- はじめに
- 第T章 ソーシャルスキル指導をする前に知っておいてほしいこと
- 1 なぜソーシャルスキル指導をするのか
- こうしてソーシャルスキル指導は始まった/ LDは大きな傘の役割をした/ ソーシャルスキル指導を子どもたちは待っている
- 2 軽度発達障害と呼ばれる子どもたち
- 軽度発達障害という用語について/ LDは認知の偏りを背景とする−脳は情報のファイリングボックスー/ ADHDには不注意タイプと多動・衝動タイプとがある/ 自閉症とその仲間たち……高機能自閉症・アスペルガー症候群/ 軽度発達障害もまた大きな傘だとすれば……その他の障害
- 3 すべての指導はこころと行動の理論を背景としている
- こころと行動は表裏の関係にある/ 子どもは問題行動で訴える/ 子どもの行動をよく見てみよう−行動のABC−/ 行動の鍵を握る強化にはプラスとマイナスがある/ 約束(契約)の大切さ/ 基本はきちんとほめること−いろいろなほめ方がある−/ 叱ることは難しいータイムアウトって何ー/ 成就こそ成功の母
- 4 ソーシャルスキル指導とは何か
- ソーシャルスキルとは/ ソーシャルスキルの指導技法/ 障害特性に応じた指導のポイント/ ゲームを活用する
- 5 ソーシャルスキル指導のポイント
- ソーシャルスキル指導の3つのタイプ/ 授業の組み方/ グループの組み方/ 教室の構造化
- 6 ソーシャルスキル指導の評価
- よい指導はよいアセスメントから生まれる/ ソーシャルスキル尺度での評価/ 指導内容を決定するために/ 指導効果を調べるために
- 第U章 ソーシャルスキル指導の実践プログラム
- <実践編解説>上手な利用のために
- bP めあてを決めよう/集団・セルフ・仲間・コミュ
- ソーシャルスキル指導を行うとき,重要になるのが子どものやる気
- bQ 挨拶をする/集団行動
- 適切に挨拶をする。人への関心が薄く,挨拶をする意識がない子に有効なプログラム
- bR 見る修行/セルフコントロール
- 他者への意識が薄い子どもや気が散りやすい子どもに特に必要なスキル
- bS 聞く修行/セルフコントロール
- ゲームを通して楽しみながら話を聞く練習。先生の話や友だちの発表などをきちんと聞く習慣をつける
- bT 負けても平気/セルフコントロール
- 負けたときにパニックでなく,言葉で表現する方法を学び,負けることへの耐性をつける
- bU あっ,フライング!!/セルフコントロール
- 軽度発達障害の子どもに見られる衝動的な行動をどうコントロールさせるか
- bV 発表をするときは?/集団行動・コミュニケーション
- 声の大きさや姿勢,言葉での表現など,集団の前で発表するときのスキルを学ぶ
- bW 話を聞くときは?/集団行動
- 就学前や小学校の早い時期に獲得すべき基本的な学習態度のポイントを示し,身につけさせる
- bX 話しかけるときは?/コミュニケーション
- 「自己紹介」や「ことわって借りる」など人に話しかけるときの基本的なスキル
- 10 ものを借りるときは?/集団行動
- 対人関係のトラブルを避け,学級の人間関係を円滑にするためのスキル
- 11 仲間に入るときは?/仲間関係
- “適切な声の大きさで”“「入れて」と言う”ということをロールプレイングやゲームを通して教える
- 12 自己紹介をしよう/集団行動
- 人にはじめて会ったときや,これから仲良くなっていくときに必要な自己紹介のスキル
- 13 名前を覚えよう/仲間関係
- 対人意識の薄い子どもに,プログラム参加するなかで名前を覚えることの重要性に気づかせる
- 14 名前で呼ぼう,返事をしよう/仲間関係・コミュニケーション
- 対人意識が薄く,人との関わりの不器用なPDDなどの子どものためのスキル
- 15 あったか・チクチク言葉/集団・セルフ・仲間・コミュ
- あったか言葉とチクチク言葉といった概念から言葉が人に与える影響を学ぶ
- 16 仲間と動きを合わせよう/仲間関係
- ゲームを通して相手の動きに注目し,動きを合わせて協力することを学ぶ
- 17 助けて,ヘルプミー!!/仲間関係
- 仲間を助ける,仲間に助けられるといったスキルを楽しく学ぶ
- 18 いろんな気持ち/セルフコントロール
- 感情のコントロールを育てる第一歩として,感情を表す言葉を知り,その数を増やしていく
- 19 みんなで決めよう/コミュニケーション
- 協調的に話し合うことは,学校での班活動や日常での仲間関係などで必要なスキル
- 20 ソーシャルスキルってなあに?/集団・セルフ・仲間・コミュ
- ソーシャルスキルの意味と意義を学ぶ。小学校高学年以降のグループ活動の最初に導入するプログラム
- 21 わかりやすく伝えよう/コミュニケーション
- 言語表現,相手の視点に立つことが困難な子どもたちに必要なスキル
- 22 提案しよう/コミュニケーション
- ゲームを通して,提案の仕方を学び,適切に自分の考えを相手に伝える練習をする
- 23 上手な聴き方/コミュニケーション
- “相手を見る”“相手が話し終わるまで待つ”“うなずく,あいづちをうつ”など行動レベルのスキル
- 24 感情ぴったんこ/セルフコントロール
- ゲームを通して仲間と心が通じ合うあたたかい人間関係を体験し,感情の自己認知と自己受容を促す
- 25 協力してやりとげる/仲間関係
