- はじめに
- 第1章 通常の学校における「自立活動」とは
- 1 特別支援教育とは
- 2 自立活動とは
- (1) 自立活動とは
- (2) 通常の学校における自立活動の教育課程上の位置付け
- (3) 自立活動の内容と今回の改訂のポイント
- (4) 教育課程の編成
- 第2章 自立活動の内容
- 1 健康の保持
- (1) 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること
- (2) 病気の状態の理解と生活管理に関すること
- (3) 身体各部の状態の理解と養護に関すること
- (4) 健康状態の維持・改善に関すること
- 2 心理的な安定
- (1) 情緒の安定に関すること
- (2) 状況の理解と変化への対応に関すること
- (3) 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること
- 3 人間関係の形成
- (1) 他者とのかかわりの基礎に関すること
- (2) 他者の意図や感情の理解に関すること
- (3) 自己の理解と行動の調整に関すること
- (4) 集団への参加の基礎に関すること
- 4 環境の把握
- (1) 保有する感覚の活用に関すること
- (2) 感覚や認知の特性への対応に関すること
- (3) 感覚の補助及び代行手段の活用に関すること
- (4) 感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関すること
- (5) 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること
- 5 身体の動き
- (1) 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること
- (2) 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること
- (3) 日常生活に必要な基本動作に関すること
- (4) 身体の移動能力に関すること
- (5) 作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること
- 6 コミュニケーション
- (1) コミュニケーションの基礎的能力に関すること
- (2) 言語の受容と表出に関すること
- (3) 言語の形成と活用に関すること
- (4) コミュニケーション手段の選択と活用に関すること
- (5) 状況に応じたコミュニケーションに関すること
- 7 指導にあたって
- (1) 個々の子どもたちの実態に応じた指導方法
- (2) 特別支援学級の場合
- (3) 通級による指導の場合
- 第3章 特別支援学級での自立活動の実際
- 1 知的障害特別支援学級や部活動での自立活動の実際
- ―中学校での人間関係の形成とモータースキルトレーニング―
- (1) 本校の知的障害特別支援学級
- (2) 指導の実際
- (3) その他の時間での自立活動の紹介
- (4) 部活動で活用できる自立活動
- 2 情緒障害特別支援学級での自立活動の実際
- ―他領域での配慮指導としての人間関係の形成
- (1) 本校の情緒障害特別支援学級
- (2) 指導の実際
- 第4章 通級指導教室での自立活動の実際
- 1 きこえとことばの教室での自立活動の実際
- (1) はじめに
- (2) 在籍学級での支援
- (3) 在籍学級で行える活動
- 2 LD等の通級指導教室での自立活動の実際
- ―人間関係の形成とソーシャルスキルトレーニング―
- (1) はじめに
- (2) 子どもたちによく見られたつまずき
- (3) LD等の通級システムの確立
- (4) LD等の通級指導教室
- (5) 学習グループの編成
- (6) 自立活動の内容
- (7) 成果と課題
- (8) 通級指導教室から特別支援教室へ〜そして通常の学級へ〜
- 第5章 通常の学級における自立活動の実際
- ―安定した枠組みと一人ひとりにやさしい支援
- (1) 安定した学校生活
- (2) 安定できる教材
- (3) からだづくり
- (4) 授業で自尊感情を高める指導例
- (5) 特別支援学級の取り組み
- (6) まとめ
- おわりに
はじめに
「『特別』ではない特別支援教育」のシリーズ第3巻として,『みんなの「自立活動」特別支援学級・通級指導教室・通常の学級編』を出版することになりました。この巻では特別支援学校の学習指導要領の改訂に伴い,通常の学校でどのように自立活動をとらえ,活用していくかを,自立活動の改訂ポイントをふまえながら,先進的な事例を通して紹介することにします。
「特別支援教育とは」と聞かれると文部科学省が提示した内容に集約されます。従来の「障害児教育」は特別な技能,知識をもった先生が,特別な場で,障害のある子どもたちへの指導を指し示すことばとして定着してきたわけです。なぜ今「特別支援教育」へ変わっていったか,ということを考えると,社会の変化とか,子どもの実態の変化とかいった内容で理由が総括されています。では,教育現場がそれを受けてどう変わっていかなければいけないのかということが一番大切なことだと思います。ある学校では,「『特別支援』だから,今までの障害児教育の対象にLDとかADHD等が増えただけではないの」「コーディネーターと特別支援学級の先生に任せていればいいんじゃない」「この子がいるから,授業がうまくいかない」「人をつけてくれなければ授業ができない」等の意見がよく聞かれます。また,ある学校では「一人ひとりのニーズに合った教育だから,すべての子どもに配慮しているので,今まで通りの指導でいいのではないか」「特別な配慮をしてあげたいが,人手がない」「個別の指導をしたいが,保護者の同意が得られない」等の意見もあります。このように学校によって,個人の先生によって今のシステム,流れの受け取り方がまちまちで地域格差,学校間格差,学級間格差が生じているのも仕方がないことだと思います。このような状況の中で,今現場で必要なことは何かというと「子どもたちの困っているところを見付ける」「子どもたちがそれをどう克服していくのかを援助する」ということではないでしょうか。そのためには先生方だけでなく,保護者,一般の子どもにかかわる大人たちの意識改革が早急の課題になってきます。
この『みんなの「自立活動」特別支援学級・通級指導教室・通常の学級編』では,子どもたちの困っているところ,苦手としているところを特別支援学校の指導要領にある「自立活動」という領域を通じて,子どもたちの行動や背景の実態把握の参考にし,指導の工夫や専門的な見方を学んでみようということで企画しました。第1章,第2章は「自立活動とは」ということで中身を知ってもらい,以下特別支援学級での時間の取り組みと配慮した取り組み,「ことばの教室」「LD等の通級教室」での通級指導の具体的実践,最後に通常の学級で自立活動を意識した指導の実際を紹介しています。
「自立活動」は当然,特別支援学校の教育課程の領域ですので,通常の学級で時間の指導として取り扱うわけにはいきません。通常の学校の中では,「特別支援学級」「通級指導教室」がその対象になるわけです。しかし,この「自立活動」が,学校教育の中の教育課程の領域としてあることを知っている先生方は全体の何%いるでしょうか。子どもたちを観察し,困っているところを見付け,指導の実際に結び付けていくという流れは,決して特別支援学校だけのものではありません。この「自立活動」の中身を知るだけでも通常の学級の教科領域での指導の参考になったり,実際の手立ての一部に付け加えたり,子どもの行動の背景を知ったりすることができます。このように「特別」という意味は,特別な配慮という意味だけではなく,すべての先生が「特別」な技能・知識を知るということ,つまり「教師としての専門性」を高めることが必要だということが含まれていると考えられます。
2009年8月 編著者 /中尾 繁樹
自立活動について学びたい者にとって必読の一冊である。