- はじめに
- T 特別支援教育の中での読み書き指導の考え方
- 1 読み書きを行うための脳の仕組み
- 2 脳の障害やその子の特性をとらえるためのアセスメント
- 3 指導のための十のポイント
- @ 支持的風土
- A アセスメントを生かす
- B 言語基礎力の育成
- C 生活の必要性
- D 焦点化
- E 視覚化
- F 動作化・劇化
- G 構造化
- H 共有化
- I 個別化・個性化
- U 特別支援教育が必要な子どもへの読み書き指導の実践事例
- ※使用したスクリーニングテスト小国AはW章に、思考力テストはそれぞれの実践例末尾に所収。
- 小学生の読み書き指導の実践事例
- 一年生 「おとうとねずみチロ」
- 【スクリーニングテスト小国A+思考力テストを使用】
- ★アセスメントを生かす/動作化/言語基礎力の育成〈音読〉/共有化
- 二年生 この本おもしろいよ「名前を見てちょうだい」
- 【スクリーニングテスト小国Aを使用】
- ★アセスメントを生かす/音読/視写
- 三年生 詩を作ろう 〜ぴったりの言葉を集めて〜
- 【スクリーニングテスト小国Bを使用】
- ★アセスメントを生かす/言語基礎力の育成/視覚化/共有化
- 四年生 くらしの中の世界について調べよう「くらしの中の和と洋」
- 【スクリーニングテスト小国B+思考力テストを使用】
- ★アセスメントを生かす/構造化/視覚化
- 五年生 「新聞記事を読み比べよう」
- 【スクリーニングテスト小国C+思考力テストを使用】
- ★アセスメントを生かす/個別化・個性化/共有化
- 五年生 「大造じいさんとがん」
- 【スクリーニングテスト小国Cを使用】
- ★アセスメントを生かす/個別化・個性化/視覚化/共有化
- 特別支援学級 携帯ツールを使用した書字指導の効果
- 【漢字小テストを使用】
- ★アセスメントを生かす/個別化/視覚化
- 中学生の読み書き指導の実践事例
- 一年生 古典「竹取物語」「枕草子」
- 【スクリーニングテスト中国を使用】
- ★アセスメントを生かす/言語基礎力の育成/視覚化/個性化/共有化
- 二年生 古典「平家物語 那須与一」
- 【スクリーニングテスト中国を使用】
- ★アセスメントを生かす/言語基礎力の育成/動作化・劇化/支持的風土
- 二年生 歌コトバ なぜ日本人は和歌を詠むのか?
- 【スクリーニングテスト中国を使用】
- ★アセスメントを生かす/支持的風土/視覚化/共有化
- 三年生 説得力のある意見文を書こう「主張を書こう」
- 【スクリーニングテスト中国を使用】
- ★アセスメントを生かす/生活の必要性/構造化/視覚化
- V 実践の評価と課題
- 1 特別支援教育の専門家から
- 2 すばるのスクリーニングテスト開発担当者から
- 3 各実践の評価
- 4 実践の総括と展望
- W ICT最新情報&すぐ使えるプリント資料―コピー可
- 筆順アプリの紹介
- 国語科スクリーニングテスト
- 小国A
- 小国A(第1・2学年)実施マニュアル
- 小国A(第1・2学年用)正答及び判断基準
- スクリーニングテスト評価用紙 小国A
- スクリーニングテストについての解説
- あとがき
はじめに
国語の研究授業の様相が、ここ十年で大きく変わってきた。公開の研究授業の中でも特別支援教育を必要とする子どもが目につくようになってきた。研究授業の最中に、ひたすら消しゴムに穴をあけている子、授業の途中で急に叫び出す子、ノートを書いている友達を指でつついて作業を邪魔する子、先生方は汗をかきながらその対応に苦慮されていた。一人の子どものために研究授業のねらいから外れた授業になり、討議にならなかったこともある。
二〇〇八年度に、香川大学教育学部大学院では、特別支援コーディネーター専修コースを開設した。このコース開設の二年前、私は、このコースのための「障害児の読み書き指導」の授業担当を依頼された。依頼者の話では、「現在、LD(学習障害)児の読み書き指導が、問題となっている。そこで、小学校入門期の国語指導などのことを話してほしい。」ということであった。入門期の国語指導は私の研究エリアなので、授業の担当を快諾した。ところが、特別支援教育士資格認定協会のテキスト(1)などを注文し、調べてみると、私が研究してきたのは、普通学校に通う健常児童の言葉の力を育るための指導原理や指導方法であり、LD児童・生徒に適応できる部分もあるけれども、専門的な別の知識が必要であるということが分かった。そこで本や論文等の資料を取り寄せながら、入門期の国語指導の知見と特別支援教育で開発されてきた知見とを融合させる研究に取り組むことになった。
さらに私は、二〇〇八年度より、香川大学教育学部附属特別支援学校の校長に併任された。そこで、公立校の特別支援学級在籍児童・生徒よりも、もっと障害の重い児童・生徒と接したり、その授業を見る機会を得た。自閉症やダウン症といった様々な障害のある児童・生徒とかかわり、また先生方の日常の指導法を見ることで、机上でしか知らなかった事柄の実践的な裏づけをとっていくことができた。そして、この機会に私が学んだことは、公立校の普通学級にいる軽度の障害のある児童・生徒の言葉の力を育てようとしている先生方のお役にも立つのではないかと考えて、プロジェクトを立ち上げた。プロジェクトメンバーは、香川大学教育学部附属高松小学校、附属坂出小学校、附属高松中学校、附属坂出中学校、それぞれの国語部の先生方と附属特別支援学校、及び公立校の三人の先生方である。特別支援学校や特別支援学級の先生方もいるが、主として国公立の普通学級の先生方である。先生方が、今、国公立の普通学級の中にいる読み書き指導の困難な子どもの対応に課題を持っていたからである。
以下、私たち研究グループが取り組んだことは、主として普通学級にいるLD、ADHD、高機能広汎性発達障害(高機能自閉症やアスペルガー症候群)等のいわゆる「読む/書く」領域の指導が困難である児童・生徒の読み書き指導の方法の開発である。「読む/書く」領域の指導が困難である児童・生徒に対して、我々は、まず、その困難はその子の脳のどのような仕組みの問題であるかをとらえようとした。そのためのアセスメントはいくつかあるが、私たちが主として取り入れたアセスメントは香川大学教育学部特別支援教室(通称:すばる)で開発されたスクリーニングテストである。このスクリーニングテストは短時間で全員の子どもに対して一斉に行うことができる。このテストの分析結果をもとに、先行研究やすばるや附属特別支援学校で開発されてきた方法を取り入れて、その子の認知特性に応じた指導方法を工夫・開発し、それを普通学級での一斉指導の中に組み入れたのである。このすばるのスクリーニングテストは、W章に小学校低学年用の問題文、実施マニュアル、正答及び判断基準、評価用紙を所収している。
私たちが開発した方法は、現在、先生方が受け持たれているクラスの中にいる「読む/書く」領域の指導がこれまで困難であった児童・生徒の指導改善のヒントとなるだけでなく、そのことが、クラス全体の分かりやすい授業となりクラス全員の学力向上につながるものになると確信している。
(1)上野一彦・竹田契一・下司昌一監修 特別支援教育士資格認定協会編『特別支援教育の理論と実践 U指導』金剛出版 二〇〇七年
香川大学教育学部 /佐藤 明宏
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