- 監修のことば
- まえがき
- 1章 視機能と視覚情報処理の役割とその理解
- 1 「見える」とは?
- 2 「見る力が弱い子ども」とは?
- 3 「見える」ために必要なさまざまな「見る力」
- (1)視力
- (2)視野
- (3)調節
- (4)両眼視
- (5)眼球運動
- (6)形態知覚と空間知覚
- (7)目と手の協応
- 2章 学習の土台となる知覚・認知機能
- 1 学習のつまずきの状態を整理して考える
- 2 さまざまな脳機能が学習に関与する
- 3 診断名との対応
- 4 効果的な対応を考える
- 3章 つまずきの背景にある「見る力」の問題
- 1 読みが苦手
- (1)発達性読み書き障害のつまずき
- (2)読みと「見る力」のつまずき
- 2 書きが苦手
- (1)視力,調節,眼球運動
- (2)視知覚
- (3)形の構成能力
- (4)目と手の協応
- (5)協調運動
- (6)姿勢の保持
- 3 黒板を写すのが苦手
- (1)眼球運動
- (2)調節・両眼視
- 4 図形が苦手
- (1)視知覚
- (2)目と手の協応
- 5 ボール運動が苦手
- (1)両眼視
- (2)眼球運動
- (3)空間知覚
- (4)目と手の協応
- (5)協調運動
- 6 階段や遊具を怖がる
- (1)両眼視
- (2)目と手の協応
- (3)空間知覚
- (4)協調運動
- 4章 アセスメント
- 1 見る力のアセスメントとは
- 2 チェックリスト
- (1)チェック項目
- (2)チェックの仕方
- 3 アセスメント法
- (1)眼球運動の検査
- (2)視知覚の検査
- (3)視写の検査
- 5章 環境調整と視覚発達支援
- 1 環境調整(外的視覚条件の支援)
- 2 視覚発達支援(内的視覚条件の支援)
- (1)視覚発達支援の場
- (2)視覚発達支援において大切にしたい点
- 6章 見る力が弱い児童への学習指導
- 1 見る力が弱いときに起きやすい教科学習の問題
- (1)国語
- (2)算数
- (3)社会
- (4)音楽
- (5)図工・美術
- (6)技術・家庭科
- 2 視知覚が弱く書字が苦手な子どもへの学習指導
- (1)「書く」ということ
- (2)書字に対する支援
- 3 視知覚が弱く算数が苦手な子どもへの学習指導
- (1)視知覚の弱さと算数障害の関連
- (2)算数のつまずきと指導
- 7章 事例紹介
- ―見る力のアセスメントと支援の実際―
- 事例1 手先の細かい作業が苦手であった1年生男児
- 事例2 視写が苦手であった2年生男児
- 事例3 図形の問題や絵を描くのを嫌がる4年生女児
- 事例4 姿勢が崩れやすく学習に集中できなかった2年生男児
- 事例5 算数が苦手な3年生女児
- 事例6 漢字の形を思い出しにくい4年生男児
- 事例7 カタカナ・漢字を書くことに拒否が強かった3年生男児
- コラム
- 1 知的障害と屈折異常
- 2 調節と近くを見る作業
- 3 輻輳不全とADHD
- 4 日本語発達性読み書き障害のデコーディングの問題
- 5 読みの問題と眼球問題
- 6 両眼視とボールのキャッチ
- 7 障害物をよけて歩くときの両眼視の役割
- 8 発達障害に視機能の問題は多い?
- 9 パソコンの訓練で眼球運動能力は改善する?
