- はじめに
- T 今どきの子どもって
- (1) アポなしでは遊べない
- (2) ルールのある集団遊びができない
- (3) 似たもの同士の小グループ化現象
- (4) 仲良しグループは異質な他者を排除する?
- (5) グループから抜け出られない子たち
- (6) いじめを解決するのは子どもたち――エンパワメントしよう
- (7) チクリを怖れる子どもたち
- (8) 「チクリ」を「相談」にシフト変換
- U いじめの実態と構造に迫る
- (9) 低学年のいじめっ子と高学年のいじめっ子の違い
- (10) いじめの隠ぺい化と加害の正当化――こうしていじめは見えなくなる
- (11) 仲良しでない子へのいじめと仲良しグループ内部のいじめ
- (12) 仲良しグループ内部のいじめの解決法
- (13) 仲良しでない子へのいじめの解決法
- (14) いじめをやめさせるための先生と親の関わり方
- (15) いじめの定義とは?
- (16) いじめとけんかの違いを学ぼう
- V 子どもたちの心の叫びに耳を傾けて
- (17) 自己確認を求めて葛藤する思春期
- (18) おとなの管理から脱却を図る子たち
- (19) おとな同志の連携が求められる
- (20) 小学生の対教師暴力ってほんとにあるの?
- (21) 反抗的な子の思いをつかもう
- (22) ピンチをチャンスに
- (23) 平等とは?みんな同じではない
- (24) 一人一人を受け止めて
- W 人間関係づくりの学び
- (25) 共感型コミュニケーションスキルを
- (26) アサーショントレーニングによる非攻撃的自己主張
- (27) 対立解決法を学ぼう――ウィン・ウィン解決法
- (28) 遊びを組織する
- (29) 「遊び」は、人間関係づくりのトレーニング
- (30) 今、なぜ班活動なのか
- (31) 教科学習も、班で学び合おう
- (32) ピアサポートを取り入れた班活動
- (33) 班長と班員とのホットなつながり
- X 自分探し、生き方探しの人権学習
- (34) 労働の学びで、人間としての誇りと家族の思いに気づく
- (35) 障がい者問題を通して自分を見つめる
- (36) いのちの学習で、かけがえのない命の輝きを
- (37) 語り合ってつながる子たち
- 資料 人間関係づくりのためのワークシート
- おわりに
はじめに
私は、2004年の8月から約1年半「カウンセリングを生かした子どもの人間関係作り」というメールマガジンを週1回出していました。
そのときは、大阪のある小学校で、担任をしていましたが、子どもの心がなかなか見えず、苦しんだり悩んだりすることが多い毎日でした。それでも、ときに、子どもたちの成長を垣間見て、それが一滴の清涼水のように私の心に喜びをもたらせてくれました。私が苦しい時は、子どもはもっと苦しんでいる、あのときのあの子はこうだったから、この子もきっとこうにちがいない、この子には、こういう関わりが必要なのではないか、などと、私は、過去20数年の教師体験をふり返りながら、数々の子どもたちの顔を思い浮かべながら、私自身の子どもへの関わりを整理するために、メールマガジンを書き続けてきました。書き綴ることで、自分を励ましてきました。また、不特定多数の方へのメールマガジン発行という手段を使ってのネット上のコミュニケーションは、それを読んで下さった教員やそれ以外の職種の方からも多くの共感や励ましをいただき、それがまた私に元気と勇気をもたらしてくれました。
発行したメールマガジンは、全部で80号ほどですが、そのうち30号までは、すでに明治図書からこの本の同シリーズで「かず先生のメルマガ通信―心理学から読み解く子どもの人間関係」として2005年に出版されています。
すでにあれから3年の月日が流れましたが、今回、その残りの31号からを加筆修正したものが、この本書「アンチいじめ大作戦―かけがえのない命の輝きを」です。
本書は、いじめが起こったときの対応策だけでなく、いじめがどのような状況で生み出されていくのかについて、いろいろな角度から書いています。いじめは、どの学校でもどのクラスでも起こり得ることなのです。ただし、発覚するのがおくれると、事が進行し、それだけ解決は難しくなります。いじめは、できるだけそれを生み出さないようにすると同時に、たとえ起こってもできるだけ初期のいじめの小さな芽のうちに解決し、子どもたちに「自分で解決できた」という自信と安心感を与えることが大切です。
本書は、Tは、いじめを生み出す状況について、Uでは、いじめの構造について、Vでは、いじめに走る子どもの心理について、WとXでは、豊かな人間関係づくりについて、それぞれ子どもたちの事例を紹介しています。
教育現場は、日増しに、過酷さを増しています。子どもたちの抱えている課題も多岐に渡り、非常に厳しいものがあります。いじめ問題一つをとっても、そこから派生する保護者の不安や学校不信、教員のストレスや心身症など、多くの問題をはらんでいます。
しかし、マスコミの事件報道には現れないところで、全国のたくさんの先生達は、常に子どものことを考え、心を砕き、多忙の中、走り回っています。日本の教員ほど、教科指導だけでなく多くのことを丸抱えしながら、しかも、あちこち研修に参加して授業のスキルを伸ばそうとする熱心な教員はいないのではないかと思われるくらいです。そんな先生達をなんとかして元気づけたい、そのためには、子どもたちの気持ちや集団の分析を行い、いじめの予防・解決に向けて、教室における子どもへの関わり方、子ども同士の人間関係づくりのメソッドを打ち立てたいという思いで、私は研究者としての道を歩み始めました。今、私は、小学校教員を退職して、大学の教員をしています。
いじめは、単に加害者、被害者の個人の問題ではなく、その背景に集団の構造があります。人と人との関係性の問題があります。個人の意識の変容や思いやりだけでは解決しない問題が含まれています。私は、そこのところに、人権教育の観点から迫っていきたいと考えています。
さらにいえば、子どもたちのいじめを生み出す構造は、おとな社会にあるといってもいいでしょう。いじめ問題を考えるということは、私たちおとなのあり方や生き方を問い直すものです。社会が悪いからと投げ出すのではなく、私たちおとな一人一人が自分にできることを見つけていくことで、小さな一歩でも踏み出していくことで、社会は変わるのです。教員だけでなく、子どもを持つお母さんお父さんとして、また、地域の一員として、いろいろな角度からいろいろな立場の方が、この本を読んで何かしら気づいていただけたらと、そんな思いでこの本を書きました。
いじめを予防・解決するという方向性は、人としての関わりやつながりの質を塗り替えることでもあります。競争的で排他的な人との関係ではなく、共感的で、創造的な関係のあり方を模索することでもあります。人とつながったときに感じる喜びや幸福感は、これからの社会を良くしていこうというエネルギーの源になります。
「いじめや差別なんて人間の本性だからなくならない」と言う人がいます。「では、あなたはいじめや差別をして生きていくのですか?」と問い返したいです。だれしも心の中にいじめや差別の心を持っているかもしれません。でも、人はみな、だれかと共感したい、分かり合いたいという気持ちも持っています。いじめや差別をしたいと思って生きているわけではありません。どうすれば、人と共感したり分かり合えたりするのか、いじめや差別で苦しんでいる人たちに自分は何ができるのか、それを考えていけるのも人間のすばらしさであると、私は信じています。
いじめや差別のことを考えるのは、単にいじめ予防・解決のためではなく、未来の共生社会を創る一人一人の生き方を問うものだと思います。
なお、本書では、多くの子どもの事例が出てきますが、プライバシーに配慮し、いくつかの事象を組み合わせたり一部を変えて構成しています。子どもの名前もすべて仮名です。
2008年3月 /松下 一世
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- 明治図書