癒しの教育相談―ホリスティックな臨床教育事例集3ホリスティックな学校づくり 保護者への援助

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いじめ等の教育相談/登校拒否の教育相談/自殺念慮の教育相談/神経症の教育相談/帰国子女の教育相談など,癒しの教育が人を変える姿を示す。


復刊時予価: 2,904円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-017929-6
ジャンル:
教育学一般
刊行:
対象:
小・中・他
仕様:
A5判 208頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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まえがき
T章 いじめ等の教育相談
[1] いじめに怯える少女(小学校) /松島 純生
1 「先生、転校も考えています」
2 「いじめ」について
3 それまでの指導経過
4 洋子さんの両親について
5 その後の指導経過
6 洋子さんをとりまく子供たち
7 いじめについて
8 子供の成長を願って
[2] 行動する勇気を持ち、みんなの心に訴える活動を!(中学校) /天野 順造
1 百合子(一年)の出来事から
2 意外な盲点(本当の平等とは何だろう)
3 良い風土作りを目指して(見えにくくなったいじめ)
4 いじめ追放委員会ができるまで(生徒総会での特別決議)
5 みんなで勇気を持って一緒にやろうよ
6 心の痛みを知って(初会合の中で)
7 真剣な気持ちがみんなの心を動かす
8 勇気を持った子供たちとともに
[3] 親教育によって学校を楽しい場にする(中学校) /田内 寛人
1 ホリスティックな教育相談 〜保護者への援助〜
2 テーマ 全学年教師担任制
3 テーマ 親教育
U章 登校拒否の教育相談
[1] 「おなかが痛い」と訴え、登校できなくなった三年の宏美さん(小学校)
――登校拒否の背景には、母子分離不安がありました―― /橋本 郁朗
1 「ねえ、ねえ、おかあさん」
2 登校拒否は、どの子にも起こり得る
3 相談の経過
4 本人の主体性を大切に
[2] ホリスティックな教育相談
〜支援・援助の実際(小学校) /渡辺 晴美
1 学校に行きたくない
2 なぜ登校できないのか
3 この子はどんなタイプ
4 登校拒否のタイプから観る
5 心理的理由による登校拒否の症状発現
6 優等生の息切れを見直そう
7 母親の来談始まる
8 長期の入院が登校拒否を起こした児童の理解・対応
[3] 友人関係のつまずきから登校拒否に(中学校)
――「友達に裏切られた」と言う二年生の静子さん―― /相馬 誠一
1 「友達に裏切られた」と泣き叫ぷ静子
2 登校拒否のきっかけは友人関係
3 登校拒否の誘因は学校にある?
4 静子が適応指導教室に
5 臨床教育学の実践の場としての適応指導教室
6 小さな集団の体験を生かす
[4] つくった「受験生活」を演じることにつかれた浪人生の事例 /今村 裕
1 はじめに
2 事例の概要
3 面接の経過
4 おわりに
V章 自殺念慮の教育相談
「なぜ生きてなければいけないの?」
〜生きる力が枯渇、一郎君の場合〜
1 ひ弱な「生命力」 きっかけがあれば「自殺」へ
2 一郎君の生い立ち
3 いやなことがいろいろ
4 来所してくれた
5 生きていることが大事
6 自殺をどう防ぐか
(1) 自殺の危険への危機介入の理由
(2) 危険な徴候
(3) 自殺の神話
(4) 自殺の要因
(5) 自殺企図者へのアプローチ
(6) 生命力を高める方向
W章 神経症の教育相談
/相馬 誠一
学校に行きたいと泣き叫ぶ春子さん
〜神経性頻尿を克服するまで〜
1 神経性頻尿から登校拒否に
2 相談当時の春子さんの様子
3 春子さんの背景
4 援助の目標とその実践例
5 面接経過
6 考察
X章 帰国子女の教育相談
異文化間葛藤の中で不登校におちいった少年
〜その癒しの過程〜
1 異文化接触とメンタル・ヘルス
2 異文化間カウンセリングと芸術療法そして癒し
3 外国人労働者の家族でおこった不登校と心身症の事例
4 環境と子供の症状
5 友達を作ることによる治癒
6 帰国子女・在日外国人児童の友達づくり

まえがき

 神戸市須磨区の小学生殺害事件の容疑者が十四歳の中学生であったことが世間の注目を集めている。

 神戸新聞社に届いた犯行声明に、「透明な存在」という言葉が三回使われているが「透明な存在」とは、自分が生きているという実感や存在感が希薄化し、「いい子」のふりをしている仮面の奥にある自分を殺して生きていることを表現したものといえるのではないか。ある民放がインターネットに、この少年の行動が理解できるかという質問文を流したところ、中学生百人が自発的にアクセスし、「行動は許せないが気持ちはわかる」と答えた者が49人、そのうち6人は「行動もわかる」と答えたという。多くの中学生が「自分も同じ衝動を抑えている」などと共感を示し、快哉を叫ぶ中学生もいたという。

 同声明には、「透明な存在であるボクを造り出した義務教育と、義務教育を生み出した社会への復讐も忘れてはいない」と書かれており、学校や教師への恨みが犯行の動機であったと供述したと報道されている。

