- まえがき /佐藤 曉
- 一部 保幼―小連携の重要性を考える
- 1 保育・幼児教育の立場から
- 2 学校教育の立場から
- 3 医療の立場から
- 4 保護者の立場から
- 二部 保幼―小連携の実際
- 1 保育園から学校への事例
- 「就学までに子どもにつける力」「学校との連携の実際」について
- 2 幼稚園から学校への事例
- 子ども理解から始まる「特別にしない支援教育」〜小さな学校の利点を生かした幼‐小連携の実践〜
- 3 小学校での組織的取り組み〜清輝小学校と清輝保育園との連携について〜
- 4 地域での組織的取り組み
- 保幼―小連携、中標津町の実践
- 5 実践へのコメント
- 三部 保幼―小連携、実践へのヒント
- 1 保幼―小が互いを知り、それぞれがしておくべきこと
- (1) 学校にあがるまでに保育園・幼稚園でしておきたいこと
- (2) 小学校が準備しておきたいこと
- (3) 小学校から保育園・幼稚園へのメッセージ 入学した子どもたちの育ち
- 2 連携のための知識
- (1) 確実な引き継ぎのためのケース会の提案
- (2) 専門機関との付き合い方
- (3) コーディネーター便り―「A School for All」から
- 3 保護者との関係を築くために
- (1) 保護者との関係を保つコツ
- (2) 保護者に子どもの問題をどう伝え、支援するか
- 4 学校に子どもを送り出す保護者に伝えたいこと
- (1) 学校選びのポイント―通常の学級、特別支援学級、特別支援学校それぞれの特色
- (2) 小学校における交流学習
- (3) 保護者にできること―「花まるくん♪」を作る
- 巻末付録
- 1 引き継ぎシート作成例
- 2 保幼―小連携のためのチェックリスト
- あとがき /堀口 貞子
まえがき
特別支援教育の考え方や子どもたちに対する指導の手立てが現場に浸透するにつれ、ここのところあちこちで、保幼‐小連携の問題が話題にのぼるようになった。もちろん、まだまだ実践の蓄積は十分とは言えないが、手探りで進められてきた各地の取り組みを振り返ってみると、この先連携を推進していく上でヒントになることがらが、いくつか浮かび上がってきた。三つほどあげてみよう。
第一は、「環境と子どもの行動とをセットにした引き継ぎ」に基づく連携である。
引き継ぎにあたっては、保育園や幼稚園で整備してきた環境と、その環境下で観察された子どもの行動とをセットにして学校につなげる必要がある。見通しと向かう先(時間環境)、学習と生活の仕組み(空間環境)、そして保育者や周りの子どもたちのかかわり方(人環境)をどのように整えると、その子の「困り感」が軽減され、豊かな学びと育ちが保障できるのか。そういった情報を、学校に伝達するのである。
生活のシナリオをどう伝えてあげたらこの子は安心するのか、また、目に見えない集団生活の仕組みをどのように示してあげたら理解しやすいのかを、実際に使っている支援ツールなどを取り出しながら引き継ぎをしたいのだ。さらに、こんな場面を用意して友達とのかかわりをもたせたらとても穏やかに過ごせたとか、クラスの集団づくりにこんな工夫を加えたら子どもたちの輪のなかにいる時間が増えたとか、そういった具体的なエピソードがあると、学校はとても助かる。普段の生活環境と切り離された、「その子の特性」と言われるようなデータを受け取っただけでは、準備できる手立ては限られる。
第二は、「保護者の安心と納得」を基盤とした連携である。
保幼‐小連携には、保護者の参画が必須である。参画の場としては、「保護者を交えたケース会」を用意しよう。保育園幼稚園の保育者と学校の教員とが連絡をとり、そこに保護者が加わる。三者で子どもの就学を支えるのである。学校生活に関する情報が少ないと、保護者の不安は増すばかりである。それを少しでも軽減するために、まずは入学式の参加の仕方について、そして日々の過ごし方について、保護者が具体的なイメージを浮かべられるような材料を提示したい。
とはいえ一方で、「保護者を交えたケース会」を開くのが困難な場合もある。子どもの問題に向き合えないでいる保護者には、けっして無理強いをしてはいけない。保護者が納得しないままことを運ぶのは、虐待をはじめとした切迫した事情がない限り、慎むべきである。このようなときの連携は、「一般的な引き継ぎ」にとどめ、少なくとも、保護者との関係を断ち切らないようにしておくことが大切である。
第三は、「ローカルな営み」としての連携である。
連携は、具体的な実践レベルになればなるほど、普遍的な方法というものから遠ざかる。組織の規模、通学通園エリア、そして職員の巡り合わせなどといった学校園の事情、また、保護者のカラーや校区の土地柄など、その地域、そのときどきによって置かれている条件はさまざまであるゆえ、必要とされる連携の手立ては一様に決まらない。つまり、連携の取り組みほどローカルな営みはないのであって、私たちは、それぞれの地域にオリジナルな実践を創造していくしかないのである。
本書では、現場で保育や教育に携わっている保育士や教員に、自身が取り組んできた保幼‐小連携の実践を紹介してもらった。また、親の立場から見た保幼‐小連携のニーズを明らかにしたかったこともあって、保護者の方にも執筆を依頼した。
それぞれの執筆者の語りからは、連携のための三つのヒントが具体的な実践としてどのように実現されているかが読み取れると思う。今まさにこの問題に直面している方々に、何らかの手がかりを提供することができれば幸いである。
最後になるが、明治図書の佐保文章さんと安久津可南さんには、編集にあたってたいへんなご尽力をいただいた。心からお礼申し上げたい。
/佐藤 曉
オーダーメイドマニュアルを使った連携が光っている。