- はじめに
- 第1章 知的障がい・自閉症・学習障がいの子どもと基礎学習
- 1 基礎学習への取り組み
- 2 基礎学習と教材研究
- 第2章 ことばの学習と指導法
- 1 ことばの基礎
- 2 ことばの成り立ち
- 3 コミュニケーションの成り立ち
- 1)具体物を使用してのコミュニケーション
- 2)身振りサインを使用してのコミュニケーション
- 3)絵や写真を使用してのコミュニケーション
- 4)ことば・文字を使用してのコミュニケーション
- 第3章 文字の学習と指導法
- 第1段階:初期学習(目や手の使い方の学習)
- 1)リングベル抜きの学習
- 2)玉入れの学習
- 3)取っ手抜きの学習
- 4)棒さしの学習
- 第2段階:概念行動形成の学習
- 1)位置の学習
- 2)形の学習
- 3)書字のための学習
- 4)概念学習
- 第3段階:(文字の)記号操作の学習
- 1)音節の分解・抽出の学習
- 2)50音表から単語の構成の学習
- 3)文の操作の学習
- 第4章 数の学習と指導法
- 1 数の学習
- 1)数を量的関係に置き換える
- 2)具体的な操作を中心とする
- 3)数記号と具体的操作を常に関連づける
- 4)量的操作(タイル操作)→イメージ化(タイル図,数図)→記号化(抽象化)という順序で学習する
- 2 数の基礎学習
- 1)量(数)の見本合わせの学習
- 2)量(数)の学習
- 3)数の系列と数の記号操作の学習
- 「1〜3」と「1〜5」の数の系列の学習/ 「1〜10」の数の系列の学習/ 5と1〜5の数の関係の学習/ 5と6〜10の数の関係の学習/ 一桁の計算(足し算)/ 一桁の計算(引き算)/ 足し算と引き算の混合計算/ 5の数の合成・分解/ 筆算/ タイル図,数図による計算と暗算/ 数と半具体物(実物)の対応の学習/ 位取りの学習/ 繰り上がり・繰り下がりの学習/ タイルそろばん/ お金そろばん/ 二桁の計算(筆算)/ お金そろばんによる二位数の計算/ 数直線による足し算・引き算
- 4)買い物学習
- 5)時計の学習
- 第5章 指導の実際
- 基礎学習と学習の段階
- ■難治性てんかんを有する重度知的障がい児の初期学習
- 1 指導のポイント
- 2 事例紹介
- 3 指導計画
- 4 学習の経過
- 宝探しの学習(遅延学習)/ パイプ抜きの学習/ 木球入れの学習/ 棒さしの学習/ 電池入れの学習/ 道具の使用
- 5 まとめ
- ■重度知的障がいを伴う自閉症児の学習〜デジタル数字の学習からひらがな文字の学習へ〜
- 1 指導のポイント
- 2 事例紹介
- 3 指導計画
- 4 学習の経過
- 透明板重ねの学習/ デジタル数字の構成学習/ デジタル数字の見本合わせの学習/ 型はめの見本合わせの学習/ 絵の見本合わせの学習/ ひらがな文字・カタカナ文字の見本合わせの学習/ 単語と絵の結合の学習/ 書字の学習
- 5 まとめ
- ■10歳でことばを話しはじめた自閉症児の学習経過〜4歳から29歳までの学習の記録〜
- 1 指導のポイント
- 2 事例紹介
- 3 指導計画
- 4 学習の経過
- 1)概念行動形成の学習
- 型はめの見本合わせの学習/ 形の構成の学習/ 位置の学習/ 位置・方向の見本合わせの学習/ 透明板の重ね合わせの学習/ 2点結び,十字の描写の学習/ 絵と実物の見本合わせの学習
- 2)記号操作の学習〜文字の記号操作の学習〜
- 文字の構成の学習/ 絵と単語の見本合わせの学習/ 単語の構成の学習/ 文字を書く学習/ 文の学習/ 国語辞典を使用し漢字を学習する
- 3)記号操作の学習〜数の記号操作の学習〜
- 数の大小/ 「1〜10」の数の見本合わせをする/ 「1〜10」の数の系列の学習/ 一桁の足し算(答えが10まで)/ 一桁の虫食い算/ 5の数の分解/ 5の合成・分解/ 5の単位の学習/ 5の単位と「1〜10」の数の系列/ 一桁の足し算と5の単位/ 一桁の虫食い算(5の単位を含む)/ 10の単位の学習/ 繰り上がりのある足し算/ 5と10の単位を含んだ二桁の数の虫食い算/ 5と10の単位を含んだ二桁の数の合成・分解/ お金の足し算・引き算の学習/ お金そろばんによる二桁の数の足し算/ かけ算/ かけ算の文章題/ 割り算/ 割り算の文章題/ 買い物の学習
- 5 まとめ
- おわりに
- 参考・引用文献
はじめに
現在の特別支援教育では,通常の学級で授業についていけない子どもたちの問題が持ち上がってきています。そのときに,子どもの障がいに目を向けるのか,それともわれわれの指導力に目を向けるのかという点で大きく事態は変わってきます。子どもの障がいに目をむければ,この子は知的障がいか,学習障がいかというように,知能検査や心理検査などを通して障がいの状態を明らかにすることに力を注ぐことになります。しかし,教師の指導力に目を向けることになれば,この子どもはどこでつまずいているのか,それを解決するためには,どういう教材でどのように指導すればいいのかということになります。そのための理論的根拠をどこに求めればよいのでしょうか。
本書は,その点に重点を置いてことば・文字・数の学習についてまとめました。また,指導の実際について知っていただくために,三つの事例を紹介しています。最初の事例は,目や手の使い方の学習を中心とした初期学習の事例です。次の事例は,デジタル文字に関心のある子どもの文字指導の学習についての事例です。最後の事例では,初期学習からことばの学習,文字の学習,数の学習という25年間にわたる学習について整理しています。国語・算数の教科指導に至るまでの道筋が書かれていますので,最近話題になっている学習障がい児の学習に対しても参考になると考えています。
「こういう学習をしてどうなるのですか」ということを聞かれることもありますが,ここでの指導は,「なるほどこういうことがわかって,次にこういうことが理解できるのだ」というように学習の順序性や系統性についての示唆を与えています。また,子どもの学びたい心や子どもの可能性を大切にし,子どもの学習力を十分に伸ばしていくことが特別支援教育では大切であるということを示しています。事例は,長期にわたる指導を行っているので,長期・短期の個別の指導計画などを立案するときにも参考になると思います。
学校の現場では,日常の教育活動に忙しくて,教材など作る時間がないという声をよく聞きます。しかし,少しでも時間を見つけて子どものための教材を作り,彼らと学習を試みてください。彼らの目の輝き,意欲に驚かされることでしょう。教材を操作するときの彼らの真剣なまなざしを見ることによって教育の喜び,素晴らしさを感じられることでしょう。筆者は,子どもたちのこのような姿に励まされて,長期にわたって子どもと関わることができました。その中で考えてきたことをまとめたのが本書です。少しでも教育の現場で参考にしていただければ幸いに思います。
平成22年3月 /進 一鷹
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- 明治図書