- まえがき
- T 通知表は教師の指導に応じて〈解釈〉される
- /堀 裕嗣
- 1 「説明責任」は事前に果たすべし
- 2 「結果責任」を肝に銘ずべし
- 3 「評価言の五原則」を守るべし
- 4 「通知表」は「日常実践」と連動して〈解釈〉される
- U 保護者の信頼がよりよい〈解釈〉を生む
- /堀 裕嗣
- 1 〈自己キャラクター〉に基づいた家庭訪問を演出する
- 2 学級担任としての〈自信〉に基づいた個人面談を演出する
- 3 保護者との懇親会を大切にする
- V 日常的な評価活動で生徒の信頼を得る
- /堀 裕嗣
- 1 〈目標〉〈指導〉〈評価〉を一体化する
- 2 生徒一人一人に学力を保障する
- 3 生徒理解の力量を高める
- W 中学1年生の評価・評定のポイント
- /森 寛
- 1 日常実践における評価
- 2 評価資料の集め方
- 3 カッティングポイントの設定の仕方
- 4 評定資料の重み付け
- 5 その後の指導への評価の活かし方
- 6 選択教科の評定
- X 中学1年生の通知表のポイント
- /板橋 友子
- 1 生活・行動の記録のポイント
- 2 「総合的な学習の時間」の所見のポイント
- 3 「総合所見」のポイント
- 4 学級通信の果たす役割
- 5 進路指導との関わり
- Y 生徒・保護者にわかりやすい所見文例
- 1 リーダー性を発揮した生徒
- 2 行事や部活動において活躍した生徒
- 3 委員会活動・係活動で地道な活動が見られた生徒
- 4 明朗快活だがやや言動が粗野である生徒
- 5 明朗快活だがやや責任感に欠ける生徒
- 6 おとなしくあまり目立たない生徒
- 7 友人関係に悩むことが多かった生徒
- 8 問題行動が見られる生徒
- 9 学級になじめない生徒
- 10 不登校の生徒
- 11 学力が高く成績が安定している生徒
- 12 努力を続け成果が現れた生徒
- 13 努力したが成果が現れなかった生徒
- 14 学習意欲が低下してきている生徒
- 15 家庭学習の習慣が身についていない生徒
- あとがき
まえがき
平成15年度の1学期末のことである。
19:00頃,私が退勤しようとすると,理科準備室の灯りが煌々と光っている。誰がいるのだろうと,私はふと覗いてみた。すると同じ学年の若手の男性教師がパソコンとにらめっこをしている。腕を組んで,目はまっすぐに画面に向かっていた。1分ほど覗いていたが,彼の手がキーボードに伸びる気配はない。
「何の仕事してんの?」
私は笑顔で話しかけた。彼は応えた。
「……通知表です。」
なるほど,そう言えば明日が通知表の提出日である。しかし私は,自分が既に1週間ほど前に提出してしまっていたので,通知表は教務点検・管理職点検も済んで,既に私の手元に戻ってきていた。そんな私には,明日が通知表の提出日だという意識がなかった。もっと言えば,私の意識はもうすっかり夏休みに向かっていたのである。
しかし,この若手教師は通知表提出の前日19:00に,パソコンとにらめっこしている。所見が書けないのである。パソコンとにらめっこなのだから,下書きの段階である。勤務校では,所見は手書きでという内規がある。
私は更に問いかけた。
「なんでパソコンとにらめっこしてんのよ。早く上げちまって酒でも飲めば?」
彼は応えた。
「堀さんはいいですよね。国語ですもんね。俺は小学校の時から作文は完全にダメなんすよ。」
私は正直,耳を疑う思いだった。所見が作文? こんな短い通知表所見が?
勤務校の通知表所見欄は各学期3行分しかない。60字も書けば終わりである。それにこんなにも苦労する教師がいるとは……。キーボードに手が伸びないほどに……。ただ黙って腕を組んで,画面を見つめている教師がいるとは……。
私はこの後,2時間ほどかけて,彼に指導を加えた。生徒一人一人について,印象的な出来事は? 行事での活躍は? 宿泊学習では何係? と挙げさせて,彼にエピソードを想い出させた。更に,それを担任教師としてどう思う? 2学期に期待することは? と挙げさせて,いわゆる「エピソード+評価言」形式の所見を次々にワープロ打ちさせていった。
「堀さん,ありがとうございます!」
彼はさわやかな笑顔でそう言うと,通知表に手書きで所見を書き始めた。
本書『生徒・保護者にわかりやすい絶対評価の通知表』(学年別全3巻)は,こんな若手教師に読んでもらうことを想定して執筆した。そのために通知表所見文例を豊富に掲載した。こうした若手教師に,もっと能率的で生産性のある仕事の仕方をして欲しいと考えるからである。
しかし,通知表は,所見をマニュアルを用いて書けば良いといった単純なものではない。特に,絶対評価時代を迎えた今日,教科にしても道徳にしても特別活動にしても,〈目標〉と〈指導〉と〈評価〉とを一体化させた「連続的な教育活動の一段階」として捉え直さなくてはならない。そうした意識をもって編集したつもりである。
第T章では,通知表の機能について論じた。通知表が良きにつけ悪しきにつけ,記号としてしか機能せず,通知表は日常実践と連動して〈解釈〉されるものである,ということを強調している。その意味で,見直すべきは通知表ではなく,日常実践である旨を述べた。
第U章では,保護者の信頼を得るために担任教師が心がけなければならないことを,家庭訪問・個人面談・学級PTA懇親会という三事例で解説した。
第V章では,絶対評価時代を迎えて,我々中学校教師がどのような意識をもって生徒を指導しなくてはならないか,どのように指導していけば良いかを,実践を通じて具体的に提案している。特に,下位生徒への対応に多くの紙幅を割いた。
第W章では,絶対評価時代の評価・評定のポイントとして,どのような点に留意すべきかを,できるだけ実態に即して提案している。
第X章では,第T〜W章を受けて,実際に通知表を作成する上でどのような点に注意すべきかについて述べている。
第Y章では,生徒のタイプを15に分類(ただし,3学年は16分類)して,それぞれのタイプ別に通知表の書き方について解説している。ただし,通知表の書き方に止まらず,そうしたタイプの生徒に日常的にどう接すれば良いのか,学級の中でどう活かせば良いのかについて提案する。また,通知表所見の書き方のポイントを示すとともに,所見文例を豊富に掲載している。更には,その生徒に対する継続的な指導をどのような方向性で行っていくべきか,についても述べていく。
本書が,中学校の学級担任にとって,日々の学級経営に少しでも役立つものとなれば,それは望外の幸せである。
2004年1月 「研究集団ことのは」代表 /堀 裕嗣
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- 明治図書
- 生徒のタイプ別に所見文例が掲載されており,大変参考になった。2017/2/2540代・中学校教員