- まえがき
- T 学習できる環境づくりのポイント
- [1] 勉強できる習慣をつける秘訣
- ドクターの経験エキス:なぜ,できない子が「投げやり」に問題集をやるのか? 好ましくないやり方で勉強するようになるのか?
- [2] 保護者はほめる習慣をつけよう
- [3] 待つべきタイミングで“待つ”
- [4] しつけの3原則を教えよう
- ドクターの経験エキス:基礎・基本の習得は容易なのか?
- [5] 最初に始める学習――絵本の読み聞かせ
- ドクターの経験エキス:絵本の読み聞かせの,授業への応用
- [6] 読み聞かせと並行の「お手伝い」
- ドクターの経験エキス:わが家の場合
- ドクターの経験エキス:「毎日少しずつ」の体験こそ,早道
- U 勉強に入る前にやると効果絶大“フィンガーカラーリング”
- [1] なぜ,字を書くのをいやがるのか――微細運動障害の存在
- ドクターの経験エキス:小麦粉粘土遊び
- [2] いつからやるのか――時を逸する完全主義
- ドクターの経験エキス:自閉症とフィンガーカラーリング
- [3] 準備するもの
- [4] 最初に保護者がやること
- [5] 色をつくる
- [6] パレットと紙を,毎回,往復する
- [7] なぜ,フィンガーカラーリングが微細運動障害や協調運動障害のリハビリテーションになるのか?
- [8] 5分でおしまい,続きは明日
- [9] フィンガーカラーリングの発展バージョン
- [10] 自閉症がある子どもへの応用
- ドクターの経験エキス:ママがする自閉症児の家庭療育──HACプログラム
- [11] フィンガーカラーリングの事例紹介
- [12] フィンガーカラーリングは美術につながるか
- ドクターの経験エキス:優れた実践は,技術面でも情意面でも同じ評価が下る?
- V 小学校に入る前に
- ――文字とたし算を教える
- [1] 読むほうから先にできる――ベストタイミング
- [2] 読むほうができないうちに書けるのは,悪い知らせかも
- [3] 勉強ができる楽しさを教える――適切な時期を待つ!
- [4] 書く練習を始められる条件とは
- [5] ひらがなもカタカナも漢字も,全部同じやり方で覚える
- [6] 指を使ったたし算ができる
- ドクターの経験エキス:一次反抗期とは
- W 小学1年生にやらせること
- [1] 入学式のその日から始めること
- [2] 1学期の目標は……
- ドクターの経験エキス:「お手伝いの大切さ」を保護者にどう説明しているか?
- [3] ゴールデンウィークの過ごし方
- [4] 算数指導の山はどこ?
- ドクターの経験エキス:算数ができないとさくらんぼ計算――統計学的検討
- [5] 指での計算を教える
- [6] 百玉そろばんを利用する子どももいる
- ドクターの経験エキス:微細運動障害がある軽度発達障害の子どもになってみる疑似体験をおすすめしたい。百玉そろばんのよさがわかるだろう。
- [7] 夏休みこそ,勉強の期間
- [8] 漢字練習のツボ
- [9] 繰り上がりのたし算の考え方
- [10] 繰り上がりのたし算には種類がある――さくらんぼ計算を強制する理由
- [11] 繰り上がりのたし算――どの方法が必須なのか
- [12] 繰り下がりのひき算
- ドクターの経験エキス:なぜ,教科書の減加法を使わないのか?
- [13] 算数に余裕が出てきたら国語へ,視写から始める
- [14] 視写がダメなら,なぞり書きで
- ドクターの経験エキス:正しい音読の仕方
- [15] 漢字はできて当たり前
- ドクターの経験エキス:漢字とひらがな,どっちが難しい?
- [16] 余裕があれば,加減算の文章題へ
- X 小学2
- 〜3年生にやらせること
- [1] 5−10−□−20−25
- [2] 時計学習がいらない理由
- [3] cmとmm
- [4] かけ算の練習――文章題の練習を
- ドクターの経験エキス:九九の歌は有用か──教育技術を評価するには
- [5] 大きな数とノートスキル
- [6] 『グレーゾーンの子どもに対応した算数ワーク』への移行
- [7] 視写字数が増えてきたら『グレーゾーンの子どもに対応した作文ワーク』へ
- [8] 『グレーゾーンの子どもに対応した作文ワーク』の作成原理
- [9] 『グレーゾーンの子どもに対応した作文ワーク』が開いた新しい地平
- ドクターの経験エキス:言語発達遅滞の子どもの手紙が,コンクールで「優秀賞」を受賞
- Y 小学4年生以降にやらせること
- [1] 日記指導のコツ
- [2] 『グレーゾーンの子どもに対応した算数ワーク』
- ドクターの経験エキス:算数の学習不振児と『グレーゾーンの子どもに対応した算数ワーク』
- [3] 『楽しく力がつく作文ワーク』(野口芳宏編)
- [4] 前思春期の子どもたちの特質
- [5] 4年生の「読み・書き・算」を身につけた後の学習指導
- ドクターの経験エキス:大人は本当に大丈夫?
