- はじめに
- 第1章 21世紀社会に生きる実践スキル
- 1 教育史上の失敗を繰り返さないために
- (1) はい回る経験主義の復活
- (2) 「はじめにねらいありき」を提案する
- 2 総合的な学習が日本の学校教育を変える
- 3 なぜスキル育成が必要なのか?
- (1) ダイナミックなスキルの育成
- (2) 受験学力から国際標準学力への転換
- (3) 21世紀社会の多様な社会的ニーズに応える
- (4) 実力主義社会に対応するために
- (5) 2012年の教育課程の改訂に対応するために
- 4 どんなスキルが必要なのか?
- 5 スキル育成の5つの留意点
- 第2章 多様な実践スキルを育てる
- 1 期待される資質・能力は何か?
- 2 プロジェクトを立案するための計画スキル
- (1) 計画づくりの重要性
- (2) パワーラーニング理論における計画スキル
- (3) 計画づくりに含まれるスキル
- 3 交流学習におけるインタラクティブスキル
- (1) 交流学習とは
- (2) 交流学習の意義と基本過程
- (3) インタラクティブスキルとは
- (4) 実践事例の紹介−横浜市立本町小学校
- 4 ヒューマンネットワークを創りだす社会的スキル
- (1) 社会的スキルとは
- (2) 総合的な学習で育成する社会的スキル
- (3) 社会的スキルの育成方法
- (4) 実践事例の紹介−大阪教育大学附属池田中学校「創作電子紙芝居の制作と実演」
- 5 自己表現のためのプレゼンテーションスキル
- (1) プレゼンテーションとは
- (2) 多様な表現方法の1つとして
- (3) 国際社会で大切な自己表現力
- (4) マルチメディア時代のプレゼンテーション
- (5) プレゼンテーション成功のノウハウ
- (6) 実践事例の紹介−守口市立春日小学校6年「インドフェスティバルをひらこう」
- 6 学びを改善する自己評価スキル
- (1) 自己評価の教育的意義
- (2) 総合的な学習における自己評価
- (3) 自己評価スキルを高める「ふりかえりシート」の活用
- 第3章 プロジェクト学習で実践スキルを育てる
- 1 プロジェクト学習のためのカリキュラム開発
- (1) 学校カリキュラムの再編成
- (2) プロジェクト学習の特徴
- (3) 3つのEを大切にした活動構成
- (4) プロジェクトにおける基本的な活動系列
- (5) 5つのプロジェクトモデル
- 2 学際的研究プロジェクトと調査研究スキル
- (1) 学際的研究とは
- (2) 単元構成の基本モデル
- (3) 調査研究スキルを育てる
- (4) 実践事例の紹介―滋賀大学附属中学校「BIWAKO TIME」
- 3 総合表現プロジェクトと自己表現スキル
- (1) 総合表現の特徴と意義
- (2) 総合表現で育つ子どもの個性
- (3) 演劇づくりの要素と総合表現
- (4) マルチメディアを用いた総合表現
- (5) 総合表現のためのスキル育成
- (6) 先進的実践校の実践動向
- 4 マルチメディアプロジェクトと情報活用スキル
- (1) 情報教育の新しい方向
- (2) 学習目標の三側面
- (3) 情報教育の新しい扉を開く
- (4) 総合的な学習としての情報教育
- (5) 情報活用スキルとしてのメディアリテラシー
- (6) マルチメディアプロジェクトの教育的意義と学習観
- (7) メディアミックスと情報活用スキル
- (8) 主体的な学びの道具としてのメディア活用
- (9) 豊かな学習環境の構成
- (10) 実践事例の紹介―守口市立春日小学校・横浜市立本町小学校
- 第4章 総合的な学習の可能性をひらく
- 1 スキル獲得から子どもの自信が生まれる
- (1) 子どもの自信が生まれるスキル学習
- (2) 「こころの知能指数EQ」に学ぶ
- (3) 子どもの自尊感情を育てる
- (4) 創造的に生きる態度を育てる
- 2 「課題のある子」を支援しよう
- (1) 教師の「再発見」
- (2) 子どもの「再発見」
- (3) 「課題のある子」を支える
- 3 トラブル解決能力を育てよう
- 4 体験的教材研究の手法を学ぼう
- (1) 体験的教材研究とは
- (2) 教師の自己成長
- (3) 校内研究授業の活性化
- 5 学力低下を防ぐ12の工夫
- (1) これまでの基礎学力観
- (2) これからの基礎能力観
- (3) 3割低下は悪くない
- (4) 学力低下を防ぐ12の工夫
- 第5章 総合的な学習におけるスキル育成の学習理論
- 1 イギリスのクロスカリキュラムとトピック学習
- (1) トピック学習の特徴
- (2) トピック学習の単元構成法
- (3) 児童中心主義教育の伝統と総合学習の位置づけ
- (4) クロスカリキュラムによる学習技能の育成
- (5) イギリスの豊かな教室風景
- (6) トピック学習の実践事例
- (7) トピックレポートの制作
- 2 ハワード・ガードナーの総合的知性論
- (1) 総合的知性とは
- (2) メディアミックスと総合的知性論
- 3 ホール・ランゲージ理論の応用
- (1) 総合的な学習における言語スキル
- (2) 国語科における新単元学習の主張
- (3) ホール・ランゲージ理論に学ぶ
- おわりに
はじめに
21世紀のわが国の教育のあり方を方向づける新しい学習指導要領の告示によって,いよいよ「総合的な学習の時間」が小学校の3年生から中学校を経て高等学校まで10年間を通して本格的に設置されることが決まった。そこでは,環境問題や異文化理解,福祉・健康などをテーマとして,子どもたちが主体となる課題解決的な学習が展開されることになる。