- 協力ジェスチャーゲームの事前練習を通して,人と協力することを学ぶ
- 26 私とあなたの共通点/仲間関係
- 『共通点探し』というゲームを楽しみながら,お互いの共通点や相違点をとらえていく
- 27 仲間のことを知る/仲間関係
- 「仲間○×クイズ」ゲームを通して,仲間への注目を促し,仲間を知ることの楽しさに気づかせる
- 28 自分を表現する/仲間関係
- 自分のよいところなど自分の特性をポスターにすることで,自分自身を肯定的に見られるよう促す
- 29 こんなときどうする?/集団・セルフ・仲間・コミュ
- 問題解決のステップに沿いながら,自分たちの日常の問題に対処していく
- 30 大事な意見は?/コミュニケーション
- 話し合いでは中学生の段階になると“理由を言う”“大事な意見を優先する”高度な話し合いスキルが必要になる
- 31 相手の気持ちになってみよう/仲間関係
- ブラインドウォークを通して「相手の視点に立つ」ことをの大切さを教える
- 32 こころを読めますか?/仲間関係・コミュニケーション
- クイズを通して,しぐさ・表情・態度などから相手の考えを推理するプログラム
- 33 気持ちの温度計(共感する)/セルフ・仲間・コミュ
- “温度計”を用いて,自分や仲間の気持ちを視覚化・数値化し,具体的に理解する
- 34 私のストレス対処法/セルフコントロール
- “ストレッサー”“ストレス反応”“対処法”の関係をワークシートや話し合いを通して学ぶ
- 35 これ常識? 非常識?/集団行動
- 常識・非常識のワークシートをもとに,グループで話し合い,社会のルールだけでなく,理由も考えさせる
- 36 会話のマナー/仲間関係・コミュニケーション
- お茶会を通して会話のマナーとその理由について学ぶ
- 37 子どもプロデュース/仲間関係・コミュニケーション
- 外出・調理・フリーマーケット出店などの企画・運営を通して,話し合い・協力のスキルを学ぶ
- 38 上手にありがとう/仲間関係・コミュニケーション
- 感謝を伝えることは,助け合えるような友だち関係をつくるための大切なスキル
- 資料 [小・中学生用]指導のためのソーシャルスキル尺度
- ○指導のためのソーシャルスキル尺度(小学生用)
- ○指導のためのソーシャルスキル尺度(中学生用)
- 1 [保護者用,在籍学級用シート]
- 2 [ふりかえりシート](小学生低学年・中学年用)
- 3 [ふりかえりシート](小学生高学年・中学生用)
- 4 [指導内容を決定するためのアセスメントシート]
- おわりに
はじめに
人間は社会的な動物です。私たちは常に人間社会のなかで,他の人と関わりながら生きていきます。しかし人間は動物ではあってもただの動物ではありません。それは人間だけが特別に発達した脳をもち,高度な知性を有するからです。人間の脳は,社会共同体のなかでともに暮らす仲間の意図や動機を理解し,自分の意思にかなった行動へと導くために進化したという説も有力です。こうした特異な知能は,高度な意思伝達の手段であるコミュニケーション能力だけでなく,他の動物とは比べものにならぬほど豊かな感情を理解し表出する能力とも深く関わっているのです。
たしかにIQ(知能指数)の効用と限界はこの100年,心理学の大きなテーマでしたが,今日,SQ(社会性指数)やEQ(情緒指数)の重要性を指摘する立場の人々も増えてきました。おそらく複雑化する現代社会にあって,さまざまな社会的能力が一層必要であることへの気づきなのでしょう。
人々が必要とする対人的な関わりにも大きな変化の兆しが見られます。子どもの世界では,いじめ,不登校,校内暴力,授業崩壊などが,日常的に観察されるところです。また,子どもを取り巻く生育環境においても,こころ,身体,性,そして無視といった虐待にまつわるニュースも後を絶ちません。子どもが親となり,そしてまた子育てをするのですから,その連鎖の輪は常に教育という営みによって影響され続けるわけです。今日,知育に焦点化されやすい教育に対して,こころの教育の必要性が強く叫ばれる理由もそこにあるのではないでしょうか。
私たちは長く,LD(学習障害)やADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能PDD(高機能自閉症,アスペルガー症候群)などと呼ばれる軽度の発達障害のある子どもたちへの特別な支援教育の必要性を訴え,その実践臨床指導を積み上げてきました。彼らはすべての子どもたちのモデルとしてこの社会的能力の成育を何よりも必要としています。彼らの究極の発達課題は社会自立であり,その可能性を追求する教育課題はまさしくソーシャルスキル指導なのです。そうした思いのなかからYMCA東陽町センターを中心にLD臨床に関わってきたみなさんとともに,この本を創りました。内容理解の鍵を握るイラストもやはり仲間の一人である本山優子さんに描いてもらいました。
すべての子どもたちが社会のなかで,お互いを気遣いながら,たくましく育っていくことをこころから願いながら,この本を愛と夢を追い求めるみなさんにお届けします。
2006年5月 編著者 /上野 一彦
特別支援教育とあるけれど現代の子どもたちすべてに使えるマニュアルではないかと思います。先生方にちょっと目を通してもらいたいなと思う一冊です。