- はじめに
- 本書の読み進め方
- T部 コミュニケーション行動の形成への挑戦
- 1章 話し言葉のない子どものコミュニケーション指導の考え方
- 1 行動分析の約束事:行動分析の「イロハ」+α
- 「イ」:気になる行動の前と後の出来事を記録する/ 「ロ」:行動に対する働きかけの役割を推測する/ 「ハ」:行動の学習パターンを見分ける/ 臨床のための「+α」:行動の役割(機能)に注目する
- 2 行動分析の「イロハ」+αと行動分析の専門用語
- 3 コミュニケーション指導に対する無関心
- 4 コミュニケーション指導の基本的な戦略の変遷
- 離散型指導からフリー・オペラント法や機会利用型への移行/ コミュニケーション行動の型から機能への関心の移行
- 2章 コミュニケーション指導のアウトライン:コミュニケーション指導チャートの提案
- 1 コミュニケーション指導という航海のための新しい海図作り
- 2 初期プログラム
- 3 非音声言語指導ルート
- 4 音声言語指導ルート
- 5 視覚弁別学習ルート
- 6 書字コミュニケーション指導ルート
- 7 御用学習ルート
- 8 コミュニケーション高次化ルート
- 9 実際の指導チャートの運用と注意点
- 3章 行動形成の原理と戦術
- 1 行動を増やす(強化する)ためのポイント
- 行動の学習パターン:「正の強化」と「負の強化」/ 「強化」と「強化のつもり」:子どもの様子を観察する力の必要性/ 指導者の対応のマンネリ化の問題:飽和/ 強化刺激の種類/ 毎回ほめなくても行動は続いていく:強化スケジュール
- 2 行動形成の基本戦術
- シェーピング(形成化)とその手法としてのプロンプティングとプロンプト・フェーディング/ プロンプトは消し去らねばならないのか/ 課題分析とチェイニング(連鎖化)
- 3 行動形成の応用戦術1:コミュニケーション指導領域
- 消去沸騰のコミュニケーション指導への応用/ 機会利用型指導法
- 4 行動形成の応用戦術2:指導全般
- 確立操作/ プレマックの原理/ トークン・エコノミー(システム)/ 維持と般化(対人・場面)
- 4章 コミュニケーション行動の形成の実際
- 1 発声頻度の増加の取り組み
- 事例の概要/ 指導の方針/ 指導経過とまとめ
- 2 野球遊び場面を使って二語文の要求語を教える
- 事例の概要/ 指導の方針/ 指導経過とまとめ
- 3 VOCAを使って二語文要求行動を教える
- 事例の概要/ 指導の方針/ 指導経過とまとめ
- 4 報告行動を教える
- 事例の概要/ 指導の方針/ 指導経過とまとめ
- 5 交渉の意味と楽しさを教える
- 事例の概要/ 指導の方針/ 指導経過とまとめ
- U部 よりよい発達障害臨床の専門家をめざして
- 1章 取り組みをひとりよがりにしないコツ:自分の見立ては,必ずしも正しくはない
- 1 自分の臨床を見つめるもう一人の自分をつくる方法
- 2 取り組みを成功に導く方法:操作的定義
- 3 記録の方法
- 何を記録していくのか/ どのように記録していくのか/ 分析結果の確からしさを示す方法:一致率/ 記録の限界と負担
- 4 チームで取り組むことに躊躇しない
- 2章 シングルケースデザインを学ぼう
- 1 シングルケースデザインの基本的な考え方とそれぞれの特徴
- 2 シンプルな記録
- 3 ABデザインとABABデザイン(反転デザイン)
- 4 多層ベースラインデザイン(マルチベースラインデザイン)
- 5 条件変更デザイン
- 6 基準変更デザイン
- 7 シングルケースデザインの学習に向けて
- 文献
- おわりに
はじめに
『はじめて読む行動分析の本・1 子どもたちの抱える行動上の問題への挑戦』は,行動分析を使って子どもたちの行動上の問題に取り組もうとする人たちに読んでもらいたいと思って書かれた本でした。本書は,その続編となります。本来,行動分析に基づく行動の形成および低減は,セットとして本に書かれることが多いものです。私も当初そのような形態で本の企画を考えておりましたが,書き進めるうちに内容が少しずつ膨らんでいきました。わかりやすく,読みやすい行動分析の入門書をめざしていたのですが,できあがる本は,分厚くいかめしい本になってしまいそうでした。そこで,勇気をもって2分冊のイメージで本を作り直したものが,本書と先に挙げた『子どもたちの抱える行動上の問題への挑戦』です。『子どもたちの抱える行動上の問題への挑戦』が,先に述べたように行動上の問題の低減に取り組もうとする人たちのために書かれているのに対し,本書は,行動の形成,特にコミュニケーション行動の形成を扱っています。
私の発達障害臨床は,自傷行動といった行動上の問題に直面している子どもたちの支援や指導からはじまりました。実際に指導していく中で行動上の問題が解決に向かいはじめると,そこに見えてくるのは,コミュニケーションの問題であったり,また,コミュニケーションの問題が行動上の問題に直結していたりする状況でした。つまり行動上の問題への取り組みは,コミュニケーション指導と表裏一体だったのです。そして,私がコミュニケーションの指導方法を学びはじめた頃は,「言葉のない子どもに話し言葉を何とか獲得させられないか」といった方向性が強い時期でした。そのような雰囲気の中,私自身,コミュニケーションの指導を「話し言葉」の指導と思いこみ,「話し言葉」の獲得を目標とした取り組みを脇目もふらずに行っていた時期がありました。
あるお子さんは,3年間にもわたる自傷行動への取り組みの後にようやく本格的なコミュニケーション指導をはじめることができるようになりました。私は,なんとか「話し言葉」をと思い取り組みましたが,力及ばず,彼の「話し言葉」の獲得を支援できませんでした。その後,私は簡単なサインを教えながらも,彼の「話し言葉」の獲得を追い続けていました。彼が小学校の高学年になった頃,教えていたサインを家庭で,祖父に対して使ったという母親の話を聞き,私は愕然とすることになります。指導者が教えようとしたことではなく,指導者が補助的に教えていたことを使って彼が家庭でコミュニケーションをしていたのです。私はこれまでの私の指導の考え方が大きな間違いを犯していたことに気づかされました。コミュニケーション指導は,「話し言葉」の指導ではなく,「人とやり取りをする方法」を教えることだったのです。本書は,このような私の思いこみを自らの時間と多くのものを犠牲にして修正してくれた子どもたちや,保護者の善意の上に成立しています。これまで,私が経験してきたこと,考えてきたこと,子どもたちに教えてもらったことを整理する必要があると考え,遅い筆で綴ってきたのが本書です。この本をたたき台にすることにより洗練されたコミュニケーションの指導のあり方の議論が進むことを願っております。
また,本書は,行動分析の初学者や,行動分析を通して実践をより洗練したいと考える人も読むことを想定し,2章から構成されるU部「よりよい発達障害臨床の専門家をめざして」も含んでいます。データの収集や,シングルケースデザインの初歩を学ぶことができます。是非,手にとって読んでみてください。
著者 /肥後 祥治
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- 明治図書
- abaは特別支援教育において大変重要であり、もっと学習の機会ああれば良いと思う。2018/4/1240代・男性