- まえがき
- 第1章 コミュニケーション障害へのアプローチ
- 1 コミュニケーションの課題と特徴
- 1◆なぜ,ことばが理解できにくいのか
- 2◆なぜ,オウム返しをするのか
- 3◆ことばがあるのに,なぜ,会話ができないのか
- 4◆なぜ,ことばが獲得できないのか
- 5◆ことばがないのに,なぜ,ことばが理解できるのか
- 2 コミュニケーション能力を高める支援
- 1◆コミュニケーション・マインドを育てる
- 2◆意図を相互理解する
- 3◆行動的理解力を高める
- 4◆見通しの立つ環境設定をする
- 5◆般化できる力を身に付ける
- 第2章 コミュニケーション能力を高める指導・支援の実際
- 1 ことばがけに応じるのがむずかしい子ども
- 1 パニック軽減を目標に取り組んだAくんへの関わり
- 2 安心できる場づくりと好きなことを生かした指導
- 2 ことばの意味を取り違えることの多い子ども
- 1 キーポイントはこまやかな配慮と指示
- 2 語義のずれからコミュニケーションが難しい事例
- 3 身振りや表情を使うことの少ない子ども
- 1 人とのやりとりを手掛かりに
- 2 自分の要求が伝わると心の安定につながったAくん
- 4 自分の意志を伝えるのがむずかしい子ども
- 1 自己表現を育む共通のステージ
- 2 重度の知的障害を伴い,意志の表出自体が困難な子ども
- 5 ことばよりも行動や態度で表す子ども
- 1 筆者と子どもたちとの「異文化コミュニケーション」
- 2 有意味な音声言語をもたないAくんに対する写真や絵カードを使ったコミュニケーション指導
- 6 独り言や同じことの繰り返しが多い子ども
- 1 失禁が減り,トイレに行きたいことを伝えられるために
- 2 自分の世界から一歩ずつ踏み出すための支援
- 7 しゃべるほどにはことばの意味を理解できていない子ども
- 1 自閉傾向の強い子どもへの指示の理解の指導〜『できるかなゲーム』について〜
- 2 ことばの理解が進み,パニックがなくなったAさんの実践から
- 8 オウム返しの多い子ども
- 1 視覚支援によるコミュニケーション能力の向上
- 2 Aくんのコミュニケーションを豊かにする取り組み
- 9 一方的に話し,会話になりにくい子ども
- 1 相手や状況に応じた話し方を知り,自分から話しかけたり相手の話を聞いたりする力を育む指導
- 2 「聞く・話す・伝えるスキル」の獲得を通して会話につなげていく
- 10 人に伝わりにくい言い回しをする子ども
- 1 話に脈絡がなくことばの使い方がぎこちない児童の指導
- 2 日常生活への般化をめざした学習内容の工夫〜家庭との連携を図りながら取り組む〜
- 11 ことばがあり会話もできるが,対人関係に課題のある子ども
- 1 小集団を活かしたコミュニケーション指導〜セルフエスティームの向上を図る小集団での取り組みを通して〜
- 2 イラストを利用した支援
- 12 冗談や例え話が通じない子ども
- 1 自分の気持ちをコントロールしたいAくん〜冷静にことばで伝えられるように〜
- 2 視覚に働きかける会話練習法
まえがき
自閉症の子どもは,コミュニケーション面においてさまざまな課題を抱えています。有意味な音声言語をもつ人から,発声はするものの有意味な音声言語をもたない人,発声する音声言語をほとんどもたない人まで,その状態は非常に幅が広いのが特徴です。さらに,有意味な音声言語をもつ人でも,会話となると,また個々により異なります。一方的に話すことはできても,相手の話を聞くことが苦手で,なかなかにかみ合わない人もいますし,会話は何とか成立するものの,真の意味の理解が難しく,相手の気持ちに反した不適切なことばを発し,トラブルが絶えない人もいます。また,有意味な音声言語をもたない人の中には,伝達意図をもっている人もいれば,伝達意図をもたない人もいます。
ことばの使い方に目を向ければ,多くの好ましくない反応も見られます。オウム返しをする人,独り言を言う人,話し方に抑揚がなく一本調子の人,最初のことばがなかなかでなかったり,何度も同じことを繰り返す人,人称代名詞をあべこべに使う人など,個々により課題に質の偏りもあります。
このように個々によりさまざまな課題をもつ自閉症の子どもに対して,コミュニケーション能力を向上させるのは難しいのでしょうか。決してそうではありません。有意味な音声言語をもたない,ある知的に重度な子どもは,ことばにならない声や身振り,手振りを使って自分の意思を表現したり,要求を伝えることができます。オウム返しが多く,自分から働きかけることがほとんどなかった知的に中度な子どもが,オウム返しが少なくなり積極的に働きかけができるようになった例もあります。多くのことばをもちながら,相手の気持ちを理解したことばを表現することができず,いつも相手に不愉快な思いをさせていた知的に軽度な子どもは,相手の気持ちを理解することを学び,少しずつ適切なことばが発せられるようになりました。
言うまでもなく,コミュニケーションはことばだけが重要なのではありません。ことばがなくてもコミュニケーションがとれる人もたくさんいます。
本書は,このように個々によりさまざまな課題をもつ自閉症の子どもに,どうすればコミュニケーション能力を向上させることができるのか,その指導のアイデアを提供する目的で企画したものです。
第1章では「コミュニケーション障害へのアプローチ」と題し,自閉症のコミュニケーションの課題と特徴及びコミュニケーション能力を高める支援の基本的なあり方についてまとめました。
第2章は「コミュニケーション能力を高める指導・支援の実際」を取り上げ,自閉症の子どもがもつコミュニケーション上のざまざまな課題や特性に対する具体的な取り組みをまとめました。執筆は,全国で熱心に自閉症教育に取り組み,成果を上げておられる先生方にお願いしましたので,必ずや実践の参考になるものと確信しています。
コミュニケーションは生活の基礎・基本で,彼らの将来の社会参加を考えると欠かすことのできないものです。是非,本書を参考に,コミュニケーション能力の向上を図って欲しいと願っています。
なお,本書は「自閉症支援のための基本シリーズ」の第4巻としてまとめたものです。第1巻「自閉症の基本障害の理解とその支援・対応法」,第2巻「不適切行動への効果的支援・対応法」,第3巻「子どもに効果的な教材・教具の工夫」,第5巻「子どもに効果的な授業の工夫」も刊行していますので,あわせてお読みいただきたく存じます。自閉症への効果的な支援のあり方を確認し,日々の取り組みに生かしていただければ幸いです。
本書の編集に当たり,ご多用中原稿をご執筆いただいた先生方には,心から謝意を表する次第です。また,本書の企画,編集でお世話になった,明治図書出版編集部の三橋由美子氏,及び校正に直接たずさわられた川村千晶氏には深く感謝致します。
平成20年11月 編著者 /上岡 一世
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- 明治図書