障害児教育にチャレンジ32
「自分づくり」を支援する学校
「生活を楽しむ子」をめざして

障害児教育にチャレンジ32「自分づくり」を支援する学校「生活を楽しむ子」をめざして

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活動の源となる自己肯定感を膨らませ自分らしさを発揮させる。

本書では、前著『「生活を楽しむ」授業づくり』以降の3年余りにおける「自分づくり」を支援する学校への「変容」をまとめた。「自分づくり」は授業にとどまらず、行事づくり、校務分掌のあり方などにも視野が広がり、前著の実践をさらに「深化・発展」させている。


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ISBN:
4-18-018546-6
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
2刷
対象:
小・中・高
仕様:
A5判 248頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

発刊にあたって
学校紹介
第T部 「生活を楽しむ子」「自分づくり」とは?
第1章 「生活を楽しむ子」をめざした実践の創造
――「自分づくり」を基盤として
・自分づくりの段階表
第2章 心の育ちをはぐくむ支援のあり方
――「自分づくり」の視点をふまえて
第U部 障害・発達・連携の視点から
第1章 障害の視点から
1 自閉症支援の仮説と研究概要
2 自閉症児の自分づくり――内的支援について
3 実践事例――高機能自閉症児への支援
4 今後の課題
第2章 発達の視点から
1 はじめに
2 取り組みの経過
3 発達とは
4 「自分づくり」とは
5 「自分づくり」を大切にした支援の工夫
第3章 連携の視点から
1 連携グループの研究の概要
2 校内連携・地域連携をすすめるために――支援部の取り組み
コラム みんなおいでよ! 一緒にあそぼう!――地域にひらく「ふよう教室」――
コラム 「今日はサッカー選手になる日だ!」――わかりやすい提示で支援を――
3 若草学園地域療育等支援事業との連携
4 家族支援事業との連携――中学部Yさんの事例――
5 「個別の教育支援計画」案の策定と試行開始
・平成17年度 個別の教育支援計画
第V部 「自分づくり」を基盤とした「授業づくり」
第1章 児童期の自分づくり(小学部の実践)
実践 ちゃぷちゃぷらんどへようこそ
コラム 授業づくりの「いろは」……散りぬるを!
第2章 思春期の自分づくり(中学部)
実践 生活単元学習「うどんつるつる,みんなにこにこ亭」
コラム グループ別の課題学習:国語―「中学部にこにこカルタ」に挑戦
コラム グループ別の課題学習:数学―「すごろくづくり」を通して
コラム 思春期らしい生活単元学習「染めて,染めて,1・2・3!」
第3章 青年期の自分づくり(高等部の実践)
実践 高等部1年「生活一般」 日本文化にふれよう
実践 高等部2年「生活一般」 湖山池に親しもう
コラム 地域での社会生活に向けて――「自分づくり」の視点からの支援のあり方――
コラム アンニョンハセヨ!――韓国との交流――
コラム もうすぐ中学進学!! だけど…… ――藤で揺れるTくん――
第W部 「自分づくり」の実践・研究に寄せて
第1章 教育学の立場から
――「授業づくり」の醍醐味
コラム 渡部原稿を読んで
第2章 医学の立場から
――養護学校校医の心得
第3章 教育臨床心理学の立場から
――スクールカウンセラーとして教育実践を眺める
第X部 「変容」する学校
第1章 「変容」する学校
あとがき
研究同人

発刊にあたって

○前著への反響

 前著『「生活を楽しむ」授業づくり――QOLの理念で取り組む養護学校の実践』(入江克己・渡部昭男監修,鳥取大学教育地域学部附属養護学校著,2002年2月刊)を明治図書から出版して3年余りが過ぎました。うれしいことに,大きな反響を得て,現在は5刷目となっています。

 鳥取県名産の二十世紀梨の色(?)である黄緑を背景にしたにぎやかで楽しそうな表紙絵が読者の目を引いたのか,「生活を楽しむ」や「授業づくり」といった表題にインパクトがあったのかもしれません。もちろん,監修者の一人として,内容にも自信はあったのですが……。

 前著の魅力を一言で言えば,教師や学校の「変化への息吹」です。全国一小さな県の小さな養護学校が,子どもたちを中軸に据えて「変容」していく姿こそが,前著のメッセージであったと思います。

