- はじめに
- 第1章 出会いと確信
- 1 アメリカで目撃した教育改革のうねり
- 2 ミネソタ・ニューカントリースクールの生徒たち
- 3 笑顔と情熱に会いたくて
- 4 全米に広がるエドビジョン系列校
- 5 エドビジョン型PBLのアウトライン
- 第2章 理論的基盤の整理と紹介
- 1 プロジェクトからエドビジョン型PBLへ
- 2 評価規準の事前提示がもたらすもの
- 3 評価会議の中の生徒と教師
- 4 関係性を支えに自律性をはぐくむ
- 5 個別教育計画としての意味
- 6 思春期のニーズに応える学び
- 7 未来志向の学び
- 第3章 効果を発揮する技法と実例
- 基本スキル1:グループを編成する
- 基本スキル2:トピックを選択する
- 基本スキル3:テーマを焦点化する
- 基本スキル4:追究を支援する
- 基本スキル5:自己評価を支援する
- 基本スキル6:成果のまとめからプレゼンまで
- 第4章 どのように導入するか
- 1 なぜPBLの導入が必要か
- 2 子どもが問いを発する学びの実現
- 3 探究型学習のモデルとしての意味
- 4 教科でもPBLのためのアイディア
- 5 PBLでキャリア教育
- 6 「分断」から「統合」へ
はじめに
ここ10年ほどの間に激しく展開された「学力低下論争」の結末として,前の改訂で削られた内容が復活し,授業時数が増えました。とはいえ,学校週5日制は維持されていますから,小学校に入学したばかりの1年生でさえ午後も授業が続くようになりました。
学力低下論争が始まりかけた2001年に,私は久しぶりにアメリカの学校を訪問しました。中でも,ミネソタ州のヘンダーソンという小さな町にあるミネソタ・ニューカントリースクール(Minnesota New Country School=以下,MNCSとします)は圧巻でした。
生徒たちの学ぶ姿を見ていると,決してだれかから強制されているというのではなく,自分の意思で自分の将来のために学んでいる気迫のようなものを感じ取ることができました。このときの訪問は極めてインパクトが強く,その後,毎年1回,MNCSを中心とするPBLを採用している学校を訪問することを10年も続けることになりました。
この間,PBL開発のプロセスを描いた『Passion for Learning』(邦題『学びの情熱を呼び覚ますプロジェクト・ベース学習』ロン・ニューエル著,上杉・市川洋子監訳,学事出版,2004)と,日米の子どもたちのPBLへの取り組みを紹介した『プロジェクト・ベース学習で育つ子どもたち』(上杉賢士・市川洋子著,学事出版,2005)を出版しました。また,2007年には特定非営利活動法人日本PBL研究所(Institute of Project-Based Learning in Japan、http://pbl-japan.com/)を設立し,PBLの紹介と普及のための活動を展開しています。
日本PBL研究所では,毎年1回のPBLの現場を訪問するツアーを企画するとともに,各種のセミナーなどを開催しています。また,大学で自分が担当する授業はもちろん,小・中・高校への導入支援も行っております。最近では大学の先生方にも講演をさせていただいています。
本書は,PBL本の第3弾として,それらの活動を通して蓄積したノウハウを紹介する「実践ガイド」という性格にあります。そして,新学習指導要領が掲げる「総合的な学習」の理念を余すところなく具現するものです。
本書に込めた私の願いは,主として次の二つです。第一は,「これからの時代を生きるための学力」を獲得させる方法を具体的に紹介することにあります。PBLでは,社会的な広がりのある様々なテーマに取り組むことを通して,自分の適性を発見し,将来に向けた展望と実力を獲得することを可能にします。わが国では「キャリア教育」が掲げる目標と重なりますが,そのためにも日常的な学びの変革こそが必要だと考えます。
第二は,教育臨床学という大学で所属する教室から発生する問題意識です。長期欠席(不登校)やいじめ,学級崩壊など,わが国では学校不適応を原因とする症状が依然として高い出現率を示しています。その理由のかなりの部分を,「みんなと同じときに,同じことを,同じペースで学ぶこと」を求める教育の仕組みが占めていると考えています。それぞれの子どものニーズに応えていくためには,個別の教育計画が必要であり,PBLはそのリクエストに十分応えうるものです。
世界に目を向けてリサーチすると,PISA調査を契機として教育改革が急速に進んでいることが分かります。その方向は「自律的学び」と「個別的ケア」の両方を確立させることにあると括ることができます。プロジェクト的な学びはそれを強力に推進するものであり,その進化型として本書で注目するPBLは学力保障という特徴をも有しています。
幸いにも,30年以上にも長きにわたってご交誼をいただいている明治図書の仁井田康義氏から出版の機会をいただきました。渾身の書とすることによって,深甚なる感謝の気持ちを表わしたいと願っています。
2010年8月 /上杉 賢士
来年から高校でも本格的に探究学習が始まります。ぜひ、このタイミングに!!