- プロローグ
- [1] 学級集団づくりの落とし穴
- 1「人権教育はだいっ嫌い」 /2学級集団づくりの落とし穴にご用心!
- [2] 教師になるということ 教師は子どもたちによって,教師にしてもらう
- 1新任のわたしとムッチャンの出会い /2教育は「今日行くこと」 /3対決 /4悪戦苦闘中のあなたへ
- [3] 学級の始まり クラス開きは教師の「自分開き」かも
- 1「思い出に残るせんせい」って? /2クラス開き〜赤い糸で結ばれた不思議な出会い /3対話が始まる /4自分を開くということ
- [4] 教師の立ち位置 明るいところからは明るいものしか見えない
- 1学習された無力感と試し行為 /2だれをクラスの中心に据えるのか? /3教師の立ち位置 /4子どもの暮らしが見えるとき /5教師の立ち位置が,子どもとシンクロするとき
- [5] 「今を生きる」ことが絡み合う生活班づくり
- 1教え子の出産 /2学級は,人生が絡み合う時間と空間を共有するところ /3生活班がめざすのはなにか? /4生活班づくりのスキル /5「赤ちゃんができた」コール・その後
- [6] 子どもがつながる 生活班が創る世界
- 1子ども観を鍛える /2メインテーマは「子どもたちにラブレターを書く」 /3子どものエンパワメント /4エンパワメントは連鎖する /5「支えることで支えられる」〜インタラクティブなベクトル /6学級にある真実
- [7] 子どもとの交換ノート 日記指導はがっかりすることから始まる
- 1生活ノートは何のため? /2生活ノートを深めるしかけ /3日記指導はがっかりすることから始まる /4生活ノートで対話を楽しもう /5行間を読む。思いを馳せる。暮らしを嗅ぐ。6班ノートと家庭学習帳の機能を分ける /7子どもたちをつなぐ・紡ぐ
- [8] 学級通信で紡ぐクラス メッセージ性のある学級通信を
- 1親戚にまで配られた学級通信 /2学級通信は効果があるか /3個性あふれる学級通信 /4学級通信に大切な要素 /5タイトルにも愛と個性を
- [9] 家庭訪問のすすめ 子どもを丸ごと理解するために
- 1家庭訪問は迷惑?プライバシーの侵害? /2まずは「お試し」の春の恒例家庭訪問 /3「今どきの親」とつながる家庭訪問 /4トラブル解決のための家庭訪問とチームワーク /5これぞ,子育て支援のお手本 /6子どもの行為の後ろにあるもの
- [10] 協同的学びのある授業づくり 「教室はまちがうところだ」
- 1授業開き /2「暗記もの」に強くなる愛の鞭 /3授業の技を磨く /4知的好奇心が入口,ゴールは「あ〜そうか!分かった!」の声 /5「効果のある」学校づくりと授業改善
- [11] 学級のインクルージョン スペシャルニーズをもつ子どもとともに
- 1初めて教え子をたたいてしまった日 /2矛盾した自分をかかえて生きる /3インクルーシブな学校・クラス /4障害者への差別事象 /5障害のある子のクラス担任として /6ジャンケンポンのマラソン大会
- [12] 不登校の子どもとともに 「わたしはいま,とぎれてつけなおす はたのとちゅう」
- 1わたしの最大の失敗 /2不登校をめぐって /3不登校の子どもと担任 /4情緒不安定な子どもの場合〜生きる意欲のエンパワメントを /5生活が昼夜逆転したチカの場合
- [13] 自尊感情とレジリエンス 自分が好き・仲間が好き
- 1自尊感情が低い子どもたち /2自尊感情は,生きるためのエネルギー源 /3わたしが「わたし」を越えるとき
- [14] 「小1プロブレム」の学級づくり
- 1「小1プロブレム」と,その後 /2萱野小学校でのアクションリサーチ /3「ババア」と「おっぱい」と「ひとりぼっち」 /4萱野小1年生の人間関係トレーニング
- [15] 感情のワーク エモーショナルリテラシーを育てる
- 1感情のポスター「いま,どんなきもち?」 /2自分のきもちに気づき,言葉で伝えるトレーニング /3非言語コミュニケーションのトレーニング /4自分と違う感じ方もあることに気づく
- [16] 怒りのコントロールと聴いてもらう心地よさ
- 1怒りや悲しみは悪い感情ではない /2怒り,荒ぶる子どもへのまなざし /3怒りをずらすということ /4聴いてもらう心地よさ
- [17] 部落問題学習に挑戦 部落史をどう教えるか?
- 1 20年ぶりの「ごめん」 /2部落史をどう教えるか /3加差別のまなざしや偏見に気づくことから /4今なお,ピラミッド型で身分制度を説明?
- [18] 生き方につながる人権学習を
- 1大学の同和教育講義で /2「寝た子を起こすな」論と「過度の一般化」 /3当事者性を持つということ /4変化と気づき /5一歩でも近づく努力を /6人権教育をメインストリームに
- エピローグ 若いせんせいへ 愛を込めてバトンタッチ!
