- 発刊に寄せて /高階 玲治
- はじめに /黒河 伸二
- 第T章 「総合的な学習の時間」を意図した教育課程
- 1 21世紀の生活者像
- 2 3つの「総合的な学習」
- (1) 教科間の連携を図った「クロスカリキュラムによる指導」
- (2) 道徳と特別活動を関連づけた「スパイラル化した指導」
- (3) 教科の枠にとらわれない選択学習「郷土学習科」
- 3 学校全体の教育課程の体系化
- (1) はぐくみたいもの(ねらい,資質や能力等)から見た関連性
- (2) 指導方法面,学習内容面から見た関連性
- 4 課題と展望
- 第U章 道徳・特別活動を関連づけた「総合的な学習」
- 〜体験を生かした人間としての生き方学習〜
- 序 スパイラル化理論の構築に向けて /丹野 眞智俊
- 1 「スパイラル化した指導」と「総合的な学習」
- (1) 共に生きる力を追求するために
- (2) なぜ,今,体験活動の充実なのか
- (3) 「スパイラル化した指導」とは
- (4) 「スパイラル化した指導」の基本的な考え方
- (5) 「スパイラル化した指導」の理論の特徴
- (6) 「スパイラル化した指導」の理論を「総合的な学習」に生かす
- 2 国際理解教育の実践事例
- 〜佐賀大学留学生との国際交流会を中心に〜
- (1) 総合主題「国際理解」について
- (2) ねらい
- (3) 交流会における主な活動の内容
- (4) 具体的な実践(平成10年度 第1学年)
- (5) 実践を振り返ってのまとめ
- 3 福祉ボランティアの実践事例(その1)
- 〜課題別ボランティア学習と「人にやさしい社会をつくるために」意見交換会〜
- (1) 総合主題「福祉ボランティア」について
- (2) ねらい
- (3) 具体的な実践(平成9年度 第3学年)
- (4) 実践を振り返ってのまとめ
- 4 福祉ボランティアの実践事例(その2)
- 〜体の不自由な人の気持ちを体験する活動とコース別発表会〜
- (1) 総合主題「福祉ボランティア」について
- (2) ねらい
- (3) 具体的な実践(平成9年度 第1学年)
- (4) 実践を振り返ってのまとめ
- 5 職場訪問の実践事例
- 〜保護者とのティームティーチングによる2時間連続授業〜
- (1) 総合主題「働く喜び」について
- (2) ねらい
- (3) 具体的な実践(平成10年度 第2学年)
- (4) 実践を振り返ってのまとめ
- 6 校外学習・修学旅行の実践事例(その1)
- 〜長崎現地集合とグループ自主研修を中心に〜
- (1) 総合主題「校外学習・修学旅行」について
- (2) ねらい
- (3) 具体的な実践 その1(平成10年度 第2学年)
- (4) 実践を振り返ってのまとめ
- 7 校外学習・修学旅行の実践事例(その2)
- 〜グループ自主研修と京都での伝統工芸体験を中心に〜
- (1) 総合主題「校外学習・修学旅行」について
- (2) ねらい
- (3) 具体的な実践 その2(平成10年度 第3学年 修学旅行)
- (4) 実践を振り返ってのまとめ
- 8 課題と展望
- 第V章 教科の枠にとらわれない「総合的な学習」
- 〜選択教科「郷土学習科」の試み〜
- 序 総合的な学習「郷土学習科」の取組 /新富 康央
- 1 「郷土学習科」とは
- (1) 「郷土学習科」ができるまで
- (2) 生きる力をはぐくむ「郷土学習科」
- (3) 「郷土学習科」でどんな生徒を育てるか
- (4) 「郷土学習科」で身につけさせたい力とは
- 2 「郷土学習科」の全体像
- (1) キーワード
- (2) 「郷土学習科」の特徴
- (3) 学習プロセス
- 3 「郷土学習科」の学際的な支援体制
- (1) 教師の関わり方
- (2) 学外講師の関わり方
- (3) 情報教育を生かして
- 4 「郷土学習科」の評価
- (1) 評価の考え方
- (2) 評価項目
- (3) 評価方法
- 5 「郷土学習科」の学習内容共有化の手だて
- (1) 年間活動計画
- (2) 学習内容の共有化を図る手だて
- 6 「郷土学習科」小コースの活動例
- (1) Aコース 「佐賀のことばと文化」
- (2) Bコース 「佐賀の伝統文化と芸能文化」
- (3) Cコース 「佐賀の食文化と生活文化」
- (4) D1コース 「佐賀の歴史やくらしと文化」
- (5) D2コース 「佐賀の歴史やくらしと文化」
- (6) Eコース 「佐賀の自然」
- (7) Fコース 「佐賀の環境問題」
- (8) Gコース 「佐賀の福祉・ボランティア問題」
- (9) Hコース 「佐賀の国際化」
- (10) Iコース 「佐賀の未来像」
