- はじめに
- 第T章 総合学習とは何か?
- §1 人類が産み,人類と共に生きた文化としての数学を!
- §2 教科の隔壁をはずそう
- 第U章 数学を中心とする総合学習の展開
- §1 総合学習の意義
- §2 横断的な課題と関連して
- 第V章 中学校における数学と現実との関わりの歴史
- §1 旧制中学に見られる実用問題・応用問題
- §2 戦後「生活単元学習」における現実体験への積極性
- §3 「系統学習」,「現代化」における数学と現実との関わり
- 第W章 現実事象への実践を通して学ぶ数学
- §1 「生きる力となる数学」の実践
- §2 「生きる力となる数学」から「総合学習」の芽生え
- 第X章 数学を中心とする「総合学習」への発展
- §1 「総合学習」への出発
- §2 「総合学習」の実践
- §3 数学教育としての「総合学習」と,その展望
- §4 「数学を中心とする総合学習」の構成と展開
はじめに
この本は,中学校「数学+総合学習」全4巻の,第1巻にあたる「総論編」です。中学校「数学+総合学習」全4巻では,2002年度から,中学校で実施される「総合的な学習の時間」について,数学教育の立場から,中学校で実現してほしい,総合学習の理論と実践について執筆しました。全て,私ども研究者が,先進的に実践してきた,総合学習に関する研究を資料としています。この総論編では,歴史的な検討の上に立って,総合学習の,現在と将来の展望を執筆しました。学習指導要領では,総合学習の主題の事例として,とりわけ,国際理解,環境教育,情報教育が取り上げられています。そこで,第1巻に続く,3巻の各巻では,それぞれに,これらの主題について,私どもの実践と研究を公にしました。第1巻の総論編と共に,これら3巻を活用されることを願っています。
私どもの,長い数学教育の研究歴から見て,総合学習は,もともと,ここ数年に発生した学習方法ではありません。
既に,1975年頃には,私どもは,生徒達が,進んで,意欲的に,数学を学習するには,数学の内容を,形式的に指導していては駄目で,数学を,生徒達の生きざまと結びつくように,学習させることが重要であると指摘しました。そして,「生きる数学」の学習を実践し,多くの成果をあげました。
やがて,10年後の1985年頃には,数学の授業中,板書する先生の頭に,パチンコの玉が飛んできたり,始業のベルが鳴っても,生徒達が教室に入らなかったりと言う,「荒れ」が,全国の中学校に広がりました。「生きる数学」の実践を怠った「つけ」であり,時代の変化でもありました。こうした「荒れ」を克服するために,私どもは,自然や社会の問題の解決に,数学を活用する「総合学習」を開拓し,実践しました。そして,荒れの克服に成功しました。この総合学習では,生徒達が,自然や社会の問題を,数学を中心に,言語を初め,他教科の内容をも採用して,解決していくのです。私どもは,この総合学習を「数学を中心とする総合学習」と呼びました。この「数学を中心とする総合学習」を通し,生徒達は,自然や社会の問題を,協力して,意欲的に解決するのです。そして,この協力と意欲が,生徒達を,一段と高次の数学の,体系的な学習に向かわせることも明らかとなりました。
もちろん,数学の学習を,上のような,総合学習だけで通すのは妥当ではありません。数学それ自体の, 体系的な学習が,まず重要であって,この学習の発展として,総合学習を展開するのです。その際,注意したいことは,総合学習は,既習の数学の応用だけに留まらないことです。総合学習によって,生徒達自らが,高次の数学を,自発的,開拓的に学習するようになるのです。私どもは,中学校「数学+総合学習」全4巻の,総論編に続く3巻では,国際理解,環境教育,情報教育から主題を選びました。これらの巻の内容を参考に,総合学習を実践して頂くと,生徒達の「高度の数学の自発的,開拓的学習」が発見出来るでしょう。
本書では,横地が「数学を中心とする総合学習」について,今日的意義と内容を述べました。菊池が,総合学習が生まれるまでの歴史的経過を,資料に当たって述べました。これらをお読みになり,総合学習の,本来の意義を,広範な観点から把握して頂けれは幸いです。更に,総論編に続く3巻も,活用して下ることを願っています。最後に,中学校「数学+総合学習」全4巻の発刊について, 私どもを激励し,発刊を実現して頂いた,明治図書の江部満氏初め,編集の方々に,厚く感謝します。
2001年9月1日 著者 /横地 清 /菊池 乙夫
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- 明治図書