- まえがき
- 第1章 子どもと共に歩む
- 1 シゲちゃんとの3年間
- 2 自力歩行にチャレンジしたキョウくん
- 3 長所を伸ばしたヒカルくん
- 4 自信の連鎖で大変身,ユキコさん
- 5 通常学級との連携で育ったエミさん
- 6 不登校傾向のヤマトくんから学んだこと
- 第2章 教育の基礎基本15
- 1 宝物を見つけて伸ばす
- 2 一人ひとりに合わせて指導支援する
- 3 生きる自信をつける
- 4 スモ−ルステップを忘れずに
- 5 まず行動をよく観察する
- 6 生活教育の上に教科教育がある
- 7 小集団学習は不可欠である
- 8 コミュニケ−ションを密接にとる
- 9 できる子に支えられた授業をしない
- 10 ことばに頼りすぎない授業をする
- 11 視覚教材をひんぱんに使う
- 12 教える内容はしぼり,くり返す
- 13 T・Tを有効に活用する
- 14 つながりを意識した授業をする
- 15 状況をつくる
- 第3章 共に成長する
- 1 元気でユ−モアがある,謙虚で熱心
- 2 子どもの願いをくみとる
- 3 いろいろな方法でほめる
- 4 お互いに目標をもち,学び合う学級を作る
- 5 パニックをわがままと解釈しない
- 6 手ごわい相手にぶつかったら,まず指導の放棄
- 7 「大変な子」が教師を育てる
- 8 この教育の醍醐味を味わう,細やかさが身につく
- 9 「話を聞きなさい」ではなく,聞きたくなる手だてを
- 10 はまった活動は十分に満たしてやる
- 11 教材づくりは至福のとき
- 12 外に出て行く
- 13 実践を振りかえり考察する
- 14 通常学級の授業から学ぶ
- 15 けじめと態度づくり
- 第4章 Q&A 保護者とのよい関係のつくり方
- [1] 保護者はみな,子どもの幸せや成長を願っている
- [2] 保護者から委託されて子どもの教育にあたっている
- [3] 保護者を支える
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- 問1 家庭生活への支援は /問2 家庭での支援が得られない /問3 教科指導を望む保護者に対して /問4 特別支援学級を勧める /問5 信頼関係をつくる連絡帳の役割 /問6 連絡帳の形式と内容 /問7 学級通信の作り方 /問8 保護者会の意義ともち方
- 第5章 知って得する授業のヒント集30
- [1] まず,環境を整える
- [2] 子どもをほめ,励ます掲示物を作る
- [3] 修学旅行や宿泊学習にも日程表やカ−ドを持参しよう
- [4] 先生はモデルである
- [5] 「困ったおじさん」の登場だ
- [6] 楽しくなければ情報は大脳皮質まで伝わらない
- [7] 始めにその時間の学習内容(目あて)を知らせる
- [8] 授業の前にアンケ−トをとる
- [9] 重度の子や自閉の子には指導の流れを一定にする
- [10] がんばったことが見える,これからの目標も見える
- [11] 同じことを5回はくり返す
- [12] 終わりを見せる
- [13] 授業の終わりに理解度を確認する
- [14] 次に何をすればいいですか?
- [15] あきっぽい子どもには活動を組み合わせる
- [16] 子どもにまかせると発見がある
- [17] ハプニングは子どもも先生も伸びるとき
- [18] 黒板いっぱいの絵で子どもの度肝ぬく
- [19] お話カ−ド,話し棒で話す力を伸ばす
- [20] 本人が登場する物語で意欲を引き出す
- [21] 文字や図でソ−シャルスキルを教える
- [22] 毎日書く日誌の中に必要な学習を入れる
- [23] 毎月,カレンダ−を書く
- [24] 弁当をあけたらお母さんからの手紙があった
- [25] 夏休みの親子活動を支援する
- [26] 買い物などの学習は「関所」を意識して支援する
- [27] 掃除のテストで自立の様子を確かめる
- [28] 名前を書き,個人用の掃除用具をそろえる
- [29] 自分の物意識がない子どもに整理整頓を教える
- [30] 一人でしおりを作る
- 第6章 通常学級との連携と支援
- 1 特別支援学級担任は今,何をすべきか
- 2 通常学級への支援
- 3 在籍生徒の通常学級の授業参加(交流)の支援
- 4 通常学級在籍生徒の特別支援学級の授業参加
- 5 通常学級担任や校内教職員との連携
- 6 校内委員会が推進する
- 7 通常学級の授業にこのような工夫をしたらどうか
- (1)ことばだけの説明はさける /(2)板書の工夫をする /(3)メリハリのある授業をする /(4)授業のル−ルを提示する /(5)自己肯定感を高める /(6)ノ−トやプリントも使いやすいものに /(7)細かい配慮が欠かせない
- 第7章 劇活動のススメ 徹底実践 特色ある学級作り
