- まえがき
- 授業での活用方法について
- 物語の活用事例
- [1] 物語を読む
- [2] 感想文を書く・感想を語り合う
- [3] 解説を読む
- [4] 生徒へ問いかける
- [5] 活動プラン1君も「わが町わが村探検隊ツアー」に出かけてみよう
- [6] 活動プラン2君もチーム「小さな理想郷づくりプロジェクト」のメンバーになろう
- 第一部 そうじいさまが語る「むらかみ町おこしのお話」
- [序] 「先祖は君たちを活かそうとしている」の巻
- [1] 「一人の若者現る」の巻
- [2] 「町屋を発見する」の巻
- [3] 「人形さまで町が輝く」の巻
- [4] 「屏風で更に町が輝く」の巻
- [5] 「SL来る」の巻
- [6] 「奇想天外!黒板で風景をつくり直し始める」の巻
- [7] 「全国初!町屋再生の民間プロジェクト始まる」の巻
- [8] 「万物が宝石のように輝き、みんなを後押ししている」の巻
- 第二部 そうじいさまが語る「むらかみ町おこしのお話」の解説
- [1] 物語がめざしているものは理想郷づくり
- [2] 物語を振り返り「地域」を見直す
- [3] 物語の中に見る「観光」
- [4] 物語の中に見る「人間力」
- あとがき
まえがき
「子どもたちを前にある一つのお話をするとしたら、どんな風に語ればいいのか。そしてそこで大切なことを伝えていくとしたら、それはどんなことなのか。」ひたすらに自分自身に問いかけ、そして導き出されてきたのが、この本の物語と学校で取り組む「小さな理想郷づくりプロジェクト」の構想です。
「そうじいさまが語る『むらかみ町おこしのお話』」、これは一人の若者が立ち上がり、様々な町おこしの取り組みによって、廃れかけた町がどんどん元気になり、地域の人たちに誇りがよみがえってくるという実話をもとにした物語なのですが、私はこの物語の主人公と共に実際にこのお話のまちづくりに10年以上携わってきました。その中で、見逃しがちな足元に実に多くの宝が眠っていることや、勇気をもって町にはたらきかけることが驚くほどの善循環を生み出して様々な実りをもたらすこと等に新鮮な感動をし続けてきました。また同時に町はどうあるのがよいのか、真の活性化とは何か、そして人としてどのように生きていくと真に拓けるのか等、様々なことも考え続けてきました。まさに実行しながら、町の変化、人々の意識の変化、そして外部のお客様からの数々の声と反応等に育てられながら、私自身ここまできたのでした。そんな経緯の中で、どうもまちづくりの中には人生の大切なことがすべて入っているのではないかと感じるようになっていたのですが、特に私がまちづくりを通して見せてもらった出来事や現象には、深い意味合いが見て取れるものが極めて多くあるようにも感じてきました。
ちょうどそんな頃、私がそれ以前に出版していた、この活動のドキュメンタリー『町屋と人形さまの町おこし』(学芸出版社刊)が、当初思いもよらなかった教育現場で教材として採用されるということが起こってきました。新潟県下を中心とする各地の中学・高校でむらかみのこの町おこしを題材として、地域学習・総合学習をされる所が出てきたのです。それ以外にも、関東圏の高校や予備校ではリーダーシップ論の教材として取り上げられる所が出てきたり、また子どもたち対象のみならず、教職員研修の場で利用されるというようなことも出てきました。私自身は、このまちづくりの中心人物の妻として二人三脚で活動してきて、町やそこに暮らす人々の変化を誰よりもつぶさに見つめて本を著しましたもので、おのずと学習の最後の仕上げに学校へ出向いてお話をして締めくくってほしいという依頼がくるようになってきました。そのようなことで学校で生徒さん方を前に町おこしのお話をするようになっていったわけですが、実にどこでも生徒さんたちが食い入るように話を聞いてくれ、目に輝きが増してくるのが感じられ、加えて先生方も大変に刺激を受けてイキイキとよみがえられるかのようであるのを、私はとても嬉しい手ごたえとして感じてきました。生徒も先生も皆、「人生とはやりようによって、すばらしいものになるのだ。」という強い肯定的メッセージに渇望していたのだと痛感した次第です。
しかし一方では私はそうした好意的な反応にもかかわらず、自分自身の深い部分からもち上がってくる何か疑問のようなものをも感じ出すようになってきたのでした。
「子どもたちに真に伝えるべきことを伝えていないのではないか。私自身はこの町おこしのお話を通じて一体何を一番伝えたいと思っているのか。」
まさに根幹から自身が揺さぶられるような疑問を感じ出したのでした。そして私は行きつ戻りつしながらも、実は深い部分では気付いていながらあえて語らずにきた大切なことについて、これからは子どもたちに語っていった方がいいと思うようになっていったのです。
「町おこしで実際に行ってきたこと、起こってきた変化に加えて、目には見えないけれど、山川草木はじめ土地のすべてにくまなく行き渡っている先人たちの遺徳に運ばれて、これまで活動させてもらってきたということ。そしてまた目には見えないけれど、『なにものか』としか言いようが無い、わたしたちを活かそう活かそうとするはたらきに包まれてここまできたように感じてきたこと。これからはそういったことも併せて子どもたちに語っていった方がいい。自分の町で自らを活かす大切さに加えて、私たちを裏打ちしてくれている何か、支えてくれている何かのこと等も教育の現場で話す人間がいてもいいのではないか。第一そういったことも含めて語らねば『真のお話』にはならないし、根幹からのすべての見直しや根っこからの問題提起もできない。」