○「変容」する学校

 ところで,私が校長を兼務することになったのは,前著が出された直後でした。そして,この3年間,私が教職員や保護者の方々にお願いしてきたことは,「教育は子どもの権利保障を軸とした協働事業である」「子どもを中心に学校を変えていこう」「教育や学校は常に変容していくから面白いし発展する」ということです。

 私は,愛媛の農家の出身です。両親は,80歳を超えた今も元気に,米やみかんづくりにいそしんでいます。学校の教育は,農家の仕事に似ていると思います。春になるとウキウキし,「さぁ,今年もがんばるぞ」と気合いを入れ直します。しかし,その年々で天候も違えば,生育状況も異なります。基本的には同じルーティーンでも,作物と常に対話しながら,環境を整えたり働きかけを変えます。日々の工夫が,作物自体の実りへの原動力をより確かにし現実のものとしていくのです。

 今こうして新しい本を出すに至ったのは,わずか3年ですが,本校を取り巻く環境が国立大学の法人化(2004年度〜。法人化と同時に学部附属から大学附属へ)や国の「特別支援教育」政策の下に大きく変わっただけでなく,本校の実践と研究がさらに「変容」して,前著がある意味で「古くなった」からです。前著の価値がなくなったというのではなく,本校の今の姿とズレてきたという方が正確でしょう。

○完成のない「変容」こそが「深化・発展」

 「本の出版」というと「完成したものを世に問う」というイメージが強くあります。しかし,「完成品は次には壊れるしかない」「完成していないからこそ深化・発展の可能性がある」「変容のプロセスこそ重要であり面白い」と,私は考えています。

 本校は毎年度,教職員30人(兼務校長1・事務職員1を含む)の内の4人前後,児童生徒定員60人の内の8人程度が入れ替わります。前著から4年目を迎えた2005年度では,教職員も子どもたちも既に半数が新しいメンバーなのです。「生活を楽しむ子を育む」という学校目標は同じでも,当然のことながら,その実践は「変容」していなくてはなりません。「学校に子どもを合わせるのではなく,子どもに合った学校をつくろう」とは,私が大学4年生の秋に教育実習をさせていただいた京都府立与謝の海養護学校の「設立の理念と実践的課題」(3本柱からなる)の一つです。

○「ここが変だぞ?! 附属養護学校」

 本校の自慢は,「ここが変だぞ,附属養護学校」という問いかけが自由に許されていることです。

・全校そろってランチルームで給食。いかにも和やかそうに聞こえますが,聴覚過敏(自閉症など)の子にとっては,ランチルームのにぎやかさが耐えられない騒音となり,ストレスをためることになります。→事情に応じて,静かな和室や居慣れたクラスで食べても良いのではないか?

・朝からにぎやかな学級活動や学部合同の音楽・体育。ノリノリの子(ダウン症児など)がいる一方で,中には不安定になる子ども(自閉症児など)もいます。→個に応じて,静かな状況で一日のスタートを迎えることができる配慮も必要ではないのか? 落ち着いてスタートした後で合流できる時間を設けてはどうか?

・国語力や表現力を高めるために,朝の会では「日記の発表」。よくある光景ですね。でも,発表したいという気持ちが高まっていないので,ブルーな気持ちになったり,机に伏して固まってしまう子もいます。→朝の会の日記発表は臨機応変に考えてはどうか? 気持ちを高める工夫をしよう!

 こうした疑問や提案が,自由に出せる雰囲気が本校にはあります。特に新しい教職員や保護者に「新鮮な目」で見てもらうことが,見直しのヒントとなり,活力を与えてくれます。

 私は皆さんに,「変えられないものはない」と申し上げています。年間行事や慣例的な事項,予算や施設設備の使い方から,週時程・教育課程・集団編成に至るまで,聖域を設けず見直しを毎年度進めていく必要がありますし,またすべての事柄が合意の下に見直せるのです。

○新しい実践・研究のテーマとその基盤としての「自分づくり」

 本書で伝えたいことは,「変容」していく学校の姿です。「生活を楽しむ子をめざして」という本校の実践・研究の統一テーマは1995年度以来,一貫しています。2002〜05年度に進められた新しい実践・研究の特徴は,副題「障害・発達・連携の視点から――ねらいを明らかに・実践を確かに・子どもを深く捉えよう――」に現れています。しかも,その基盤には「自分づくり」が位置づけられています。