プロローグ
日本には,「せんせい」と呼ばれる教育関係者が125万人以上いる(平成16年文科省学校教員統計調査)。そのせんせいたちの世界が,今,まるで地殻変動のように,大きなうねりをもって動き始めている。団塊世代教員の大量退職と,新規教員の大量採用が同時進行しており,かつてないほどの大規模な世代交代が,急速に進んでいるのだ。このまま行けば,全国的規模で教員不足が起きるという,教育社会学者の試算もある。教員不足もさることながら,教育の質や技術不足も懸念されており,各地で若いせんせい向けの塾も盛んだ。
この本は,若いせんせい向けに,人権教育をベースとした子ども観や学級集団づくりなどについて,まとめたものだ。学級づくりや子ども理解に真剣に悩んでいるせんせい,子どもたちときちんと向かい合ってみたいと思っているせんせい,そして,そんな若いせんせいを応援したいと思っている先輩せんせいへのエールと思って,書き続けた。
新規採用が少なくて,40歳近い教師が「若手」と呼ばれていた2000年ごろまでは,高齢化した教職員集団と子ども集団とのジェネレーションギャップは覆いようもなかった。急変しつつあった子ども理解には,大きなエネルギーが必要とされたし,体力を使う学校行事運営なども大変だった。近年の若いせんせいの大量デビューは,子どもとのジェネレーションギャップを埋め,学校に若々しい活気をもたらしてくれるものとして,大歓迎されている。
だが,安堵ばかりはしていられない。10年後,小学校では,今いる現教職員の半数は退職して,新任教員と入れ替わっている。ベテラン教職員の学級集団づくりや授業のスキルをどう継承していくのか,これは一大事だ。折しも,義務教育は戦後最大の教育改革といわれる時代に突入し,大きく変わろうとしている。一方で,学校がかかえる課題は山積しており,いじめ,不登校,小1プロブレム,学級崩壊,学力の二極化や学ぶ意欲の低下,人間関係づくりや学級集団づくり等,枚挙にいとまがない。若い教師の出番は多いし,ベテラン教師のコーチングはいっそう重要になっている。人権教育をベースにしたアプローチは,こうした時代だからこそ,いっそうきちんとバトンタッチする必要がある。
* * *
そんなさなかに,わたしは長年にわたる中学校教師生活から大学教員生活へと,思わぬ人生の「とらばーゆ」を経験した。今は大学で,人権教育や教員養成に関わっている。振り返ってみれば,わたしは大阪府松原市の,校区に同和地区を有する学校(以下,同推校)で新任としてスタートし,次に同推校に隣接している学校,さらに行政区に同和地区を有さない一般校へと転勤し,最後は八尾市の同推校に勤めた。その間に,大阪府人権教育研究協議会事務局の仕事にも就き,2004年に大阪で開かれた全国人権・同和教育研究大会(全同教大会)現地実行委員会のマネージメントにもあたった。ある人からは「波瀾万丈の人生やね」と言われ,ある人からは「大阪の同和教育の歴史を,身をもって辿り歩いていますね」と言われる。
その「波瀾万丈」の教師生活で,子どもたちや保護者から教えてもらってきたこと,子どもの見方,子どもと子どもをつなぐということ,クラスづくりでこだわったこと,授業づくり,その他諸々の話を,成功例や失敗例を交えて,聴いていただこうと思う。この本は,「わたしが愛してやまない学校や子どもたちのことを,これからよろしくね」という思いを込めた若いせんせいへのエール,いや正直に白状すれば「若いせんせいに送るラブレター」だと思っている。
この本は,2005年から雑誌『解放教育』(明治図書)に連載した原稿を,加筆修正したものである。わたしにとっては「ラブレターシリーズ」の3作めにあたる。表紙は,3部作とも槙下晶さんにお願いした。また,文中の写真は,各地に勤務するせんせいたちの力作である。
本の構成は,それぞれの章ごとに,「ガッテン・チェック」欄を設けた。各章のまとめに,あなたの納得度をチェックしながら,読み進めてもらおうと思う。すべてに「ガッテン」できなくとも大丈夫。5年後,10年後に,もしこの本を読み返す機会があれば,また「ガッテン」度も違っていることだろう。
この本はどこから読んでいただいてもいい。あなたの必要度・緊急度・関心度に応じて,どこからでもどうぞ。この本の中には,あなたのクラスの「気になるあの子」とそっくりの子どもが,登場するだろう。読み進めるうちに,「早くあの子に会いたくなったなあ」「子どもって,やっぱり,いいよなあ」と,子どもたちに愛を感じてくれたら,うれしい。「よしっ!やるっきゃないな!」という覚悟と勇気が沸いてきたら,それはわたしの本望だ。
さて,この本を読んでくださるあなたに,わたしのラブレターは届くだろうか?
(なお,文中の人物名は,すべて仮名であり,使用した写真は,文中の登場人物とは関係ない。)
(写真省略)
子どもをつなぐ視点で、もう一度自分の学級経営を点検したいと思いました。