- 発刊に寄せて
- 1 「板書見ながら」算数作文 話すだけの授業からの脱却
- 1 『「板書見ながら」算数作文』のすすめ
- 2 ただ「話すだけ」の算数授業からの脱却
- 3 結果ではなく過程を書くことができるか
- 4 算数日記から『「板書見ながら」算数作文』へ
- 5 慣れてきたら板書に仕掛けを―何をどう評価するか
- 6 『「板書見ながら」算数作文』それぞれの取り組み
- 2 「板書見ながら」算数作文の実践事例
- 作文指導を生かして,友だちが登場する算数日記へ
- 長さをつくる活動を通して,量感を育てる
- 2年生でもここまで書ける
- 帰納的に考える力と演繹的に考える力をはぐくむ
- わかりやすい掲示の仕方を考える
- 対比する構造を見比べながら,考えを統合する力をはぐくむ
発刊に寄せて
基幹学力研究会は,国語教育と算数教育のコラボを図ることで子どもたちの学習効果が向上するのではないかと模索してきた。これまで日本の教育は,国語は国語,算数は算数とあまりにも区別しすぎて取り組んできたが,そもそも子どもの学びはそんなに輪切りになってきちんと区別されて進むものではないと思うからである。
子どもの学びはもっと複合的に,そして総合的に進行する。その意味で,教科を横断するような試みはもっとたくさん行われてよいと思う。新学習指導要領では探究的な活動を教科をまたいで行うことを奨励しているが,こうした改革の視点はもっと大切にされるべきだと私も考えていた。
新学習指導要領が本格実施され,言語活動の充実が叫ばれると,算数でも「話す」「書く」といった活動が大切にされるようになってきて,これはよい変容だと思っていたが,さっそく「これでは国語なのか算数なのかわからないではないか」という声も聞こえるようになってきた。ここにも縦割り行政のような日本の教科教育の固定的な感覚が見え隠れする。
だが,このとき私は思った。算数で行う活動で国語的にみえる部分は,いっそのこと国語でもっと堂々とやったらどうだろうかと。従来,算数の授業でも作文を書かせたりする試みは行われてきたが,先ほどのような指摘もあって,子どもたちがひたすら“書き浸る”というような時間をとることには,やや臆していたように思う。
国語の学習指導要領には,次のような記述がある。
「考えたことなどから書くことを決め,目的や意図に応じて,書く事柄を収集し,全体を見通して事柄を整理すること」
「自分の考えを明確に表現するため,文章全体の構成の効果を考えること」
「事実と感想,意見などとを区別するとともに,目的や意図に応じて簡単に書いたり詳しく書いたりすること」
「引用したり,図表やグラフなどを用いたりして,自分の考えが伝わるように書くこと」
私はこれを読みながら,これらは算数の授業で振り返り作文を書かせることでもすべて達成できるのではないかと改めて考えた。順序立てて書く,整理して書く,というように文章を論理的に組み立て記述する活動をさせるのに,算数のように論理の緻密な学習内容は,題材としてシンプルでとても適している。
さらに算数の立場としても,授業で話し合いばかりしていて,いざテストになると力が付いていないという問題を考えるとき,一人ひとりが算数の授業の板書を見ながら,まさしく“書き浸る”という活動を臆することなく取り入れることができるのは,子どもの算数の学びの定着としても,そして教師の評価活動としても有効な取り組みとなる。
本書は,基幹学力研究会算数側が試みた国語,算数のコラボへの実験的な挑戦の記録である。取り組みはまだ始まったばかりなので,いろいろと課題はあると思われる。読者諸氏の忌憚のないご意見を賜り,さらに価値ある横断的な活動へと発展させていくことができればすばらしい。
最後になったが,本書の企画,編集に当たって,明治図書の樋口雅子氏,矢口郁雄氏には細部にわたってお世話になった。感謝申し上げる次第である。
2011年6月 /田中 博史
-
- 明治図書
- 授業のふり返りについて考える際に参考になった。ふり返りの1つに日記という形を取り入れてみたい。2022/2/2820代・小学校教員