 事件の動機や背景の詳細については今後の捜査によって明らかになると思われるが、『週刊朝日』(七月十八日号)によれば、「生徒指導の先生にいきなり頭や腹を殴られた。手が顔に当たって鼻血が出たら、だれかが『目立つから腹を殴ってやる。』とか言い、腹を殴り続けられた。最後に、『お前のような危険なやつは、もう学校に来るな。卒業式にも来るな。』と言われた」「来るなと言われた後で学校に行ったら、『なんで来た。問題が起こるから来るな。』と言われて帰った。もう卒業式にも出られへん。」「先生や学校を困らすために、いい方法はないか教えてくれ。学校や先生に、絶対復讐したる。」と友人に話したという。

 さらに、気になるのは次のように話していることである。「首を切った三匹の猫の胴体を家の床下に置いてたんやけど、変なにおいして、母さんに見つかってしまった。屋根裏に隠していた頭も見つかって、それを母さんは学校に言うたんや。先生に、お前は異常だとか言われて、カウンセリングに通うようになったんや。」

 「カウンセリングのおかげで、俺はいつ外出しても怒られへん。自由になれたんや。学校にも行かなくてええから、毎日、ビデオ屋でいろんなビデオ借りて見てるんや。」

 神戸市児童相談所の村上勝所長によれば、この少年は「非行と不登校の両方の面でカウンセリングを受けていた」ようであるが、週に数回通ったカウンセリングの過程で、「ストレスがたまるので、自由にさせたほうがいい」と言われたため、両親も少年を放任していたと報じられている。

 もしこの報道が事実なら、家庭内暴力をふるう息子を金属バットで殺害した父親に対するカウンセラーの助言と同じ誤りをくり返したことになる。

 そこで、国際医療福祉大学の小田晋教授は、「『少年の自主性を重んじる』と称する『来談者中心』と呼ばれる待機主義的なカウンセリングは、その適応を誤るとこのような事態を招くことが稀でない。」として、「腫れ物にさわるような保護主義」からの脱却を訴えているが、筆者も同感である。

 この事件に関するコメントで心に残ったのは、作家の日野啓三氏が「十四、五歳というのは古来成人儀礼の年齢」であり、「少年の犯行に奇妙な儀式性が感じられるのも、意識下での先祖帰りの衝動ではなかったか。」と指摘した上で、次のように述べていることである。

 「厳格な成人儀礼は、人間の自意識と人間的諸感情の社会意識の額域と意識下の暗い欲動の神話的領域とを、ひとりの個人の内面で統合させる心理的訓練である。その儀礼的訓練のない場合、三つの内面領域はバラバラのままで、とりわけ最下層の欲動の力が中間の人間的感情の領域の制御なしに、ナマの魔的なエネルギーのまま噴出するであろぅ。この質のおぞましい事件は様々な形で起こる気がする。」(七月十日付読売新聞夕刊「成人儀礼なき少年たち」)

 教育の建前論をふりかざす前に、成人儀礼の理念と仕組みを謙虚に学び直す必要があろう。

 もう一つ心に残ったのは、国際日本文化研究センターの河合隼雄所長の次のような指摘である。

 「『癒し』が一種の流行となっている。…『癒し』ということが何だか手軽に行われたり、何かの『マニュアル』に従って行われたりすると…癒しはそれほど単純なことではないし、不可解な部分さえある…『家族』『学校』あるいは、特定の人々を『原因』と考え、それを攻撃し、自分は攻撃する側に回って安心する。……癒しという観点からは、まったく別のことで、それによって傷を深くする人を増やすだけだ、という認識はもたねばならない。癒しの根本は、そのことによる悲しみ、怒り、痛み、などを心のできるかぎり深いところの中心に据え、それはそれとして、日常のしなくてはならぬことを、がっちりと行うことである。」

(七月九日付朝日新聞夕刊「透明なボク 〜神戸小6殺害事件を問う」)

 子供たちの人格や社会性などが育つ基盤は、直接体験を通して人間を含む外界との相互作用を人生の早い時期から豊富に積み重ねることにある。しかし、情報化社会の進行とともに、幼少期から間接体験中心の生活を強いられ、自らの行動を通して外界に働きかける機会が次第に乏しくなってきている。

 間接体験は知識の拡大はもたらすが、経験の印象の強さや鮮やかさでは直接体験の足元にも及ばず、人生の早い時期から間接体験中心の生活を送ることは、子供たちのみずみずしい感性の発達を著しく阻害している。

 情報化社会は、子供たちの経験世界の変容と同時に、慢性的な刺激過剰の状態をもたらしている。情報化社会がもたらした直接経験の減少や、刺激過剰負荷による慢性的な反応性低下が、子供たちの心に深刻な影響を与えており、学校や社会に適応できない子供たちはますます疎外感、孤立感が深まる中で、過激で残忍な情報にのめり込み、凶悪犯罪が増えている。

 今回の事件の容疑者にも、ホラービデオ・漫画や猟奇殺人犯をテーマにした小説などの影響が明らかにみられる。

 この事件の背景には、否定的な教育によって存在感がどんどん希薄化し、自分が自分を肯定的に発見し、人からも受け容れられているという実感や、心が安らぐ心理的居場所≠ェなくなっているという根本的な問題があると思われる。

 このストレスが強まると、漠然とした生理的不快感の〈うざい〉は〈むかつく〉になり、暴力的様相を強める。近年の少年による凶悪犯罪の増加、「オヤジ狩り」の増加の背景には、この問題があるといえる。

 不信感、不安感をつのらせる否定的な教育から、自信と誇り、安心感を持たせる肯定的な教育へのパラダイム転換こそが求められている。


  平成九年七月   編 者

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