 前著で私たちは,子どもを主体にした「授業づくり」,発想の転換としての「生活を楽しむ」,人格的自立とQOLの追求などを打ち出しました。また,「自分づくり――他者との関係性における自我形成・自己形成の発達――」という視点を紹介しました。そして,その源流には,鳥取県出身の故・糸賀一雄氏による「人格発達の権利」「発達保障」「自己実現」といった理念・思想のあることも述べました。

 こうした理念・思想をベースにおいているのは,全国の国立大学附属校の中では,糸賀氏が活躍した滋賀の地にある滋賀大学の附属養護学校,発達科学部をもつ神戸大学の附属養護学校などでしょう。これらの学校とも交流・連携しながら,糸賀氏ゆかりの地であることに誇りとこだわりをもちつつ,今日的な意義を明らかにし,将来に向けてさらに継承・発展させていく決意です。

 ところで,刻苦勉励を是とする風土において,「生活を楽しむ」は刺激的な標語です。前著では,どちらかといえば「教室や学校を飛び出して繰り広げる実践=楽しむ姿」というイメージがありました。本校でも,「単に楽しむだけでよいのか」「享楽的な姿と誤解されないか」といった議論がなされました。そして,私たちがたどり着いたのが,「生活を楽しむ姿=自己運動による『自分づくり』の姿」という考え方なのです。「自分づくり」については,前著ではまだ足がかりの段階でした。本書では,第T部において本校なりの考え方を述べ,また監修者であり,日常的な共同研究者でもある寺川志奈子助教授(発達心理学)が詳しく解説しています。

 「自分づくり」を基盤とした授業づくりは,困難もありますが実に楽しい創造の営みです。授業にとどまらず,さらには「自分づくり」を基盤とした行事づくり,「自分づくり」を基盤とした校務分掌のあり方などにも視野が広がっています。自傷や他害行為,不登校や非行など,以前なら「生徒指導」の観点で対症療法的に扱われた「問題行動」も,発達的な視点から「自分づくり」のプロセスに位置づけて論議できるようになりました。

○本書の構成

 本書には,前著以降の3年余りにおける,「自分づくり」を支援する学校への「変容」をまとめています。

 第T部では,前述のように「生活を楽しむ子」および「自分づくり」について本校の考え方を示すとともに研究者の立場からの解説を収録しています。第U部では,学部を解いて全校縦割りで組織したグループ研究(2002〜04年度)に基づいて,障害・発達・連携の視点から「自分づくり」とその支援の在り方に迫っています。第V部では,それら3つの視点を融合しながらの各学部における「自分づくり」を基盤とした「授業づくり」について,「変容」していく試行錯誤の様子を含めて紹介しています。第W部では,本校にかかわる大学側のスタッフとして,校長である渡部が教育学の立場から,校医でもある小枝達也教授が医学(小児神経科)の立場から,スクールカウンセラーをお願いしている小林勝年助教授が教育臨床心理学の立場から,本校の実践・研究に関して寄稿しています。第X部では,「変容」する学校の姿を学校運営の日常的な統括者である副校長(中林)がありのままに紹介しています。そして,「自分づくり」の事例やエピソード,「変容」する学校の姿をところどころにコラムとして配置しました。

 子ども自身の「自分づくり」を基盤とした実践・研究の創造と絶えざる見直しは本校のよき校風として定着してきました。校長として,また監修者としては,本書に綴られた「変容」を前著からの「深化・発展」と位置づけたいのですが,その評価は読者に委ねたいと思います。

 最後に,「自分づくり」を基盤とした本校の「変容」を数年ごとにまとめ,皆でワイワイと論議し,集中して書き下ろし,推敲して出版し世に問う作業を,これもよき校風・職場文化として確立してほしいと願っています。


 今回も,明治図書ならびに編集の三橋由美子氏には大変お世話になりました。ここに改めてお礼を申し上げます。


  2005年7月 監修者を代表して 校長 /渡部 昭男

著者紹介

渡部 昭男(わたなべ あきお)著書を検索»

地域学部教授,校長

寺川 志奈子(てらかわ しなこ)著書を検索»

地域学部助教授,発達相談スーパーバイザー

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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