- 1 今,なぜ演劇なのか
- 2 どんな子どもでも劇はできる
- 3 通級指導的な学級でも劇はできる
- 4 劇を成功させるための基本
- 5 劇「スタ−・ウォ−ズ」の実践(1年目)
- 6 劇「スタ−・ウォ−ズU」の実践(2年目)
- 7 劇「その後の桃太郎と鬼たち」の実践(3年目)
- 台本などの資料
まえがき
ただ夢中で子どもを指導した。手さぐりであったが,子どもは少しは成長したように見えた。子どもと遊び,生活し,年月が過ぎた。あるときから,子どもの変わり目がはっきりとつかめるようになった。
さらに,なぜ変わったのか分かるようになった。子どもの成長を願い,確かに指導するけれども,同時に子どもから多くのことを学んでいることに気がついた。子どもから学ぶことが多い教師ほど,豊かな教師だと思った。
ヒカルくんからは,通級指導的な教室の目的を学んだ。「ここで元気になり,自信をつけ,通常学級でも自分を発揮する」ように指導支援するのがこの教室の役目と知った。繰り返し自信をつけることの大切さを教えてくれたのはユキコさんだった。ダンスや歌唱,朗読が上手な彼女を「ダンスのプロ」「歌のプロ」などとほめた。そして,それらを発揮する場面を徹底して用意した結果,確かな自信がついたのだった。
ヤマトくんは気に入らないとすぐに怒り出した。指示が入らず,悩んだものである。けれども,2年生になり顕著に変わった。「真剣に交わる付き合いは人を変えずにはおかない」「人は受けとめてもらえる安心感のうえに育つ」などと珠玉の教えを受けた。
時代は特殊教育から特別支援教育へと大きく転換した。通常学級に在籍する軽度発達障害児への関心がたいへん強まっている。小学校や養護学校では,本格的に特別支援教育の具体的取り組みが始められている。しかし,中学校では山積する課題も多く,まだまだこれからという状況だ。
さて,時代が変わりつつあっても,学校は教師と生徒の授業で成り立っている。授業をいかにつくるかが勝負だ。古来,特殊教育は「教育の原点」と言われてきた。ところが,具体的に特殊教育の授業が通常学級の授業に影響を与えたり,指導の原則が参考にされたりすることはなかったように思う。特殊教育と通常学級の教育が二元的に位置づけられて,両者は別物にされていたからである。
特殊教育が特別支援教育に包括化され,特別支援教育と名称を変えて,ようやく「教育の原点=特殊教育のこころやノウハウ」が脚光を浴びる時代になった。また,そうならなくては特別支援教育は成功しないし,一人ひとりが大切にされる学校に近づくことはできないとわたしは信じている。
軽度発達障害児への通常学級での指導・支援については著作物があふれている。が,その多くは小学校向けである。本書は,「特殊教育のこころやノウハウ」をしっかり受け継ぎ,中学校の通常学級の授業も視野に入れ,新しい特別支援教育のすすめ方について分かりやすく述べたものである。
第1章「子どもと共に歩む」では,6人の子どもたちの事例を通して子どもと教師のこころとこころの結びつきと,基本的な指導支援のノウハウを具体的に書いた。
第2章「教育の基礎基本15」では,通常学級の教育も念頭において,教育とは何か,授業づくりで大切なポイントは何か,その基礎基本を15にしぼり,明らかにした。これらを身につければ鬼に金棒である。
第3章「共に成長する」は,子ども理解の方法や,対応がむずかしい生徒との接し方を記述した。子どもに学びながら自分なりの理論を積み上げ,成長していきたいものである。
第4章「保護者とのよい関係のつくり方」は,保護者の切実な願いにどう答えたらいいか,連携がむずかしい場合はどうしたらいいか,連絡帳や学級通信の書き方や保護者会の持ち方なども含めて質問に答えた。
第5章「知って得する授業のヒント集30」では,すぐに役立ち,授業の腕を確実にレベルアップするヒントを紹介した。これを参考にしてさらに実践をしていただきたい。
第6章「通常学級との連携と支援」は,特別支援教育時代に校内教職員の一員として特別支援学級担任は何をしたらいいのか,通常学級の授業はどうあるべきかについてささやかながら私見を記した。
第7章「徹底実践,特色ある学級作り」は,演劇教育を3年間徹底して行い,成果を挙げた実践例である。通級指導的な学級でも工夫すれば特色ある学級が作れるという一つのモデルである。
本書が,特別支援教育時代に生きる現場教師の道しるべの一つになれば幸いだと思う。
最後に本書を企画,校正し,出版できたのは明治図書出版株式会社並びに編集部の三橋由美子氏のお蔭である。氏にはまた長年「障害児の授業研究」誌等に寄稿の際も励ましていただいた。心から感謝を申し上げる。
平成18年5月 著 者
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- 明治図書