- はじめに …質問力がなぜ求められるか
- T 一からわかる高学年質問力育成の方略
- (村松 賢一)
- 1 質問力を意識すると国語の授業が変わる―子どもがイキイキと話す・聞く授業―
- 2 子どもに身につけさせたい質問力とは
- 3 質問力を育てる授業づくりの重点
- U 5年生の「質問力」アップワーク&活用アイデア
- (波多江 誠)
- (1) モデル型ワーク
- [1] はじめて友だちのことがわかった! 友だちを深く知る7つの質問
- [2] 質問で照らし出す車の現在と未来 車博士に聞いてみよう―夢の自動車―
- [3] 深める質問のコツがわかる 質問は真理の扉を開くカギ
- (2) 基本スキルのドリル型ワーク
- [4] 何をどう聞けばメダカのオス・メスがわかるの? メダカを調べ隊!
- [5] わくわくドキドキ質問クイズ どっち? ボール
- [6] こういう時はどう尋ねればいい? 質問を考えよう
- [7] 質問力をつければだれでも味方に 反対キングを味方につけろ
- (3) 活動型のアイデアワーク
- [8] 質問が紡ぎ出す友だちの心の物語 私の心情曲線
- [9] 上手は聞き上手 私にPRさせてください―本の帯づくり―
- [10] 失敗したら自分に質問してみよう ペーパータワー
- V 6年生の「質問力」アップワーク&活用アイデア
- (福島 崇宏)
- (1) 基本スキルのドリル型ワーク
- [1] ビンゴゲームが2倍楽しくなる 連想ビンゴ
- [2] 質問でちがいをはっきりさせる イラスト当てゲーム
- [3] 楽しいクイズでいつの間にか質問力アップ あなたの好きな有名人を教えてください
- [4] 質問力が決め手! 素敵なデザイン お好みに合わせてデザインします
- [5] 聞き手中心の新形式のディベート こちらにしませんか?
- (2) 活動型のアイデアワーク
- [6] 多角的な質問力が身につく わたしはだれでしょう
- [7] プレゼントのご相談ならおまかせを プレゼント・コンシェルジュ
- [8] あいまいな気持ちの数値化に挑戦 その思い何%?
- [9] 求める情報を聞き出すコツがわかる 目的に合わせて問い合わせよう
- [10] 君の前にあの太一が。さあ,インタビュー! 太一の生き方を考えよう
- W 質問力を高める実践事例
- (阿部 藤子)
- 1 インタビューで読み深める――「大造じいさんとガン」(5年生)
- 2 質問を生かすディベート学習――三角討論の試み 「インスタント食品と私たちの生活」(5年生)
- あとがき
はじめに
質問力がなぜ求められるか
質問力は生きる力
「ジャングルブック」の著者として知られる英国の作家,ラダヤード・キプリングは次のように語ったと言われる。
「私は人生の全てを次の6人の正直者から教わった。彼らの名前は,What,Why,When,How,そして,Where,Whoである。」
いわゆる5W1Hだ。インタビューの仕事に30年近く携わってきた経験に照らしても,この言葉は決してオーバーでないと言える。中でも,What,How,Whyの3つはマジックワードと言ってもよく,状況により,目的に応じて,これらの質問を適切に操れれば,人生無敵と言っても過言ではない。単に,会話上手になったり,必要な情報を獲得できたりするだけではない。その人は,丁寧に人の気持ちに寄り添い,気持ちをほぐし,本音を引き出すことができるので,自ずとまわりに友人と信望とを集める。自分の意見を押しつけることなく,気がついたら,対立していた相手が「わかった」と歩み寄る。なぜか。彼(彼女)は,言い張る前に,まず,相手の考えをしっかり受けとめる(聞き出す)ことに努める。そして,言葉のもとになった考えを理解すべく,あれこれ質問を繰り出しながら,自分の考えとの相違点と共通点を相手と共に見つけようとする。やがて,2つの円が重なり合う領域がはっきりしてくると,合意形成は時間の問題である。こうして,どんな人とでも,気持ちよく共通理解が築けるからどんどん仕事が進み可能性が広がる。これを生きる力と言わずして何と言おう。
