- まえがき
- 第1章 構造化のねらいと支援のポイント
- 1 構造化とは
- 1 構造化とは何か
- 2 構造化の効果
- 2 構造化の正しい理解
- 1 子どもに必要な構造化とは
- 2 構造化は支援が必要か
- 3 行動のパターン化は必要か
- 4 教師の見通しがなぜ必要か
- 5 QOLの向上がなぜ必要か
- 3 機能する構造化のポイント
- 1 応用・般化すること
- 2 成長,発達すること
- 3 慣れるよりも楽しむこと
- 4 機械的よりも工夫をすること
- 5 思考を純化すること
- 6 指導者が楽をする取り組みを目指すこと
- 第2章 効果的な構造化の実際
- 1 基本的生活を確立するための構造化
- 1 【朝の会】わかって動ける「チャレンジタイム・朝の会」
- 2 【着替え】わかりやすい方法を考える
- 3 【食事】食堂での給食場面で,給食ルールを守る行動を促す
- 4 【排泄】自立に向けたさまざまな取り組みから
- 5 【手洗い】学校における手洗いの支援
- 6 【歯磨き】手順カードを使った3段階の指導
- 7 【掃除】主体的な行動の定着を目指した指導
- 2 学習活動に主体的に取り組むための構造化
- 1 【ことば】「自ら伝える・自ら取り組む」指導を考える
- 2 【かず】数学の学習で獲得した数概念を日常で生かした事例
- 3 【遊び】要求表現を高めるための指導
- 4 【音楽】「音楽」の特性を生かした構造化を!
- 5 【体育】主体的な運動を促す授業づくり
- 6 【図工】自分を作り,自分を表す「図・工,美術」
- 7 【学校行事】卒業式における効果的なアイデア
- 8 【校外学習】“満足!”わたしたちの校外学習
- 3 家庭・学校生活を広げるための構造化
- 1 【通学】道順はオリエンテーリング感覚で覚えちゃおう!
- 2 【交通機関の利用】通学の自立,そして実習先へ
- 3 【買い物】“お買い物”って楽しいね!
- 4 【調理】調理活動を通して子どもの主体性を育む
- 5 【コミュニケーション】気持ちを伝えて,OK! それでわかったよ
- 6 【学校環境】集団参加を広げていくための支援
- 4 職業生活を充実するための構造化
- 1 【木工】正しく,確かに主体的に活動する
- 2 【紙工】自ら考え,判断する姿を引き出すための支援
- 3 【印刷】多動のある自閉症児が主体的に作業に取り組んだ事例
- 4 【窯業】安心して主体的に作業に取り組むために
- 5 【委託】すべての生徒を働く人に育てる
- 6 【ビルクリーン】プロの清掃作業従事者を目指して
- 7 【現場実習】必要に応じた構造化の活用と現場実習への導入
- 8 【就労・職場】もっている力を最大限に発揮することを目指して
- 5 社会生活を豊かにするための構造化
- 1 【健康】地域歯科通院・治療を目指して
- 2 【余暇の利用】1人の時間を楽しむ
- 3 【地域活動】地域で楽しい活動を
まえがき
ある特別支援学校を見学したときのことです。教室は,自閉症の子どものためにと,ありとあらゆる場面にきめ細かい構造化がなされていました。端的に言えば,子どもがレールの上をただまっすぐ歩けば,必ず目的地に到達するような環境設定です。筆者は,構造化も度が過ぎれば,子どもの思考は働かないばかりか,かえって子どもの生活の質を低下させることになるのではないか,と少し危惧をいだきました。こうした構造化はこの学校が特別かと言うと,そうではありません。別の学校では,教室に段ボールで個室がいくつもつくられ,教室が迷路のようになっていました。先生の話では「他からの刺激をシャットアウトし,集中して活動ができるようにするためである」ということでしたが,子どもは奇声を発し落ち着かず,中には個室で自傷をしている子どももいました。この段ボールの個室は何のためにあるのか,かえって彼らの主体性や見通しを奪っている環境設定ではないかと思いました。
子どもにとって最も生活しやすい,過ごしやすい,学習しやすい,快適な環境をどのように整えるかが構造化の基本です。教師が勝手に構造化をし,それに子どもを合わせようとしても意味はありません。常に子ども一人一人の立場に立ち,個々のニーズに応じて内容を検討し,この構造化が子どもをどのように変容させるのか,将来の生活にどのような影響を及ぼすのか等が予測できるものであってこそ構造化の意味が出てきます。画一的な環境設定では,子どもの主体性は引き出されません。むしろ子どもの生活の幅を狭めることになります。子どもになぜ構造化が必要か,それをすれば,どのように成長,発達するのか,生活の質がどのように変化するのか,自立にどのように影響するのか,社会参加にどうつながるのか,就労はどうかなど,どこまでも子どもサイドに立って考え続けることが必要です。
