特別支援教育の授業技術論2
<学び>を促す「示範」のアイデア

特別支援教育の授業技術論2<学び>を促す「示範」のアイデア

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障害に合わせた模範を示すことで学びを促す授業を提案!

特別支援教育は、為すことによってまね学ぶ教育と言われている。本書は、教師の示範によって子どもたちが自主的にまね学ぶことができるようになる指導のアイデアを紹介。示範の手立てから授業案までを特別支援教育の視点からくまなく解説。明日からの授業が変わります。


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ISBN:
978-4-18-039221-6
ジャンル:
特別支援教育
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 128頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

もくじの詳細表示

はじめに
第1章 〈学び〉を促す示範のアイデアを求めて
1 最も感動的で最も輝かしい成果
2 示範とは何か
3 教育現場での示範研究
4 特別支援教育の授業では,〈学び〉を促す示範が重要である
5 示範と師範
6 教育実践の「用語辞典」に学ぶ示範
7 示範と演示
8 特別支援教育の授業実践にみる示範
9 示範は例示か
第2章 『アヴェロンの野生児』にみる示範のアイデア
1 示範に学ぶ野生児
2 欲求のサイン
3 もう一度はじめから
4 真の模倣授業
5 精神と様式を模倣させるための示範
第3章 3つの示範論に学ぶ示範
1 示範で勝負
2 学習効果を高める教師示範論
3 学習効果を高める示範論
4 力を確実に高める示範論
5 3つの示範論に学ぶ
第4章 模倣授業からの学び
1 模倣〈関係〉から学びを育てる
2 示範事象と子どもの学び
3 母親からの報告
4 模倣〈関係〉について
5 実践報告のまとめと省察
第5章 示範の評価
1 示範の分析視点
2 示範による学習の段階における分析視点
3 示範を見せる場所
4 いつ示範を使用すべきか
5 だれが示範をするか
6 ビデオ等による示範
7 示範の評価
第6章 発達からみる示範
1 発達実態の把握から解釈へ
2 実態把握と教材発掘・解釈
3 模倣の発達と示範
4 イメージの発達と示範
5 「いっしょに」やるための示範のアイデア
6 教師の意図と模倣
7 示範と見通し
8 教材論と発達
9 授業づくりのための発達把握の手がかり
第7章 示範の再考のために
1 示範から〈つなぐ授業〉へ
2 授業案からみる特別支援学校の授業の特徴
3 教育方法の歴史を顧みると
4 「つなぐ」教授行為を巡って
5 子どもと子どもをつなぐ教授行為
6 示範と教育課程の編成
7 対象観と教育課程
8 脳研究と教育
9 これからの教育課程の編成のために
おわりに

はじめに

 いまから27年前,私は,養護学校中学部で3年生を担任していた。そのとき,『学級だより』に「見様見真似で」のタイトルで次のように書いている。


 「昼休みに子どもたちとソフトボールをします。そのとき,私はピッチャーをすることがあり,ウィンドミル(風車)という投げ方をしています。つまり,風車がまわるように,腕をぐるんと一回転して投げるのです。それを見ていたF君が,自分もピッチャーをやりたいと言い出して,この頃は昼休みに練習に励んでいます。昨日の昼休みも体育館で練習していると,Y君がグローブとボールを持ってやってきました。そこで,私が,『F君と一緒にやろう』というと,投げ始めました。それが,ウィンドミル投法だったのです。Y君は,見ていないようでいつのまにか覚えていたのです。」


 F君は,スポーツが得意であり,ソフトボールチームに入りクラブ活動をしていた。一方,Y君は,日頃の様子ではソフトボールに関心があるようには見えなかった。しかし,ある日このような光景が見られたのである。おそらく,Y君のことをよく知る保護者の方々は,ウィンドミル投法を真似ようとするY君の姿を思い浮かべ意外に思われたことであろう。

 「見様見真似で」を書くさらに5年前,私が同じ学校の小学部低学年(1・2年)の担任だったときの「学級だより」にも下記の一文を書いた。


 「学ぶ(まなぶ)とは〈学ぶ(まねぶ)〉である,とよく言われます。つまり,真似をする,模倣をすることによって,子どもたちは学習していくのです。このことは,子どもたちの自発的,自主的な学習の出発といってもよいです。」


