- まえがき
- 第1章 まずはここから 「基礎コミュニケーション力」を高める
- 1 コミュニケーションの仕組み
- 2 知っておきたい!教育現場のコミュニケーションの特性
- 3 わかりやすい文章のコツ
- 4 教育実習生のコミュニケーション
- 5 日本語非母語話者の子ども達とのコミュニケーション
- 6 ICTとコミュニケーション
- 7 ケアが必要な子どもへの対応
- 第2章 ここが肝心! 授業のコミュニケーション術
- 1 主体的に考えさせる授業のために
- 2 子どもの発言の引き出し方
- 3 授業での動機付けのコツ
- 4 教育実習生・新任先生の授業のよくある失敗
- 5 子どもの発話への対応の注意点
- ―教師の聞く力と話す力(教師の授業コミュニケーション力)―
- 6 科学的な話し合い―コミュニケーションが学びを深める!―
- 7 小学校複式学級指導の注意点とは
- 8 複式学級の授業方法を活かして
- 9 研究授業をするときの心得
- 10 ワークシートの注意点
- 11 コミュニケーションとしての板書法
- 12 コミュニケーションとしての机間指導
- 13 読書とコミュニケーション
- 14 ICT活用のこれからの授業とコミュニケーション
- 第3章 これで困らない! 小学校での授業外コミュニケーション
- 1 学級開きの教師コミュニケーション力
- ―優しさ,楽しさの中にも厳しい教師像を印象づける―
- 2 学級活動における教師コミュニケーション力とは
- ―切実感あるテーマを設定し,対話の質を高める―
- 3 休み時間における子どもとの積極的なコミュニケーション
- ―人間関係と信頼関係を深め,授業に活かす素材をみつける―
- 4 教室の環境作りとコミュニケーション
- 5 いじめがある,という通報が入ったとき
- 6 いじめを許さないコミュニケーション,ふだんの注意点
- 7 しかり方とコミュニケーション
- 8 通知表コメントのポイント
- 9 不登校傾向の子どもとのコミュニケーション
- 第4章 これで困らない! 中学校での授業外コミュニケーション
- 1 学級づくり
- 2 学年別の指導の注意点―発達の段階に応じた指導―
- 3 男女別の指導の注意点
- 4 重大な問題行動への対応の流れ
- 5 タバコを吸っている生徒を見つけたら
- 6 いじめ事件の解決とコミュニケーション
- 7 「なめられる」先生と「なめられない」先生とは
- 8 えこひいきをしていると言われたとき
- 9 進路指導から「キャリア教育」へ
- 10 部活動での取り組みとコミュニケーション
- 第5章 仕事を円滑にする! 教師間コミュニケーション
- 1 今さら聞けない?手紙・メールの書き方
- 2 校務分掌とコミュニケーション
- 3 行事の際の動きと教師間コミュニケーション
- 4 安全管理とコミュニケーション(不審者,非常の際の注意)
- ―児童・生徒の安全確保を最優先に―
- 5 外国人の先生(ALT)とのコミュニケーション
- 第6章 ここが大切! 保護者等とのコミュニケーション
- 1 学級通信のポイント
- 2 トラブルについての電話連絡をどうするか
- 3 個人懇談のコミュニケーション
- 4 保護者面談の心がけ(理不尽な要求等の場合)
- 5 学校への苦情電話にどう対応するか
- 6 学級懇談会で信頼を得るために
- 7 家庭訪問などで注意すべきこと
- ◆子どもとのコミュニケーションで意識したい言葉
- ◆ディスカッションのテーマ
まえがき
現在,社会のあらゆるところで,コミュニケーションの重要性が叫ばれています。日常生活でも,仕事の場面でも,「きちんと情報を伝え合い,必要な情報を共有して,しっかり考えること」,「人を(相手も自分も)大切にし,心を通わせ合うこと」は,絶対的に必要なことです。そのなかだちとなるのがコミュニケーションです。
とりわけ,子ども達,保護者,別の教師というように,様々な立場の人が接する学校現場では,しっかりしたコミュニケーションができる力は,教師にとって,まさに必要不可欠のものだと言えるでしょう。特にいじめへの対応や安全に関わる対応などでは,子どもや保護者との,あるいは教員間のコミュニケーションが重要な鍵になります。救える命を救えなかったという胸がつぶれるような出来事も起きています。教師のコミュニケーション力は,まさに命にさえ関わるものなのです。
