- まえがき
- 1章 小学校「総合的な学習の時間」年間指導計画作成の基本
- §1 年間指導計画作成のねらい
- 1 教育課程と指導計画
- 2 「総合的な学習の時間」の年間指導計画
- §2 単元づくりの要件
- 1 テーマの設定
- 2 「実態に応じて」作成
- §3 年間指導計画の作成
- 1 年間指導計画作成の課題
- 2 年間指導計画作成の要件
- §4 年間指導計画の運営
- 1 年間指導計画編成の過程
- 2 年間指導計画の評価と改善
- 2章 事例&解説/「総合的な学習の時間」の年間指導計画案
- §1 国際理解教育を核にした計画 /兵庫・小松小
- 西宮市立小松小学校の事例 /佐藤 郡衛
- §2 道徳性を育むための総合単元 /徳島・喜来小
- 豊かな体験と心の変容を振り返る場づくり /村川 雅弘
- §3 自然とかかわる体験活動を核として /愛知・矢作西小
- 環境教育のメッカ・矢作西小の「みどり単元学習」 /有田 和正
- §4 地域の特性を生かす取り組み /鳥取・神戸小
- 地域の特性を生かす取り組み /山本 正人
- §5 教科クロス単元学習の構想 /兵庫・苦楽園小
- 個が生きる多様な学習が原点 /加藤 明
- §1 まずは、自分たちも楽しめるテーマからのスタートだ! /筑波大附小
- カリキュラム開発は実践的な原理の確立から /加藤 明
- §2 地球温暖化ストップ! 国際会議提案へ /東京・柴又小
- 「世界と教室をつなぐ柴又小学校の実践」に学ぶ /多田 孝志
- §3 子供の思いからの出発!! /神奈川・日枝小
- 15年の研究実績をもつ公立校 /松永 昌幸
- §4 個の課題設定で進める /香川大附高松小
- 個の課題設定だから自ら学ぶ /高木 一
- §5 「学びへの願い」を基軸として /佐賀大附小
- 命題:教科の特質を失わせることなく、教科の壁を破る /新富 康央
- §1 地域の伝統文化と伝統工芸を /京都・御所南小
- 地域に教材と活動を見いだす /北 俊夫
- §2 江津湖と学びの楽しさを実感 /熊本・泉ヶ丘小
- 身近な生活環境の中での学び /中山 玄三
- §3 地域人材ネットワークの会 /東京・武蔵野三小
- 心と体に感動を育む活動 /小池 宏
- §4 日用雑貨商品企画コンペ(4年C組の実践から) /和歌山大附小
- 日用品で総合的な学習を楽しむ /松浦 善満
- §5 地域に根ざす総合学習の展開 /宮城教育大附小
- 三つの課題の見事なブレンド /奈須 正裕
- 3章 「総合的な学習の時間」年間指導計画作成の研究課題
- §1 総合的な学習の時間のねらいへの対応
- §2 学校の教育目標や各教科等との関連
- §3 学習課題の設定
- §4 指導計画の対象
- §5 年間指導計画の作成の精粗
- §6 年間指導計画の改善
- §7 授業時数や1単位時間の弾力的な運用
まえがき
平成14年度(2002年)から,学習指導要領が本実施となる。それに先立って,平成12年度から,順次実施に入り,実際には即座に新しい学習指導要領に移行することとなる。
焦点は,「総合的な学習の時間」である。何しろ,全くの未経験の世界に入るわけで,しかも,指導の目標や指導の内容には,「学校の創意工夫」という名の下に,全て学校に委ねられている。しかも,その内容は,「教科の専門性」を超えるだけに,学校にとっては全く苦悩も深い。といって,手をこまねいているわけにもいかない。
無からの出発であるだけに,まず,一つ一つの単元づくりから出発し,その先に計画表が次第に埋められ,全体の年間指導計画の作成へとたどりつくこととなる。おそらく数年,もしかしたら,10年ぐらいかかるかもしれない。子どもからの,子どものための総合的学習であるだけに,着実な,価値のある活動を,息長く積み上げていくことこそ重要であろう。
特に,総合的な学習の時間の指導計画作成の難しさは,極めて弾力的で柔軟な編成が求められているところにある。その指導内容において,子どもの興味・関心,学校や地域の実態をふまえつつ,現代社会の課題をどうとらえるかという,三つの枠組からテーマを設定していかねばならない。その学習活動において体験的で実践的な学習であり,子ども主体の問題解決的学習であり,ここにも学校・教師の意図や思惑をこえる要因が数多くある。
さらに,学習を進めていく上での要件として,学習集団,指導体制,教材や学習の場を柔軟にとらえねばならない。学習時間もそうである。自然の条件に大きく依存しているとともに,他の学校との交流や地域の人々や施設等の協力をあおがねばならない。学校の一存で指導計画を作成できない事情がある。また今年の指導計画が,次年度またそのまま実施できるという保証もない。これらの要件が,刻々変わるからである。
教科の学習のように,しっかりした軸がなかなかみつからない。マシュマロのようなフワフワした多用な要因のからみ合った中で,指導計画を作成していかねばならない。そこに,これまで経験したことのない難しさがある。つまり,リダンダンシィ(冗長度)を取り込んだ,融通の効く計画が求められているわけである。
それだけに,教師の側の「やわらかさ」「しなやかさ」がまず必要となってきている。子どもに,本気で「生きる力」を育てようとしたら,教師自身,まず体験的で問題解決的な「生きる力」を身につけなければならない。子どもを変えようとしたら,それに先立って教師自身が変わらなければならない。総合的学習は,そうしたきつい課題を我々自身に課しているようである。
こうした中で,すでに単元の開発に積極的に取り組み,年間にわたって単元ごとの指導計画の編成を試みている学校の実践もみられるようになってきた。本書では,そのような試行実践をできるだけ多く取り上げて,これから総合的学習に取り組もうと準備しておられる学校,または取り組んだものの一つの壁にぶつかっておられる学校のために,打開策として役立てばと思い編集したものである。
もちろん,本書で紹介した実践がモデルということではない。「特色ある教育,学校づくり」にモデルはないし,必要ともしない。それぞれの学校が,特色ある教育を作り出すことこそ求められている。かといって,特色ある教育とは,偏倚した教育でもなければ,奇異な教育でもない。子どもに生きる力を育てることに変わりはないし,そのために子どもの生活世界や現実世界を生かすことに他ならない。眼の前の子どもに何をどうするかと,考え,作り出していければ,当然,そこにその学校ならではの「子どものための教育」が生み出されてくる。
本書で取り上げた実践事例は,このような意味において,「特色ある教育,特色ある総合的学習」と称していいものである。特に,どのような構想から,何に留意し,どのように指導計画を作り出していったかを,参考として受けとめていただき,アイデアこそを,本書から汲み取っていただけたらと願っている。そのこともあって,余計なことだったかもしれないが,「解説」を各事例に書き加えさせていただいた。忌憚のないご批正をいただけたらと願っている次第である。
平成11年夏 編者
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- 明治図書