- [6] 4年生の「読み・書き・算」を身につけられそうにない場合
- [7] 自分を試したい――思春期の指導原則
- ドクターの経験エキス:「心の黒板」ができていない場合
- [8] アルバイトのすすめ
- Z 解説編
- [1] 教育目標分類学を利用する
- ドクターの経験エキス:ある問題解決型学習の授業にて
- ドクターの経験エキス:教育目標を記載するときに留意すべき提言(RUMBAの法則)
- [2] 問題解決という用語の理解
- [3] 教育目標分類学から見えてくること
- [4] 教科書単元の系統性を探る
- ドクターの経験エキス:私が経験した変な指導の例
- ドクターの経験エキス:学校の教師と私との違い
まえがき
本書は,診断と治療社から発行された『軽度発達障害の臨床〜レッテル張りで終わらせない 良き成長のための診療・子育てから始める支援〜』の姉妹書として企画された。同書が医療関係者向けの出版社から発行されたこともあって,軽度発達障害がある子どもにいかに学力をつけていくかという教育技術に関して,具体的に記載しきれなかったからである。
当初,私は本書を容易に脱稿できると考えていたが,実際には大変な時間がかかった。『軽度発達障害の臨床〜レッテル張りで終わらせない 良き成長のための診療・子育てから始める支援〜』には,2005年発行予定と記載しておきながら,さらに3年の時間がかかった。その間,何度も,読者から発行についての質問が寄せられた。誠に申し訳ない。
大森修氏との共同作業によって明治図書から2004年に発行した『医学と教育との連携で生まれたグレーゾーンの子どもに対応した作文ワーク』や,2006年に発行した『医学と教育との連携で生まれたグレーゾーンの子どもに対応した算数ワーク』が,利用できるようになり,通常学級に在籍することが望ましい発達障害がある子どもに,より効率的な指導ができるようになった。
本書の発行が遅れたのは,ひとえに私の努力不足が理由であるが,遅れたことでよいこともあった。それは,上述の作文ワークや算数ワークの効果的な指導法を本書に書き加えられたことだ。
作文ワークや算数ワークを監修させていただいたことで,一番鍛えられたのは,実は私である。いわゆる成人教育における「hidden curriculum(隠れたカリキュラム)」だ。ここでいうhidden curriculumとは,だれかに何かを教えるときには,そのことについて,教える側がより深く知っていなければならないので,教える側が勉強させられることを指している。
監修作業の中から生まれたいくつかのテクニックは,現在,私が学生や保護者を指導する場面で生かされている。加えて,ごく最近になって,算数指導におけるpitfallに,なぜ教師が陥るかも,私なりに理解できてきた。
その一端を示すために,本書第Z章では,あえて,医師である私が専門外の教育目標分類学の基礎・基本を提示し,本書の指導方法がどのように組み立てられているかを解説した。
第Z章の解説編は教育関係者向けであり,特別支援教育にかかわるすべての方にとって必要な知識でもある。本来,個別支援計画(IEP)を作成する方は,解説編程度の知識を使いこなせなければ,子どもによかれと思って悪しきことをなしても,自分の間違いに気がつけないことだろう。
本書を書き上げて感じたことは,軽度発達障害がある子どもに使われる教育手法が,障害がない子どもに使われても,何らの問題が生じないことだ。本書のテクニックは,いずれも最低限を保証するためであることを考えれば,当然かもしれないが。
最近,軽度発達障害という用語を文部科学省は使わないことにしたが,本書ではあえて残した。従来の特殊教育の枠組みでの支援が必要な子どもが,主たる対象ではないことを意味したいがためである。
もちろん,軽度発達障害がある子どもの指導が,すべて通常学級での指導が望ましいと言いたいわけではない。高機能自閉症やアスペルガー症候群がある子どもや,何らかの併存障害を発症した子どもにとって,通常学級での指導が,子ども自身にとってふさわしくないことも当然あり得る。また,AD/HDやLDという診断があっても,ボーダーラインの知的障害があれば,通常学級の指導では,十分な指導たり得ないこともある。
文末ではあるが,本書を発行するにあたり,粘り強く私を叱咤激励し続けてくださった明治図書の樋口雅子編集長に,御礼申し上げたい。
また,本書に子どもたちが書いたニャッキ!の掲載をご許可くださった原作者の伊藤有壱氏にも深謝したい。
本書が,多くの子どもたちの指導に役立つことを願っている。
2008年7月 仙台の自宅にて /横山 浩之
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