- 巻頭言―言語活動を支え豊かにする書写の能力の育成を―
- 序
- まえがき
- 第1章 これからの書写指導はこう変わる
- 1 書写指導の現状と課題―孤立する書写指導からの脱却―
- 2 国語科書写の新しい展開
- 1 国語科教育の一環としての書写指導
- 2 学習場面・実生活に生きる書写力の育成
- 3 書写力の育成における系統性の重視
- 4 文字文化に関する認識形成と親しむ態度の育成
- 5 「科学的・効率的な書写指導」・「示範できない教師でも指導できる書写指導」の実現
- 6 「モジュール学習」の活用
- 3 言語活動に生きる書写指導の構築
- 第2章 新学習指導要領における書写指導&学年別早わかり解説
- 1 書写に関する事項の要点
- 1 指導事項とその構造
- 2 配当時間数と計画的指導の必要
- 2 各学年の指導上のポイント
- 1 第1学年の指導のポイント
- 2 第2学年の指導のポイント
- 3 第3学年の指導のポイント
- 第3章 国語力もアップする! 中学校書写の新授業モデル15
- 1 二つのスタイルで新しい書写授業を考えよう
- 1 「言語活動に生きる書写指導」設定のねらい
- 2 「技能の系統性にそった書写指導」設定のねらい
- 3 「言語活動に生きる書写指導」・「技能の系統性にそった書写指導」の運用
- 2 国語科とのコラボでつくる!書写の新授業モデル6
- モデル1 行事の案内文を書こう(第1学年)
- モデル2 書式に合わせて見やすく記録しよう(第1学年)
- モデル3 創作意図が伝わるように書こう―俳句―(第2学年)
- モデル4 手紙文を書こう(第2学年)
- モデル5 年賀状から文字を書くことについて考えよう(第3学年)
- モデル6 修学旅行記をつくろう(第3学年)
- 3 書写のスキルを極める!新授業モデル9
- モデル7 お気に入りの文章を視写しよう(帯単元学習)(第1学年)
- モデル8 活字と手書きの違いを知り,主体的に使おう(第1学年)
- モデル9 行書とはなんだろう(第1学年)
- モデル10 行書の階段をのぼろう(第1学年)
- モデル11 漢字の行書に調和した仮名を書こう(第2学年)
- モデル12 行書を使って聴写しよう(第2学年)
- モデル13 身の回りの文字を観察して特徴をまとめよう(第3学年)
- モデル14 文字文化について考えよう(第3学年)
- モデル15 漢字の成り立ちの学習と書の作品創作を通して思考力・表現力を育てる総合単元学習
- 4 1日10分間ずつでもできる!書写のモジュール学習
- 1 書写授業の未履修問題
- 2 モジュール学習の活用
- 3 モジュール単位による行書指導
- 4 モジュール単位による書写指導の先行実践
- あとがき
- 執筆者一覧
- Column
- 1 身体の記憶
- 2 バイヤーの眼,ユーザーの感覚
- 3 文字を手書きすることの意義
- 4 「鉛筆」雑感
- 5 「行書」の指導と「モジュール学習」
- 6 手書きと活字では字形が変わる?!
- 7 手書きの力
- 8 日本語を表記する文字
巻頭言―言語活動を支え豊かにする書写の能力の育成を―
文部科学省初等中等教育局 教科調査官 冨山 哲也
平成20年版学習指導要領は,各教科等における言語活動の充実が改訂の大きな柱となっている。ここでいう言語活動は,単に「話す,聞く,書く,読む」という行為を表すのではなく,各教科等における基礎的・基本的な知識・技能を活用し,思考力・判断力・表現力を育成する学習活動を意味したものである。
国語科における言語活動の重視も,考え方は同じである。例えば,「書くこと」第2学年の言語活動例ウは,「社会生活に必要な手紙を書くこと」である。授業では,これを基に「職場訪問でお世話になった方にお礼の手紙を書く」などの具体的な言語活動を設定して指導していくことになるだろう。生徒はこの活動を通して,職場訪問の体験から書くべき内容を集め,構成を考え,感謝の気持ちが伝わるように文章を工夫し,相手に失礼がないか考えながら推敲し,友達と読み合って仕上げるという学習を進めることになる。この学習過程で,目的や意図に応じて様々に思考し,判断し,表現していくことになるのである。
こうした言語活動を円滑に進めるためには,文字を書く力が不可欠である。それも,単に少ない文字群を丁寧に書くことだけではなく,言語活動の過程を支える多様な力が求められる。上記の手紙を書く活動に即して言えば,材料を集めて構成する段階では,速く的確に文字を書いたり,書きながら思考したりする力が必要である。文章を記述する段階では,漢字と仮名の調和を考えたり,紙面における文字の配列を決めたりする力が必要になる。また,ここでは,縦書きか横書きかを決めたり,筆記用具を選んだりすることも大切になる。そして,推敲や交流の段階では,書かれている内容とともに,文字の書き方の観点でも文章を見直すことが必要になる。
中学校国語科における書写の指導では,改めて,上に見るような力を育成していただきたいのである。それは,言語活動を支え豊かにする書写の能力と言うことができる。こうした能力を育成するためには,これまでの指導の見直しが迫られることもあるだろう。例えば,今回の改訂で,中学校では書写の指導時数の目安を,第1学年と第2学年は20時間程度,第3学年は10時間程度と設定した。これにより,例えば第1・2学年においては,2週に1時間程度の頻度で年間を通じて計画的に書写の指導を位置付けることが考えられる。言語活動を支え豊かにする多様な書写の能力は,一定期間にまとめて行う指導ではなく,このような継続的な指導が有効であると思われる。
こうした年間指導計画の見直しも含め,本書に述べられる様々な理論や実践を,新しい書写の指導観の確立に役立てていただきたい。国語科における書写の指導の充実が,各教科等における言語活動の充実とどのようにかかわっていくのか。大いに議論がわき起こり,書写の指導に関する研究と実践が一層活発になることを期待している。
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- 明治図書