- まえがき
- T章 法教育って何
- §1 今なぜ法教育が求められているのか
- 1 法化社会に向かっている
- 2 法化社会へと加速させる規制緩和と国際化
- 3 司法への国民の参加が求められている
- §2 法教育がめざすもの
- 1 自由で公正な社会の構成者としての資質・能力を育む
- 2 法についての考え方
- 3 法的リテラシー
- §3 法教育が扱う主な内容とは何か
- 1 ルールを学ぶ学習領域
- 2 自分やまわりの人たちのトラブルを解決する方法を学ぶ学習領域
- 3 法的紛争と法を学ぶ学習領域
- 4 第三者の立場から紛争を公正に判断する学習領域
- 5 法教育の学習領域をまとめると
- U章 法教育はどんな教科と関係しているだろうか
- §1 生活科に見られる法教育の内容
- §2 社会科に見られる法教育の内容
- §3 家庭科に見られる法教育の内容
- §4 道徳の時間に見られる法教育の内容
- §5 特別活動に見られる法教育の内容
- §6 総合的な学習の時間に見られる法教育の内容
- V章 学校における法教育の全体構造を考えてみよう
- §1 各教科等で扱われている法教育の内容を分類してみよう
- 1 小学校の場合
- 2 中学校の場合
- §2 法教育の実践・概念・価値
- 1 実践にかかわるもの
- 2 原理や概念にかかわるもの
- 3 価値にかかわるもの
- §3 学校で行う法教育の体系図を描いてみよう
- W章 法教育の成功例から授業づくりのヒントを考えてみよう
- §1 法教育の授業で成功した事例の概要
- ―「『オオカミなんか怖くない』殺オオカミ事件」―
- 1 目標
- 2 授業の概要
- 3 指導計画
- §2 成功した事例の分析
- §3 授業を成功させるためのポイント
- 1 具体性があるか
- 2 専門性があるか
- 3 成長させているか
- X章 法教育のよりすぐり授業を紹介しよう
- §1 ルールの役割
- 【漂流ゲームをやってみよう】
- 1 目標
- 2 授業の概要
- 3 指導計画
- 4 授業の特徴
- 5 指導のポイント
- 【テレビゲームで遊ぶためのルールをつくろう】
- 1 目標
- 2 授業の概要
- 3 指導計画
- 4 授業の特徴
- 5 指導のポイント
- §2 自分自身やまわりの人たちのトラブルの解決と法
- 【契約を結んでみよう】
- 1 目標
- 2 授業の概要
- 3 指導計画
- 4 授業の特徴
- 5 指導のポイント
- §3 公平な第三者として公正に判断する経験
- 【模擬裁判で判決を出してみよう】
- 1 目標
- 2 授業の概要
- 3 指導計画
- 4 授業の特徴
- 5 指導のポイント
- 【もうすぐはじまる裁判員制度―大人の不安を取り除くにはどうすればよいか―】
- 1 目標
- 2 授業の概要
- 3 指導計画
- 4 授業の特徴
- 5 指導のポイント
- Y章 法教育をうまく進めるためのアイデア
- §1 法曹界,法律専門家との連携・協力
- 1 法についての教師の理解を深める連携・協力
- 2 指導計画作成段階での連携・協力
- 3 授業実践段階での連携・協力
- §2 学校外の施設利用の方法
- 1 裁判所見学はどうすれば可能か
- 2 弁護士会館の見学
- Z章 法教育のプラン・ドゥー・シー
- §1 法教育の指導計画を作成するときのチェックポイント
- §2 法教育の授業実践の視点
- §3 法教育の授業評価と改善の視点
まえがき
最近,新聞やテレビで模擬裁判の授業がよく紹介されるようになった。直接のきっかけは,裁判員制度の導入(平成21年5月までに始まる)が決まり,国民の中からくじで選ばれた裁判員が刑事裁判に参加することになるため,こうした法や司法に関する授業に注目が集まっているからだろう。
ところで,この制度導入に対し,人を裁く裁判に素人が加わってもいいのだろうかという意見をよく聞く。これについてはそんなに難しく考えない方がよい,というのが私の考え方である。例えば,私の子どもたちは幼いころよく姉弟喧嘩をしていたが,必ずどちらかが最後に泣いてしまうのである。そこで,二人から喧嘩になった経緯を聞き,どちらに非があるのかを見定め「お前の方が悪い」とはっきり述べた上で仲直りをさせていた。こうしたことはどこの家庭でも見られることであろう。自分の家庭あるいは自分たちの社会で起こったトラブルに対し,自分たち自身が参加して解決するのは当たり前のことではないだろうか。なお,このとき忘れてはならないことは,公平なルールに基いて公正に解決することを心がけるという点である。そうでなければ,当事者は納得しない。それは子どもたちの喧嘩を解決する場合も同じである。その意味では,これからの学校教育で,法とは何か,なぜ法に基づいてトラブルを解決するのか,法にはどのような働きがあるのかなど,法の根本的な考え方を学ぶことに重点を置いた「法教育」を展開することは大切なことである。
今日,こうした「法教育」に対する期待はますます高まっており,折しも中央教育審議会「審議経過報告」(平成18年2月13日)で,社会の変化に主体的に対応できるようにするためには「法や経済などに関する教育の充実が求められている。」と指摘されたところである。
このような社会的要請を踏まえ,本書では「法教育」に対する理解と授業づくりの支援ができるように,第T章から第V章までを法教育の理論編とし,第W章からZ章までを授業例を中心とした実践編として内容を構成した。
まず理論編として第T章では,そもそも法教育とは一体何なのか,なぜ今この教育が求められているのか,その背景や授業で扱う内容を示している。第U章では,実際に学校で法教育を展開する場合,どの教科で何が指導され得るのかを示している。第V章では,法教育を学校全体でどのように展開できるかを整理するために法教育の体系図を描いている。
続いて実践編として第W章では,法教育の優れた授業例を取り出し,なぜそれが良い授業となっているのかを分析している。X章では,「3匹の子ぶた」の物語を素材にした模擬裁判の授業など,法教育としてお薦めの授業例を紹介し,授業の特徴と指導のポイントを示し,すぐにでも実践できるようにしている。第Y章では,法教育をうまく運営するために法律のプロである法曹界との連携の取り方を紹介している。そして最後に第Z章で,法教育の計画,実践,評価を考え,法教育の授業改善の手続きについて言及している。
法教育の授業は今どのように行われているのか,それはなぜそのように行われることになるのかを見ていくのであれば,はじめに実践編を読み,その後で理論編を読むことを薦めたい。逆に,まずそもそも法教育とは何か,それは実際にはどのような授業になるのかということを見ていくのであれば,本書の章立てに沿って読むことを薦めたい。
最後になりましたが,本書の内容の多くは,法務省が主催した法教育研究会(現在は法教育推進協議会)の座長,土井真一 京都大学大学院教授や,同研究会委員の江口勇治 筑波大学教授,弁護士の鈴木啓文氏,同研究会の法教育教材作成部会委員の後藤直樹弁護士や村松剛弁護士をはじめ多くの方々から法教育に関する様々なご指導をいただいたおかげでまとめることができた。ここに記して感謝申し上げます。また,執筆の機縁を与えていただいた編集部の安藤征宏氏,本書の校正でお世話になった土井辰雄氏にお礼を申し上げます。
2006年3月 /大杉 昭英
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- 明治図書