- まえがき
- 第1章 総合的学習とライフスキルの関係
- 1 総合的学習と生きる力
- (1) 総合的学習のねらいは方法知の習得
- (2) 総合的学習と従来の教科の学習との違い
- (3) 総合的学習でどんな能力をつけるか
- (4) 学校教育で育成する「生きる力」とは
- (5) ライフスキル学習を総合的学習の中核に
- (6) ライフスキルは単なる技能ではない
- (7) 総合的学習の中にライフスキルを導入するには
- 2 ライフスキルの基礎知識
- (1) ライフスキルとは
- (2) ライフスキルの範囲
- (3) ライフスキルの種類と活用
- (4) ライフスキルと学習理論
- (5) 体験的学習によるスキルの獲得
- (6) 意志決定/問題解決
- (7) 創造的思考/クリティカル思考
- (8) 人間(対人)関係/コミュニケーション
- (9) 自己認識/共感性
- (10) 情動対処スキル/ストレス対処スキル
- 3 ライフスキルトレーニングの定義
- (1) トレーニングという言葉の意味
- (2) トレーニングと適応
- (3) ライフスキルトレーニングとは
- (4) トレーニング効果を決定する因子
- 第2章 ライフスキル教育で使われる教育技法
- 1 アイスブレーキング(緊張ほぐし)
- (1) アイスブレーキングとは
- (2) アイスブレーキングのやり方
- (3) アイスブレーキングのコツ
- (4) アイスブレーキング実施後の参加者(大学生)の感想
- 2 ブレインストーミング(連想アイデアゲーム法)
- (1) ブレインストーミングとは
- (2) ブレインストーミングのやり方
- (3) ブレインストーミングのコツ
- (4) ブレインストーミング参加者の感想
- 3 教室ロールプレイ(役割演技法)
- (1) 教室ロールプレイとは
- (2) 教室ロールプレイのやり方
- (3) 教室ロールプレイのコツ
- (4) 教室ロールプレイ参加者の感想
- 4 ディベート
- (1) ディベートとは
- (2) ディベートのやり方
- (3) ディベート指導のコツ
- (4) ディベート参加者(学生)の感想
- 5 ディベート式ロールプレイ
- (1) ディベート式ロールプレイとそのやり方
- (2) ディベート式ロールプレイの特徴
- (3) 留意点
- (4) 具体的展開例(HIVに感染した子どもに対する共感性形成スキル)
- (5) ディベート式ロールプレイの参加者(学生)の感想
- 6 シェアリング(Sharing=わかちあい,ふりかえり)
- (1) シェアリングとは
- (2) シェアリングのやり方
- (3) シェアリングのコツ
- 第3章 ライフスキルトレーニングの展開方法
- 1 ライフスキルトレーニングの展開法
- 2 ライフスキルトレーニングの各ステップのコツ
- 第4章 意志決定スキル・問題解決スキルとトレーニング
- 1 意志決定スキルとトレーニング
- (1) 意志決定とは
- (2) 意志決定スキルトレーニングの実際
- (3) 意志決定モデル
- (4) 意志決定上の留意点
- 2 問題解決スキルとトレーニング
- (1) 問題解決スキルとは
- (2) 問題解決スキルトレーニングの展開例
- 第5章 ストレス対処スキルとトレーニング
- (1) ストレス対処スキルとは
- (2) ストレス対処スキルトレーニングの展開
- 第6章 コミュニケーションスキル・対人関係スキルとトレーニング
- 1 コミュニケーションスキルとトレーニング
- (1) コミュニケーションスキルとは
- (2) コミュニケーションスキルトレーニングの展開例
- 2 対人関係スキルとトレーニング
- (1) 対人関係スキルとは
- (2) 対人関係スキルトレーニングの展開例
- 第7章 自己認識形成スキル・共感性形成スキルとトレーニング
- 1 自己認識形成スキルとトレーニング
- (1) 自己認識形成スキルとは
- (2) 自己認識形成スキルトレーニングの展開例
- 2 共感性形成スキルとトレーニング
- (1) 共感性形成スキルとは
- (2) 共感性形成スキルのトレーニング
- 第8章 情動対処スキルとトレーニング
- (1) 情動対処スキルとは
- (2) 情動対処スキルのトレーニングの展開例
- 第9章 ワークショップによる教師のライフスキルトレーニング
- (1) オリエンテーション
- (2) アイスブレーキングとグルーピング
- (3) 意志決定スキルのミニレクチャー
- (4) グループワーク
- (5) シェアリング
- (6) まとめ
- 第10章 諸外国におけるライフスキルプログラムの紹介
- 1 諸外国におけるいくつかのライフスキルプログラム
- (1) 「青年期のスキル」:ライオンズ・クエスト・インターナショナル
- (2) 南アフリカのライオンズ・クエストの「青年期のスキル」の適用
- (3) 人生設計教育:人口オプションセンター
- (4) 「初等学校の子どものためのスキル」:TACADE
- (5) ベリーズの「初等学校の子どものためのスキル」の利用
- (6) オブジェクティフ・グランデル:モンダ・プラス・プレべンション
- (7) ライフスキル・インターナショナル
- 2 諸外国のライフスキルトレーニングの情報源のリスト(注釈付き)
- ライフスキル教育【基本用語解説】
- あとがき
まえがき
