- はじめに
- T 人間を尊敬すること
- 一 水平社宣言・綱領のこと
- 1 西光万吉さんのこと
- 2 水平社宣言のこと
- 3 水平社綱領と阪本清一郎さん
- 4 松本治一郎さんのこと
- 二 同対審答申への道
- 1 部落解放全国委の結成のこと
- U 表現の自由のこと差別表現のこと
- 1 『無人警察』と『断筆宣言』のこと
- 2 言論弾圧の歴史のこと
- 3 ニュース源秘匿事件のこと
- 4 人の名誉を守ること
- 5 『最近新聞紙学』のこと
- 6 「特殊部落的偏狭さ」のこと
- 7 「長吏」と司馬遼太郎さん
- V 人権の世紀に向けて
- 1 国連人権教育10年のこと
- 2 人権教育のこと
- 3 二つの「もしも…ならば」
- あとがき
はじめに
人間が、人間を侮辱し、差別をすることはゆるされない、という強いおもいがあります。「人間は、みな、ひとり、ひとり生命をいただき、魂をもっている、志をつらぬこうとしている、その人間を踏みつけにすることは、何人にも、あってはならない」それが「人間を尊敬すること」「人間に光あれ」の精神であると水平社宣言を書かれた西光万吉さんに教えられました。この本の表題は、そこからいただいています。
徳川幕藩体制がたおれたのが一八六八年ですから、およそ一三〇年前になります。その四年後に出た太政官布告(身分解放令)から五〇年後の一九二二年に日本の人権宣言である水平社宣言が発せられ「自ら解放せんとする」ものの「人類最高の完成へむかって突進」する自主・自立の人間解放運動が出発します。日本の近代化、民主化の歴史の流れの中でこれは画期的なことです。アジアの民にたいする植民地支配、侵略戦争の大波に押し流され、解放運動は挫折を余儀なくしますが、戦後の民主主義、基本的人権の尊重という世界人権の歴史のあゆみは、一九六五年八月に国の同和対策審議会の答申を生みます。「重大で深刻な日本の社会問題」である部落差別をなくするのは「国の責務であり、国民的課題である」という指摘は、きわめて重いものです。法律(同和対策事業特別措置法)にもとづく同和行政の出番です。環境改善を中心とする、目に見える実態差別の解消へこの二八年間、大きく前進をしました。
一九九七年三月、五年間限りとする二つの時限立法が成立しました。「人権擁護施策推進法」がその一つです。審議会をつくり、そこで人権教育・啓発の推進と、人権侵害にたいする救済策をつくってもらう、というものです。もう一つが、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(略して地対財特法)の一部改正です。同和行政を推進するための特別立法をあと五年のこす、というのです。部落差別が現存する限りは、憲法と同和対策審議会の答申にもとづいて、一般行政の施策の中で、同和対策をする国と地方自治体の責務はつづきます。そこで五年間の経過措置を講じスムーズな移行をはかろう、とする主旨です。一九九六年五月、地域改善対策協議会が政府におこなった意見具申は「人権教育・人権啓発」のために「同和問題を現実の課題として、あらゆる人権にかかわる問題の解決につなげていくという広がり」のある取り組みを提言しています。
一九九七年七月四日には、政府が「人権教育のための国連 年に関する国内行動計画」を正式に発表しました。この行動計画は、 世紀を人権の世紀にするために二〇〇四年までつづきます。「人権の世紀へ向けて」というサブタイトルは、ここからとりました。
「表現の自由のこと差別表現のこと」は話すこと、書くこと、学ぶこと、コミュニケーションすることの重さをかみしめて考える手がかりに記した私のノートです。
一九九八年三月
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- 明治図書