認知障害をもつ自閉症の子どもにとっては,より学習しやすい環境設定,生活しやすい環境設定を考えることは,主体的に学習したり,主体的に生活したり,見通しをもって活動したりする上で,欠かせないことは言うまでもありません。では,どういう環境設定をすれば,自閉症の子どもたちが意欲的,主体的に活動できるようになるのでしょうか。学校現場ではさまざまな教材開発や構造化の工夫などが行われていますが,子どもにとって効果的な環境設定になっているかとなると検討すべきことも多いように思います。
ある子どもはコミュニケーションの手段として,絵カードを使うことを教えられました。慣れてくるに従い絵カードを示して要求ができるようになったのはよかったのですが,言葉での働きかけがまったくなくなりました。絵カードを示せば指導者が即反応してくれるため,言葉で働きかけをする必要がなかったのです。指導者は絵カードを使うことを止め,言葉で働きかけをする指導に切り替えたのですが,子どもの思考は切り替わらず,逆に絵カードにこだわり,不適切行動を頻発させることになりました。
もちろん,適切な環境設定を行うことで子どもが安定し,生活の質が向上したというケースもたくさん見られます。
ある学校の作業学習を見学しました。10名中8名が自閉症という集団でしたが,みんなが目的的に,実に生き生きと活動しているのです。先生は3名いましたが,誰一人として子どもに支援をしていません。みんなそれぞれ,自分のパートを受け持ち,子どもたちと変わらない,同じ立場で作業をしているのです。子ども一人一人の動きを観察してわかったのですが,一人一人の特性や実態を的確に把握し,子どもたちが主体的に活動できるよう,実に見事な環境設定がなされていたのです。こうした構造化こそが,自閉症の子どもに求められているのではないでしょうか。
本書では,どのような学習場面,生活場面で,どのような構造化をすれば,自閉症の子どもが,意欲的,主体的に活動し,生活の質を高めることができるのかを,下記の5領域に分けて実際に効果の上がった事例を集めまとめてみました。
1 基本的生活を確立する構造化
2 学習活動に主体的に取り組むための構造化
3 家庭・学校生活を広げるための構造化
4 職業生活を充実するための構造化
5 社会生活を豊かにするための構造化
基本的生活から職業生活,社会生活まで生活を中心にして,段階的に取り上げたのは,子どもにとってもっともふさわしい生活をより一層充実し,学校卒業後の彼らの人生の質を高めるためには,構造化をどのように設定すればよいかを考えるためです。学校教育で重要視されている指導内容の大半を取り上げましたので,日々の指導で是非活用していただきたい,参考にしていただきたい,と思います。
構造化は,当然ながら個々の障害や認知特性に応じて,個々の能力が最大限発揮できる内容や方法を考えなければなりません。そのためのヒントとなる情報は,本書からたくさん得られると確信しております。
構造化の工夫1つで,自閉症の子どもは情緒が安定しますし,生き生きと活動できるようになります。生活の質も間違いなく高めることができます。本書を通して,子どもの人生の質を高める構造化のあり方をともに考えることができればと切に願っています。
本書の編集に当たり,ご多用中貴重な事例を提供いただいた先生方には,心から謝意を表する次第です。また,本書の企画,編集でお世話になった,明治図書出版編集部の三橋由美子氏,及び校正に直接たずさわられた橘亜希氏には深く感謝いたします。
2011年1月 編著者 /上岡 一世
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- 明治図書
- 日々の教室環境・教授方法を見直す視点として「構造化」はとても役に立つことがよく分かりました。2015/11/2840代・中学校教諭
- 特別支援教育における構造化の具体例が分る良書だと思います。基本概念の紹介の充実を期待します。2015/6/1340代・中学校教員