見、“おとなしそうな普通の子”が、突然“きれて”事件を起こすことが、新聞で報道され、大人の関心をひいています。
数年前から、私は、子どもたちが自分の感情を「むかつく」の一言で片づけていることに注目してきました。ところが、最近は、この「むかつく」という言葉さえ発せられず、プツンと「きれて」、そのまま行動に出る、という現象がおこってきました。言い換えると、子どもたちは、自分自身の気持ち(感情や欲求)が全くわからないままに行動しているのです。
□「むかつく」という言葉の奥にある心のセリフ
これから紹介する、私が創案したセルフ・カウンセリング〜ひとりでできる自己発見法のなかに、“心のセリフ”を具体的に書くという技法があります。
自分が日常生活のある場面で思ったことを、“私は < > と思った”という形で、できるかぎり、ありのままに表現するのです。
たとえば、“お母さんに叱られてむかついた”という子どもがいたとしましょう。
セルフ・カウンセリングでは、“お母さんが「テレビなんか見てないで、早く宿題やっちゃいなさいよ。まったく、いつも言わなきゃやらないんだから」と言った。
私は <うるさいな。いちいち、文句ばかり言ってー。このテレビ見たら、やろうと思っているのに。言われなくてもやるつもりでいるんだよ。> と思った。“というようになるかもしれません。
一言で“むかつく”といっても、ひとりひとりの子どもたちによって、そのむかつきかたはまったく違います。また、同じ子どもであっても、状況によって、違ってきます。その“むかつく”気持ちをできるかぎり具体的に、心のセリフとして書き表していくことで、子どもたちは自分の本当の気持ちに気づくようになるのです。
□自分の気持ちが理解できると、相手にも思いやりがもてるようになる
子どもたちが、自分の気持ちをありのままに書き表し、それをくり返し読み返すことで、自分の気持ち(感情や欲求)に気づくことができます。その自分の気持ちをしっかりと受けとめ、じっくりと味わうことができると、その時その時の自分の感情や欲求につき動かされなくなります。そして、心にゆとりが生まれます。心にゆとりが生まれると、はじめて、自分のまわりの人の気持ち(感情や欲求)を思いやることができるようになるのです。
□人間として生きてゆく力を育てるセルフ・カウンセリング
大人が、思いやりのある子を育てるのにまず、必要なことは、子どもの、あるがままの思いを受けとめることです。つぎに、必要なことは、子どもがあるがままの思いを表現できるように問いかけることです。自分の思い(気持ち)をしっかりと受けとめ、理解できるようになると、相手の思いをも、しっかりと受けとめ、理解しようとする気構えが生まれてきます。そこから、相手をも自分をも生かす創造的な知恵が生まれてくるのです。
子どもたちが自分で自分の問題を見つけ、自分の解答を出してゆけるように援助することが、生きる力を育てる教育につながると私は信じています。セルフ・カウンセリングは、まさに、人間が人間らしく生きる力を育てる自己教育方法なのです。
この本が、子どもたちと関わる、すべての大人たちのために、少しでも参考になれば幸いです。
/渡辺 康麿
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