言うまでもなく,授業でのやりとりもコミュニケーションです。「言語活動の充実」(中教審答申)といったことも,授業内でのコミュニケーションの活性化と一人一人の思考の深化という観点から考えていく必要があるでしょう。授業以外の場,すなわち,課外活動でのやりとりや生徒指導もコミュニケーションそのものです。クラス開きから日々の遊び,問題行動への対応,学級通信,通知表のコメントまで,いろいろな場面について,しっかりと心が通う指導をしていくために,コミュニケーションという観点から考えるべきことは数多くあります。
また,子ども達の状況も近年大きく変化しています。様々な発達特性を持つ子ども達への支援のあり方も大きく見直されています。一般の学校で,母語が日本語でない子ども達もたくさんがんばっています。情報化社会の進展も学校教育に深く結びついています。いろいろなバックグラウンドを持つ子ども達の状況に合わせてコミュニケーションを考えることも必要になっていると言えます。
保護者や地域の方々とのやりとりもさまざまです。時として話題にのぼるような理不尽な要求,様々な相談ごと,そして,懇談会など,いろいろな場面でコミュニケーションについて考えなければならない状況があります。ちょっとしたことを気にかけるだけで失敗しなくて済んだり,気が楽になったりするということもあるはずです。公的なおしらせの書き方など,知っておくべき様々な知識もあります。
さらに,同じ学校や別の学校の先生方とのコミュニケーションももちろん大切です。特に,現在の学校は,年齢構成の上で,大きな世代交替の時期を迎えていると言われています。教師間のコミュニケーションも無視できません。ちょっとした声かけや気遣いで学校の雰囲気が違ってくるということもあるようです。
こう考えると,あらゆる教師にとって,教育現場に即した,教師としてのコミュニケーションの力,すなわち,「教師コミュニケーション力」を高めていくことは極めて大切な課題だと言えます。
この教師コミュニケーション力を高めていくために必要なこととはどんなことでしょうか。もちろん,日々の経験を積んでいくことも大切です。しかし,同時に,具体的な状況に応じた「伝え合い」のあり方を考えるということも必要ではないでしょうか。思いの伝わり方は,話し方,書き方,聞き方などの,ちょっとした気配りで大きく違ってきます。また,状況に応じてどんな気構えを持つか,気をつけるべき要点は何かを整理しておくことも,学校現場での「伝え合い」にとって非常に重要なことと言えます。
よく,コミュニケーションは「心」をつなぐものであり,「心」の問題が大切だと言われます。それはその通りなのですが,それだけで十分というわけではありません。教育の現場できちんとした「伝え合い」が成立するためには,「伝え方」や状況に関する知識といった「心」以外の側面も極めて重要だからです。
こうした点について,これまで実践や研究を重ねてこられた先生方の膨大な経験の蓄積や知見から学ぶべきことはたくさんあります。先生方の,いろいろなご苦労,血のにじむような努力,そして,豊かな研究成果は,まさに「宝」です。この宝にコミュニケーションという光をあて,出来る限り実践的に整理しようとしたのが本書です。コミュニケーションの研究も近年大きな転換を遂げています。
執筆者のみなさんには,ずいぶん無理を聞いて頂き,どの項目も見開き2ページでご執筆頂いています。「教師コミュニケーション力」として,どういうことを考えるべきなのか,どういった注意が必要なのかを,わかりやすく,懇切丁寧に,具体的に,そして,コンパクトに,まとめて頂くことができました。
実は,本書のような本の必要性を痛感したきっかけは,京都教育大学での教育実習改善の様々な話し合いです。実習生や新任の先生の「教師コミュニケーション力」のために,おさえなければならない大切なことがたくさんあるのに,それをまとめたものがない―こんな切実な思いを関係の先生方は強くお持ちでした。その点で,本書は,さまざまな立場でご活躍中の先生方だけでなく,新任の先生方やこれから教師になろうと勉強している学生の方々にも,大いに役に立てて頂けるものと確信しております。本書を,温かく,そして,しっかりした効果のあるコミュニケーションの実現のために参考にして頂けますならば,まことに幸いです。
また,改めるべきはどんどん改めていきたいと思っております。どうか,改善点がありましたら,ご教示を頂きますよう,心よりお願いいたします。
最後になりましたが,本書の編集について,明治図書編集部の及川誠様に大変お世話になりました。ここに記して心より感謝申し上げます。
本書を,日々奮闘されている日本中の先生方の汗と笑顔に,捧げたいと思います。
/森山 卓郎
-
- 明治図書
- 開いたらわかるという構成でとても読みやすく、参考になりました2015/11/2450代・小学校管理職