長年無視された質問力
それほどに大切な質問は,しかし,国語教育の世界で長いこと不遇をかこってきた。試みに,現行(平成10年改訂)の学習指導要領をひもといてみよう。「話すこと・聞くこと」の指導事項のどこにも「質問」という言葉は見つからない。学習指導要領上,長い間,「話すこと」は表現領域,「聞くこと」は理解領域に分けられ,両者の中間に位置する「質問」は居場所を与えられてこなかった。その影響が,「話すこと」と「聞くこと」が統合されても,尚,残っているのである。だが,ようやくその重要性が認識され始めた。新学習指導要領では,初めて,「尋ねたり応答したり」(小学校,1・2年,言語活動例)とか「話の中心に気を付けて聞き,質問をしたり」(同,3・4年,指導事項)という言葉が登場したのである。これから,である。これから,私たちは,「質問力」ときちんと向き合い,その可能性を追究していかなければならない。
質問力育成の具体的手立て
質問力に限らず,言語技能の習得には2つのアプローチのバランスをとることが大切である。1つは,「質問力」自体を学習目標とする取り立てた指導である(基礎・基本)。もう1つは,そうして鍛えた「質問力」を「読むこと」や「書くこと」,更には,他教科の学習に生かすことである(活用)。どちらか一方に偏した指導では,十分な質問力を身につけさせることはできない(本書に,ワークだけでなく,巻末に実践事例を載せたのもそのためである)。学習指導要領上はどうあれ,質問力の重要性に気付いた指導者は,これまでも,さまざまに工夫された実践を通してその育成に心をくだいてきた。しかし,残念ながら,その多くは活用型であり,基礎・基本を取り立てて指導するノウハウの確立は大きく立ち遅れているのが現状である。私たちが,本シリーズを世に問う理由はそこにある。短時間で,楽しく,効果的に質問力を鍛えるワーク,という高いハードルをあえて掲げて力を尽くしたつもりである。能書きはこれくらいにして,本書を活用していただく一助として,最小限度のキーワードを説明させていただきたい。
本書のキーワード
私たちは,質問を,その機能から大きく次の3つの系統に分けた。
@ 知らないことやわからない点を尋ねる(WHAT系)。これを「なに」質問とする。
A より詳しい様子や状態を聞き出す(HOW系)。これを「どう」質問とする。
B 理由や根拠を質す(WHY系)。これを「なぜ」質問とする。
これらの質問は,言語活動の類型(心情交流型・情報交流型・意見交流型・合意形成型)によって,求められる主な機能が異なる。
また,ワークは難易度によって,以下の3種類に分けた。すなわち,あらかじめ用意された質問を声に出すだけの「モデル型」。質問の3類型のどれかに焦点を合わせ,それを集中的に練習する「ドリル型」。そして,達成すべき目的を明確にしたミニ活動を通して,すべての質問類型を学ぶ「活動型」である。各ワークの冒頭に,これらの種別を記したので参考にしていただきたい。
ワークは,@「アイデアとねらい」,A「活動の手順」,B「指導上の留意点」,Cワークシート(振り返りカードを含む。そのままコピーして使えるよう配慮した)から構成されている。配列は,モデル型,ドリル型,活動型の順に並べたが,子どもの実態に応じて,いつ,どこから始めていただいても構わない。
最後に,そもそもの企画から数次にわたる原稿の手直し,脱稿に至るまでの全ての段階で深く関わってくださった明治図書の佐保文章さんに心から感謝の意を表したい。本シリーズがかくある形になったのは佐保さんの的確なアドバイスがあってこそである。
本書が,子どもたちが,「6人の正直者」と出会うきっかけになればこれ以上の喜びはない。
2011年2月 著者を代表して /村松 賢一
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- 明治図書
- 授業づくり研修会で実際にワークシートを使って演習を行いました。今、求められている力をつけるための視点がコンパクトにまとめられている一冊なので、とても使いやすいと思いました。2015/8/1550代・小学校教員