 このように書いていた。そして,「それでは,このような学ぶ(まねぶ)ことが,どのようなとき起こるのでしょうか」と問いかけている。さらに,別の箇所では,「この問いは,教える側,模倣のモデルとなる側にとって,共通のことですし,かつ重要なことなのです」と記した。

 これは,子どもの模倣(学び〈まねび〉)が起こる条件,あるいは教師の示範のあり様を問いかけているということになる。示範する側の問題を提起して,私自身が答える,つまり自答している。私は,どのように自答したのであろうか。

 答えは,ドイツの哲学者であり,教育学者であるボルノーの「被包感」の考え方(森昭他訳『教育を支えるもの』黎明書房 1976)を挙げて,子どもが周りの者に護られて,安全であり,そこではくつろげると感じられる場が大事であり,「真似てみようとする雰囲気が大切である」と書いている。教師になって4年目の秋に書いた文章である。当時,一回600字程で書いていた「学級だより」であるので,詳しく分析的に書いていたわけではなく,この場合ももっとも基本的なことしか書いていない。当時の私には,分析的,研究的にもこれ以上のことは書けなかったのかもしれない。

 『広辞苑(第六版)』(新村編 2008)には,「まねぶ【学ぶ】(「真似る」と同源)@まねてならう。まねする。A見聞した物事をそのまま人に語り告げる。B教えを受けて習う。修得する。」とある。

 授業には,さまざまな展開のし方がある。例えば,ある子は始業チャイムを聞いて一人で教室にやってくる。ある子は教師と一緒に戻ってくる。そのとき,教室では授業者が何か楽しげに新聞紙を破って段ボール箱に入れている。集まってきた子どもたちも,授業者につられて次々と新聞紙を破っては箱に放り込む。こうして始まる授業がある。授業者は,とりたてて「これを見てごらん」とか,「こうするんだよ」などとは言わない。黙って新聞紙を破っているだけであるが,子どもたちは授業者のやることを真似ている。ここから授業が展開していく。

 また,別の授業では,「はい,みんな,こっち見てください。天井から何かぶらさがっていますね」と授業者が話し始めて,次にくす玉を割ってみせる。子どもが歓声を上げたところで,くす玉の作り方を示範し説明する。

 このように授業の展開のし方はさまざまであるが,分析的に見ると,子どもの学習活動が授業目標に向かって組織されるように,授業者が示範し,指導言を与え,試行させて評価している。授業の中に,このような一連の教授行為が抽出できる。そのことにより,子どもは自ら活動するようになるのである。

 教師が「このようにやりますよ。よく見てください」と行うか,勝手にやっているかのようにさりげなくやって見せるか,授業の展開のし方によってさまざまな見せ方,聞かせ方がある。これは,いわゆる示範である。

 本書は,子どもたちが自ら学ぶための示範について書いたものである。知的障害の子どもたちの教育は,「為すことによって学ぶ」教育といわれてきた。活動することによって学ぶことの多い特別支援教育では,子どもたちにどのような活動をどのようにするのか,教師は示範によって伝える。それが示範であるのか否か,伝えるのは行動の形式なのか等も含めて,その考え方や工夫という意味で,示範のアイデア(idea)について検討する。すなわち,示範の考え方や工夫について実践的に貢献できるアイデアを考えてみたい。


 最後になりましたが,教育書編集部の三橋由美子さんと川村千晶さんには,貴重なアドバイスをいただく等,このたびもお世話になり,ありがとうございました。また,本書でも,共同研究者やスーパーバイザー等の立場で多くの授業を参観させていただき,授業実践の記録及び授業案を資料とさせていただきました先生方には,心より感謝申し上げます。


  平成22年初夏 千千の若葉風そよぐ下総にて   /太田 正己

著者紹介

太田 正己(おおた まさみ)著書を検索»

1953年生まれ。京都教育大学教授,同附属養護学校校長,皇學館大学社会福祉学部教授,中央教育審議会専門委員(特別支援教育)を経て,現在,千葉大学教授,京都教育大学名誉教授,博士(学校教育学),学校心理士。

現在,特別支援学校,特別支援学級,または通常の学級に出かけ,現場の教師たちとともに障害のある子どもたちの授業づくりを行うとともに,よりよい校内研修としての授業研究会を進めるためにRP法を導入し,スーパーバイザーとして加わる。専門は,特別支援学校等での授業づくり,授業研究。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書

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