- 7 生徒の変容
- (1) 「郷土学習科」のアンケートより
- (2) 「郷土学習科」の成果
- (3) 「郷土学習科」の課題
- 8 総合的な学習を生かした選択学習
- (1) 3年生後期選択学習〜今日的教育課題を取り入れて〜
- (2) 2年生選択学習〜学び方を中心に〜
- 9 課題と展望
- 参考文献
- おわりに /田中 一利
- 研究同人
はじめに
完全学校週5日制の実施に向かって,急激な教育改革の動きが続いた。平成10年末には新学習指導要領が公示され,平成12年度からは移行措置が始まろうとしている。新教育課程のねらいは,「ゆとり」「特色ある教育」「生きる力」を中心に,「豊かな人間性や社会性」「国際社会で生きる日本人としての自覚」「自ら学び,自ら考える力」「基礎・基本の確実な定着」「個性を生かす教育」など,幾つかのキーワードで表すことができる。このねらいに迫るための中核をなすのは,「総合的な学習の時間」の導入である。
「総合的な学習の時間」については,新しい学力観に基づく資質・能力を育成するとともに,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的課題,生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などを取り扱うよう述べられている。しかし,各教科等のような内容の規定はなく,教育現場にとっては,解説書や教科書に代わる新たな資料が求められている。参考となる資料を吟味・検討し,それらに独自の創意工夫や改良を加えながら,それぞれの学校の実態に応じた教育活動が生み出されてくるのであろう。
そういった観点に立てば,本書の実践例は,どの学校でもただちに活用できるモデルとして適当であると自負している。本校では研究主題「探究:21世紀の生活者〜生活と学習の接点を生かして〜」を設定し,教育改革プログラムの進行に注目しながら,平成8〜10年度にかけて実践研究に取り組んできた。めざす生徒像は次の通りである。(1)豊かな感性をもち,自己表現力に富む。(2)自ら学ぶ意欲をもち,自ら考え,問題解決できる。(3)国際的視野をもち,情報活用能力に優れている。四部会に分かれて研究を進め,その内の二部会の成果にその後の検討や実践を加えて完成したのが本書である。
「スパイラル化した指導」とは,人間としての生き方についての自覚を深めるため,体験活動をもとに学級活動,道徳の時間を関連づけて総合化し,一つの単元として扱う指導法である。国際理解,福祉・ボランティア,合唱コンクール,職場訪問,校外学習・修学旅行など,厳選かつ系統化された体験活動を通して,共に生きる力を育成する。いじめや不登校,青少年非行が深刻化し,中教審答申「新しい時代を拓く心を育てるために」が出され,新学習指導要領で「豊かな体験活動を通しての道徳性の育成」が強調されている折から,「心の教育」に迫る総合的な学習の一形態として注目に値する。
「郷土学習科」は,生徒の自由テーマに基づく,教科の枠にとらわれない総合的な学習である。生徒の興味・関心を中心にコースを設定し,学際的な支援体制によるカウンセリングやローテーション式アドバイスを通して探究を深め,研究成果をまとめて地域へ発信・提言する。ここで育成される問題解決能力,情報活用能力,多面的な見方や考え方などは,主体的に生きる力として,生涯学習の基礎をなすと思われる。なお,ここで用いた方法論は,学際的な学習を進める上での範例として,異なる題材についても広く適用できる。
教科学習に文化遺産の伝達という意味合いが強いのに対して,総合的な学習では文化の創造や知識の再構成に重点が置かれる。その違いは,受け身の学習と主体的な活動の違いとなって現れる。総合的な学習に携わっている生徒の目は,実に生き生きとしている。これは,研究者が専門研究に携わっている時の姿と,根底で相通ずるものがあるからだろう。まさに学習の主体は生徒であり,教師はその支援者であるという教育の根幹的な営みを実感できる。そこで,生徒主体という名の「這い回る」学習活動に陥らないために,教師はどのような支援をすべきか,それを本書から読み取って頂ければ幸いである。 この研究を進めるに当たっては,佐賀大学および佐賀県教育委員会の先生方に懇切なる指導・助言を頂いた。また,本書をまとめるに当たっては,日本教育開発(熊本)の小柳能成氏および明治図書出版の石塚嘉典氏に種々の有益なる助言を頂いた。発刊に当たり,ここに謹んで深謝の意を表したい。
平成11年5月1日
佐賀大学文化教育学部附属中学校前校長 /黒河 伸二
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- 明治図書