1年間では100時間程度でも,10年間では1,000時間にもなるこの「総合的な学習の時間」を有効に活用すれば,受験勉強のためではなく,またペーパーテストの得点で他人と競争するためでもなく,子どもたちが生きる新しい世紀に必要な国際標準学力として多様な実践スキルを身につけるために,友だちや先生と協力して人類の福祉と平和に貢献するさまざまなプロジェクトを実行していくことが可能になる。
これからの学校教育の変革を迫るこの総合的な学習の発展と普及のために,これまでの研究成果を論文にまとめたいと思っていたところ,幸いなことに明治図書の月刊誌『総合的学習を創る』編集長の樋口雅子さんから,「昨年イギリスからレポートしてもらったように総合的学習のあり方をスキル育成という切り口からまとめてくれませんか」という連載の執筆依頼をいただくことができた。滋賀大学附属中学校での「びわ湖学習」の開発研究をはじめとして,もう17年近くも総合学習の実践的な研究を全国の先生方と共同で継続してきた筆者には,願ってもない自己発信の場面を与えていただいたことに感謝している。
そしてここに,一昨年の連載『スキル育成を重視した総合的学習の構想』をまとめて単行本にすることによって,より多くの読者に筆者の総合的な学習にかける実践的な哲学と思想を理解してもらえることは大きな喜びである。この本で紹介した実践は,すべてこれまで筆者が研究同人として関わってきた学校の優れた事例ばかりである。
ではなぜ,総合的な学習の中心目標に実践スキルの育成をあげる必要があるのだろうか。それは,端的にいえば,これまで知識の量や正確さを求めることを大切にしてきた日本の教科学習に不足する点を,新しく創設される「総合的な学習の時間」で補うことが必要だからである。
私は,その不足する点がまさに子どもたちの実践スキルの育成であると考えている。それは理論的な関心からではなく,これまで毎年のように海外の多くの小学校や中学校の教育のあり方を視察して得られた体験的な直観によっている。イギリス,アメリカ,ドイツ,オーストラリアといった諸外国の子どもたちに比べて,日本の子どもたちに決定的に欠けているのは,本書で取り上げている多様な実践スキルだったのである。いま日本の学校教育は,世界の子どもたちが備えている実践スキルのレベルと比較して,グローバルな視点からの改革を必要としている。もはや,国内の受験競争の緩和とか,公正な入学試験の実施といった国内だけで通用する関心から教育改革を論じる段階ではない。
さて,本書は次のような構成になっている。まず,第1章で,21世紀社会に生きる力として多様な実践スキルを育てる必要性について考えたい。そして,第2章で,総合的な学習で実践されるさまざまなプロジェクトの中核になる5つの実践スキルを取り上げてみる。一つひとつに分けてみれば,これまで教科学習や特活,学校行事の中で個別に育ててきたスキルである。総合的な学習では,これらを総合的に関連づけながら1つの単元の中で共通のトピックのもとに多様な活動を展開することになる。まず始めは,こうした取りかかりやすい実践スキルについて考えてみたい。
次に第3章では,30時間から50時間という長期的な単元の中で,本格的に発揮することが求められる実践スキルを,プロジェクト学習の基本的な構成に位置づけながらとらえてみる。ここで取り上げるのは,調査研究スキル,自己表現スキル,そして情報活用スキルである。それぞれのスキルを育てるために必要となる,学際的研究,総合表現,そしてマルチメディアプロジェクトという,筆者独自の総合的な学習のカリキュラムモデルを提案したい。
続いて第4章では,総合的な学習の可能性をより大きく切りひらくために,「子どもの自信を育てる」「課題の大きい子を支える」「トラブル解決能力を育てる」「体験的教材研究の方法を学ぶ」「学力低下を防ぐ」という5つのポイントを提案する。最後に第5章として,スキル育成の学習理論を,イギリスのトピック学習,ハワード・ガードナーの総合的知性論,そしてホール・ランゲージ理論という3つから考察する。
「はじめにこどもありき」といった一度失敗を経験した素朴な児童中心主義に回帰するのではなく,子どもたちが活躍する21世紀社会に求められる多様な実践スキルを身につけることができるように,計画的に厳しく「子どもたちを鍛える総合的な学習」を各学校で新たに創造し実践するにあたって本書が参考になれば幸いである。
本書の執筆にあたって,多くの方にお力添えをいただいたことに深く感謝したい。特に,筆者と共にすばらしい実践を生み出すために共同で授業研究をしてくださった全国のたくさんの先生方から実践事例の収録をお認めいただいたことを大変うれしく思っている。また,子どもたちの生き生きとして創造的な活動の様子を紹介するために筆者が撮影した写真の掲載を認めてくださったことにも感謝している。
さらに,本書の表紙を飾ってくれたすてきな芸術作品は,イギリスのバーミンガムにあるロビンフッド小学校(Robin Hood Primary School)の子どもたちのコンピュータグラフィックスである。海と大陸を越えて,本書の出版のためにインターネットの電子メールで子どもたちの作品を届けてくださったブロードフィールド校長先生(Mr. Broadfield, Headteacher)の国際的な友情を記して歴史にとどめておきたい。
最後になったが,本書の出版を進めてくださった明治図書編集長の樋口雅子さんに改めてお礼を述べたい。さらに,筆者の執筆活動を温かく支えてくれている妻円子に,心から感謝したい。
2000年5月吉日 青葉繁る柏堂にて /田中 博之
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- 明治図書