- 10 視覚発達支援の効果
監修のことば
本書は,大阪医科大学LDセンター10周年記念の一環として出版されたものです。LDセンターは平成13年4月,知的発達に遅れがないにもかかわらず学習に課題をもつ児童(学習障害)の認知機能の検査,研究,それに基づく指導を行うために開設されました。当初は専任の言語聴覚士2名,事務員1名,小児科を兼務するセンター長と副センター長,外部顧問よりなるスタッフでスタートしました。平成14年4月に,本書の編者である奥村智人がオプトメトリストとして採用され,視機能・視知覚と学習障害などについて研究,検査および訓練を開始しました。本書は,LDセンターにおける「見る力」に関する実践と研究の集大成でもありますが,アメリカ式のオプトメトリー,視覚障害教育,LD,ADHD,HFPDDなどの発達障害への特別支援教育を融合したはじめての専門書でもあります。
本書では,対象となる子どもたちを「見る力が弱い子ども」と表現しています。その理由は,「弱視児(両眼の矯正視力が0.3未満の子ども)」「その基準を満たさないが視力が出にくい子ども」,さらに「視力に問題がないが何らかの見ることに関する『困り感』がある子ども」を対象に,直接指導はできなくてもさまざまな「見えにくさ」に対応した支援を広げたいという著者らの思いが出版につながったからです。以下に各章の概要を紹介します。
1章では,「視機能と視覚情報処理の役割とその理解」というタイトルで,視力だけでは説明できないさまざまな見る力について説明しています。
2章では,「学習の土台となる知覚・認知機能」というタイトルで,医学的な立場から学習のつまずきの状態を整理し,つまずきと脳機能の関連を考慮した上で,効果的な対応方法を考えることの大切さを説明しています。
3章では,「つまずきの背景にある『見る力』の問題」というタイトルで,「読みが苦手」「書きが苦手」「黒板を写すのが苦手」「図形が苦手」「ボール運動が苦手」「階段や遊具を怖がる」という発達障害の子どもたちに見られやすい特徴の背景にある見る力についてわかりやすく説明しています。
4章では,見る力の「アセスメント」というタイトルで,実践ですぐに使えるLDセンターオリジナルの幼児期用と学童期用の「見る力に関するチェックリスト」を紹介しています。実践の中で「どのような問題があるときに,見る力の弱さを疑ったらよいか分からない」という専門家も多いと思います。ここで紹介する2つのチェックリストは,現場で子どもたちの見る力をチェックする際の視点を明確に示してくれます。また,本章では,主にアメリカで使われている見る力に関するアセスメント方法を紹介しています。あわせてLDセンターの10年間の研究で蓄積した日本人のデータを基準値として紹介しており,貴重な資料となるでしょう。
見る力が弱い子どもへの支援は,「環境調整」「視覚発達支援」「学習指導」の3つの領域に分けることができます。これらについては,5章「環境調整と視覚発達支援」と6章「見る力が弱い児童への学習指導」で,具体的な支援方法について説明しています。特に,6章では「1 見る力が弱いときに起きやすい教科学習の問題」「2 視知覚が弱く書字が苦手な子どもへの学習指導」「3 視知覚が弱く算数が苦手な子どもへの学習指導」という3つの項目で具体的な学習指導について説明しています。他にも「子どもの見る力」に関する本は出版されていますが,「見る力が弱い子どもたちへの特性に合わせた学習指導」について具体的にまとめられている文献は見当たりません。
さらに,7章では「事例紹介―見る力のアセスメントと支援の実際―」というタイトルで具体的な事例を紹介しています。本書が優れている点の1つは,1章から6章までのさまざまな情報が7章の事例と対応しており,より理解を深めることができる構成になっていることです。実践で出会う子どもたちと7章で紹介している7事例を重ね合わせることにより,実践でのヒントをより明確に読みとれるように工夫されています。
本書において,さまざまな専門知識の解説から,具体的な支援法の紹介まで幅広く網羅できたのは,視覚の専門家であるオプトメトリストだけでなく,小児神経科医,言語聴覚士,作業療法士,特別支援教育士などのさまざまな専門領域のエキスパートが執筆にかかわったからであります。いわゆる「見る力が弱い子ども」と呼ばれる子ども本人と,かかわっている教師,保護者をはじめ多くの方々にとって,本書は必ず有益な書物となることを確信しています。
大阪医科大学小児科教授 LDセンター長 /玉井 浩
-
- 明治図書