そんな風に思い出した私は、前著の『町屋と人形さまの町おこし』を子どもたち向けに別の角度から新たに書き換えることにしました。もちろん、現実の町おこしのお話なので、人々の行動と町の変化等が中心なのですが、そこにこのような視点を添え、見える世界と見えない世界が支え支え合い、包み包まれ合って活動が進展してきたさまを描こうと思い至ったのです。そして実はこのことは、子どもたちが自分たちの地域や学校生活等の身の回りをよくしていこうとする際に、最終的に必要となってくる考え方や見方ではないかとも思うようになってきました。この思いはその後、自らの内側で長く温められ、自分たちの身の回りをよくするために必要なことは別の言葉で言い換えるならば、次の2点ではないかと思い至るようになったのです。その2点とは、@大人も子どももそれぞれが、見つめる対象の中に豊かな心象風景を見るように訓練すること。これは具体的には見えない世界の恩恵やはたらきを感じたり、見つめる対象の中に優れた点や輝き、可能性等を見ること。A私たちもなにものかのはたらきに習い、身の回りの人・物・自然・風景…すべてのものを活かし直し輝かせ直すことを実際に行っていくこと、です。そこで物語の中には心の目で見た風景のありようや、様々なものを活かし直す具体的な例をできるだけ盛り込みました。
更にこの物語が伝えようとしていることを深く理解していただくために、「地域」・「観光」・「人間力」の3つの角度から、補足説明を加えた解説をすることにしました。また物語をきっかけに、是非学校で身の回りを改善していく具体的な「小さな理想郷づくりプロジェクト」の立ち上げへと発展させてもらいたいと思い、活動プランも併せて載せることにいたしました。全体としては「学校の授業での活用例とプロジェクト展開」・「物語」・「解説」の三部構成になっています。
繰り返しになりますが、この本が最終的にめざしているものは、子どもたちが豊かな心象風景を見出そうと自らの見方を育むようになること、そして自分たちの小さな身の回りから見直して、少しでも活かされるものを増やし、自分自身をはじめ少しでも多くのものを輝かせて、自分の周囲から小さな理想郷に近づけていく人が増えてくれることです。私が心に描く理想郷とは、土に風に草一本に先人の遺徳が息づき、それを味わえる人が多くいる所。人も物もすべてがイキイキキラキラしている所。皆が自分たちの住む場所に誇りをもって、すべてに思いやりあふれる所。それぞれの個性を尊重し合いながら、万物を活かし直そうと努力工夫する所、等です。
是非この物語をきっかけとして、大人も子どもも改めて学校を、家を、地域を、周囲の自然を、奥行きのある目で見つめ直し、一人一人の周辺に小さな理想郷を実現するための一歩を踏み出していってもらいたいと思います。このプロジェクトはきっと自らを活かす場合にはもちろんのこと、他のものを活かそうと工夫しているうちにも、実は自らが最も活かされていた、という結果をもたらしてくれることでしょう。そしてその小さな小さな理想郷の集合が、きっと輝くよき地域をつくり、輝くよき地域の集合が、きっと輝くよき国の再生につながるものと信じております。
思い起こせば極めて早い段階から、私はこの物語の町おこしの中に底知れぬ価値を感じてきました。課題は山積しているとは言うものの、一地域にとどまらない、ここには万人が共有できる何かがあると思っています。子どもたちに学習を深めていってもらう過程としては、この物語を通して、一人が行動を起こすことがいかに大きい変化を生むか、一人一人のもつ潜在力が大きいことや、それぞれの地域・足元に宝があること等をまず知ってもらいたいと思います。そして私たちを包む世界が目に見えない世界に裏付けされていることをそこはかとなく感じ、同時に、連綿として遠い先祖からいのちが受け継がれてきた先に今自分たちが存在していることを、改めて思い出してもらえればと思います。
物語全体を通じては、「活かす」ということをモチーフとして、人や物等、すべてのものを具体的に活かし直し、更に輝かせることが理想郷への「特急切符」だと信じ、その大切さを繰り返し述べました。常に「よりよく活かそう」と考え行動する訓練につなげてもらえればと思います。そして何よりもまず自らが輝き、自らを活かしきるために、勇気をもって心に描く夢に一歩を踏み込んでいこうと、物語全体を子どもたちへのエールにしたつもりです。先生方、大人の方には子どもたちの小さな一歩のきっかけづくりと励ましをお願いしたいと存じます。
この度は、町おこしを題材として学校の教材のような形で出版する運びとなりましたが、学校から、子どもたちから、ユニークな小さな理想郷づくりのプロジェクトが社会に発信されてくることを期待しています。
/吉川 美貴
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