教材発見:町ウォーキング−商店街から近代化遺産まで

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社会科の調べ学習は言うに及ばず、総合でも地域学習がメインになる模様です。本書は教材化のノウハウ、どこに目をつければよいかなどをプロが伝授。


復刊時予価: 2,156円(税込)

送料・代引手数料無料

電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-046011-4
ジャンル:
総合的な学習
刊行:
対象:
小・中・大
仕様:
A5判 104頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

プロローグ
第1部 町ウォーキングの基礎基本
第1章 教材発見・町ウォーキングの必須アイテム
1 カメラ
2 メモ帳
3 デイパック(リュック)
第2章 校区めぐりのウォーキング
1 狭い道路を歩く
2 校区の年齢を考える
第2部 授業づくりへの町ウォーキング
第1章 「町探検」につながるウォーキング
1 活動・素材について
2 町探検への誘い方
3 地図の使い方
第2章 子どもによる町ウォーキングのまとめ方
1 写真地図をつくる
2 国際理解教材
第3部 行き先別・町ウォーキング術
第1章 商店街ウォーキング
1 古看板・屋号
2 店構え
3 商品展示
4 アーケード
5 路上
6 音とにおい
第2章 都心ウォーキング
1 デパートは凄い,でも女性はなお凄い
2 都心公園
3 駅
4 街路樹
5 待ち合わせ場所
6 下を向いて歩こう
第3章 ニュータウン・ウォーキング
1 宅地売りだし看板
2 コンビニ・自動販売機
3 ガーデニング
4 子どもの遊び場
5 階段と坂道
第4章 農漁村ウォーキング
1 地名
2 道祖神
3 金物屋・雑貨店
4 テトラポット
5 砂浜漂着物・投棄
6 漁業協同組合
第5章 歴史町ウォーキング
1 町家
2 神社仏閣・墓地
3 蔵と掘割・運河
4 城
5 樹木
6 戦争遺跡・慰霊碑
第6章 近代化遺産ウォーキング
1 発電所・ダム
2 工場
3 港
4 運河・水路・橋
第7章 町ウォーキングから地域学習へ
1 社会科はどう変わったか
2 地図はどんな力を育むのか
3 ガリバーとアリスの眼
4 家庭における地図活用
エピローグ

プロローグ

 「ブーム」と言うより,いまや定着しきった感じのするウォーキング人気。高齢者だけでなく,若い主婦やOL,中年男性までもが楽しんでいる。ウォーキングは,体にいい。

 しかし,そうは思っていても,なかなか実行に移せなかった方も多いのではないでしょうか。とくに,教師という忙しい仕事についている先生方にとって,気が付いてみると町をゆっくり歩くという愉しみを忘れてはいなかったでしょうか。

 時間がとれない,車や電車通勤だから,一人で歩くのはおっくうだし,なんとなく恥ずかしいからなどと理由はさまざまでしょう。でも,教材発見にも役立つとしたら,一石二鳥なのではないでしょうか。

 団塊の世代と呼ばれる50歳代のベテラン教師にとっても,勤務年数がまだ数年の若い教師にとっても教材発見ウォーキングは多くの効用があるのです。主な効用を5点にまとめてみました。

 第1点は,使っていなかった五感が働き出すという点です。

 教師という職業はどうしても見る(教科書を見る)こととしゃべる(児童に発問・指示する)ことを頻繁に行う職業なので,知らず知らずのうちに町に出て風の音を「聴く」とか町の匂いを「嗅ぐ」とか,足裏で地面の感触を楽しむとか,肌で賑わいを感じるとかいった体験が不足がちになります。

 歩くことで脳も活性化するし,血液の循環もよくなります。もちろん足腰も強くなります。ストレスも解消するかもしれません。

 第2点は,発見の喜びがあるという点です。

 教材発見を兼ねたウォーキングなので当たり前なのですが,自分の住んでいる町でも案外見えていないものです。毎日通る駅までの通勤路でも,素通りしているものや気にかけなかった場所が意外にあって気付かない人もいます。教材発見・町ウォーキングによって「あれ,ここにこんなものがあったのか!」なんていう驚きや感動を味わえるかもしれません。

 こういった体験は自動車に乗っていたり,電車からではけっして味わえません。自分の足で発見への意識や意欲を持って歩いてはじめて見えてくるのです。生き物が好きで自然散策が大好きな方には,こういった感覚はたぶん理解できるでしょう。珍しい草花や虫たちを見つけて喜ぶ時と同じように,町ウォーキングでもいろいろな発見の喜びがあるものです。

 第3点は,地理を識ることができるという点です。

 土地勘といってもいいでしょう。とくに町の地図を片手に歩けば,何だかその町を探検し尽くして,征服者にでもなった気分になれるから不思議です。「あの人は地理に明るい」とか「わたしは地理に不案内なものですから……」といった言葉は,道をよく知っているか否かが会話されているのです。

 道に詳しくなれば,いつでもあそこに行けば,その教材が手に入る,という余裕が生まれます。いわば,町全体を教材のストック箱と見るのです。地理を極めれば環境や文化との対話能力が高められ,自分の世界像も豊かになります。町ウォーキングに長けた方は,たとえ外国の町を歩く場合でも気付きが格段と違ってきて,旅を楽しめることができます。まさに,地理を学べば人生2倍楽しく生きられます。

 第4点は,歴史に出会えるという点です。

 平城京跡を訪れればいにしえの奈良に出会えたり,長崎という坂の町を歩けば南蛮文化に出会える,というわけです。

 身近にある町にも何らかの歴史がひっそりと隠れているものです。道端のお地蔵さんにもいわれがあるのです。「この場所でずっとお地蔵さんは歴史を見ていたんだな」「ひょっとしたら松尾芭蕉も通った道かも?」と想像するだけでもウォーキングの効用が発揮されます。

 そして,最後の第5点は,ネットワークがつくれるという点です。

 ここでいうネットワークとはメールでつながる人間関係でなく,町の人と顔見知りになるという古典的なネットワーク(人脈・つて)のことです。町を歩き,いろいろなものや場所と出会い,発見を愉しむというプロセスを通して,人と愉快に会話できる自分に気付くはずです。

 酒屋の旦那さんと知り合いになる,博物館の学芸員と面識ができる,農家のおばさんと畑で立ち話をしたなどの経験が教師としての人間味をさらに磨いてくれるでしょう。

 以上の5点の効用をときどき思い出しながら,「今度はどの町をウォーキングしようかな」と計画を立てようではありませんか。本書を通して,ほかの教師とちょっと違った教材発見術を身に付けて下さい。きっと生活科や社会科はもとより,総合的な学習にも活用できる知識と経験が蓄積されるはずです。

 なお,本書は明治図書編集長の樋口雅子さんに勧められたおかげで楽しく筆を進めることができました。末筆ながら,記して感謝申し上げます。


  平成13年初秋   /寺本 潔

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      明治図書

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