- はじめに
- 第1章 表現を生かした総合学習って何?
- Q1 「総合」の意味はどう考えればいいの?
- Q2 総合学習と教科との関係はどのように考えればいいの?
- Q3 なぜ総合学習で表現が大切なの?
- Q4 総合学習に芸術教育の視点を生かすとはどういうこと?
- Q5 表現を生かした総合学習ってどういうもの?
- Q6 表現がテーマや内容の核になる総合学習ってどういうもの?
- Q7 総合学習に必然性をもって位置付く表現活動とは?
- Q8 芸術の手法を利用して学習の展開を豊かにするとはどういうこと?
- Q9 総合学習を進めるうえで「表現」を大切にする際のポイントは何?
- Q10 地域とのかかわりや協力関係をどうつくるの?
- Q11 地域の教材や施設はどのように活用するの?
- 第2章 表現による総合学習の実践例
- 1 表現がテーマや内容の柱となる総合学習
- 総合学習の実践例(小学校高学年)
- 物語から総合的身体表現活動へ
- 総合学習の実践例(小学校中学年)
- どんどんつくり,どんどん回したくなる!―『竹ブンブンごま』から遊び・仲間・生活が広がって―
- 総合学習の実践例(小学校高学年〜中学生)
- 地域学習をもとにした総合的な学習の時間の設計―郷土玩具の制作体験をもとに―
- 総合学習の実践例(小学校中学年)
- 木の実クッキーをつくって家族にプレゼントしよう
- 総合学習の実践例(小学校中〜高学年)
- わあっ,もったいなあい!―地域の人と自然に学ぶ「米づくり」―
- 総合学習の実践例(中学生)
- 中学生の美術館活動―作品の収集選定から展示まで―
- 2 表現活動によって本格的に展開する総合学習
- 総合学習の実践例(小学校低学年)
- ひよこや蚕とともに育つ子どもたち―生命に触れ、ともに生きる中で,言いたい思いがあふれる―
- 総合学習の実践例(小学校高学年)
- 地域へ発信! 子どもが歩き出す総合学習―思いを伝える表現活動―
- 総合学習の実践例(小学校高学年)
- 縄文時代から広がるものづくり
- 総合学習の実践例(小学校高学年)
- 自分たちの思い,折り鶴に!―修学旅行のテーマや中身も自分たちで―
- 3 芸術や表現の手法がダイナミックに働く総合学習
- 総合学習の実践例(中学生)
- まちかど美術博物館を目指して―中学生が文化財と出会う―
- 総合学習の実践例(中学生)
- みんなの力でたったひとつのことを―自治に挑戦する壁画づくり―
- 総合学習の実践例(中学生)
- 身体から生まれるコミュニケーション―演劇から生み出された実践の活用―
- 総合学習の実践例(小学校高学年〜中学生)
- 総合学習にワークショップの視点を生かす―さまざまな芸術的手法を駆使する―
- あとがき
はじめに
2002年より「総合的な学習の時間」(以下,総合学習)が組み込まれることを核に,新たな教育課程の実施がなされる。総合学習という名は,それだけで新たな時代にふさわしくとても魅力的である。しかし,その内容や進め方について考えるやいなや,その名が重くのしかかってくる。それはいうまでもなく,新学習指導要領ではその具体的な実践のイメージが示されておらず,実施にあたっては個々の学校の運用に任せられているからである。さらに,それらの時間と教科学習の関連性をどのように考えればいいのかということにいたっても示されていないのはいうまでもない。
総合学習についての類書は後を絶たないが,一般論としての総合学習の意味論に終始するもの,実践形式や方法など表面的な総合性にとらわれすぎる実践例が多いのも事実であろう。そこには総合学習の理想像が示されたとしても,子どもの内面にどんな力が総合され,判断力が形成されるのかを問題にしつつ展開される総合学習は実現されないだろう。私たちは,目の前にいる子どもたちとどのように立ち向かい,中身のある総合学習を切り開いていくかを真摯に問うていかなければならない。
本書では,そのささやかな第一歩として表現活動と総合学習との関連に焦点を絞り,その理論的な側面を整理し,同時に実践事例をあげながらできるだけわかりやすく具体的に解説しようとした。
本文中で繰り返し述べようとしていることは大きく次の2点に集約される。
まず,総合学習の核となるべき子どもたちの生活におけるリアリティをいかにとらえればよいのかということ。そして,総合学習の実践にあって,表現活動はとりわけ重要な意味をもつということである。
前者に関しては,子どもたちが日常的に興味や関心をもっている美的経験を総合学習としていかに具体化できるかを検討すること,つまり,そのままでは無関心で不問にされてしまったかもしれないさまざまな文化的価値の中から,子どもたちの興味や関心のわく教育内容としていかに精選し,総合学習のプロセスを見通せるかということが重要になる。
私たちは,子どもたちの生き生きとした生活は表現活動によってこそ具体化されることをこれまで多くの実践で学んできた。日々,楽しいと思ったこと,あるいは悲しかったことは表現することによってこそ意味をもち,生きるエネルギーを蓄える。同様に,子どもの興味や関心のもとに全体的な認識と判断力の形成へと向かう総合学習は,子どもたちの生き生きとした表現活動の積み上げによってこそ実現されるといえる。それゆえ,総合学習においては表現することそのものがとりわけ重要な意味をもつ。しかしながら,現状では子どもたちにとっての必然性というよりは,発表などの形式面にその関心が置かれてしまう傾向にあると思われる。
「あとがき」にも示されているように,ここで述べられたことは私たちの求めようとする表現を大切にする総合学習の端緒にすぎない。本書を契機のひとつとして総合学習の論議がさらに深く展開されることになれば存外の喜びである。
2000年7月 編者を代表して /竹井 史
-
- 明治図書