このごろ,「パラダイムの転換」ということをよく聞くようになった。というより,今日,「パラダイムの転換」を本気で考え実践しなければならなくなったようである。けれど実際にそれがどれだけわれわれ教師たちに意識されているか,「それ」の実践がいかに困難なものか,身にしみている人はどのくらいいるのだろうか。
パラダイムとは,その時代に支配的なものの見方,考え方,ある考え方の理論的な枠組みのことである。平たく言えば,自分のものの考え方の奥底にあるもの,俗に「三つ子の魂百までも」といわれている「自分の三つ子の魂」と考えたらいい。それはアタマで知的に「わかっていると思っている」ことではなく「腹の底から思っているもの」「身についているもの」「こびりついて離れないもの」と解釈したらいいと思う。パラダイムの転換とはそういう自分の根底からの見直しではないかと思われる。
教育界では,21世紀の教育を左右するのは,平成11(1999)年の世紀末とこれからくる平成12(2000)年初頭を準備期間としていかに検討・研究・研修していくかで決まるとさえ言われるようになった。その準備いかんによって日本の将来に夢を託すことができるか,ということであろう。このことは,何も世紀末だから,世紀初頭だからどうしなければならないというものでもないが,今現在が,教育の「パラダイムの転換」の時期であり,21世紀を開く教育改革の波であるような気配がある。
「僕は,歌の作り方を教える気なんてないよ。それは,子どもたちが自分でやることだと思うよ。才能は子どもたち自身がもっていることなんだ。その才能を高めていく手助けなら僕にだってできるし,子どもたちが自滅しないで進んでいけるように後押ししてあげたいんだ」元ビートルズのメンバーの一人,ポール・マッカトニーは,自分を育ててくれた故郷,リバプールに新しい芸術大学を作った時にこのようにスピーチしたという。知識を一方的に教えるのではなく,子どもたちが本来持っている才能を自分で伸ばせるように育て,子どもたちが将来のビジョンを明確に描き,自分の進んだ専門分野のスキルに自信をもてるようにすることこそ教育の本質ではないかと思う。
21世紀の教育改革として,平成8(1996)年7月中央教育審議会にその基本的な方向性が見られる。そしてその具体的方策として平成10(1998)年7月に出された教育課程審議会の答申と同年12月文部省から発表された学習指導要領が示された。これは,平成14(2002)年から始まる完全週5日制の下での教育課程の新基準と「生きる力とゆとり」の新概念を示している。そこでは,各学校において児童生徒に「生きる力」をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開し,自ら学び,自ら考える力の育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り,個性を生かす教育の充実に努めることとしている。そこに,全く新しい授業時間として「総合的な学習の時間」という時間が位置づけられた。
この教育改革の最大の目玉である「総合的な学習の時間」をいかに考え,実行するかが教育改革の成否の鍵になることは言うまでもない。「生きる力」とはいったい何か。その力をつけるために「総合的な学習の時間」でどのような内容を,どのような方法でやればよいのか。大きく問われている課題である。
「『生きる力』とは,単に過去の知識を記憶しているというだけでなく,初めて遭遇するような場面でも,自分で課題を見つけ,自ら考え,自ら問題を解決していく資質や能力である。」(第15次中教審,1996)と定義されている。単なる知識が習得され,態度が形成されればよいというものではない。日常生活に生きて役に立つ力,積極的,適応的に行動化できる力を養うことが,学校教育の重要な役割であろう。
一方,「『ライフスキル』は,個々人が日常生活で遭遇する要求や難しい問題に対して効果的に対処できるように,適応的,積極的に行動するために必要な能力である。」(世界保健機関精神保健部,1993,皆川興栄訳)ライフスキル教育の目標は,子どもたちが,たとえば,つぎのようなスキル(技能)
を身に付けるようになることである。すなわち,日常生活の中で,自分で意志決定し,問題を解決し,社会的な物事をクリティカルに思考し,困難な状況に対処するために創造的に思考し,対人関係のスキルをもって明快に,納得がいくようにコミュニケートすることを学び,自己への気づきを高め,他者に対して共感し,生活の中の情動やストレスをうまく対処するスキルを学ぶことにある。
このようにライフスキル教育は,若者が日常生活で生じる要求や難しい問題にうまく対処できることを可能にする心理社会的なスキルを基礎に置いている。したがって,若者の個々人が社会の激しい変化と新しく生ずる問題に対処するために,主体的に,適応的に,かつ積極的に対応する能力を育成する可能性を持っている。 喫煙・麻薬など薬物乱用,思春期妊娠,AIDS/HIV,非行,いじめ,暴力,登校拒否(不登校)そして自殺などの重大な問題の1次予防を可能にするスキルを獲得させてくれる。
そこで,「総合的な学習の時間」の中でいかにしたらライフスキルを内容知及び方法知として獲得させるかを本書ではできるだけ分かりやすく,また,学校教育現場で使えるような具体例を含めながら記述した。
本書が,わが国の新しい教育の一歩として何らかの役にたつことができれば幸いである。
最後に,このようなライフスキル教育の開発・普及の機会を与えてくださった明治図書の樋口雅子編集長及び編集部の中川美鈴氏に深く感謝したい。
1999年5月 /皆川 興栄
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- 明治図書