- はじめに
- 本書の使い方
- 研修の進み具合チェックシート
- 研修ニーズを探るためのフローチャート
- 校内研修振り返り用紙
- T 準備・計画
- 〜コーディネーターの基礎工事〜
- 1.学校の状況をアセスメントする
- (1) 子ども理解の段階 学校を見渡してみよう
- (2) 教職員の意識 同僚は何を見たがっているか
- (3) 校内のリソース探し あるもの探しの名人に
- 2.研修内容を構造的に概観する
- (1) 特別支援教育の2つのモデル 作戦を練ろう〜設計図を書く〜
- 3.ニーズに見合った研修構想を
- (1) 研修ニーズのアンケート ニーズ→研修→評価の循環を
- U 基本的理解の段階
- 1.特別支援教育とは
- (1) 理念の転換 古いイメージを払い落とそう
- (2) 子ども理解の視点 自分の中の偏見チェック
- (3) 体制整備の展望 校内委員会って何をする所?
- 2.理解と支援の基礎
- (1) LD・ADHD・高機能自閉症とは 子どもの困り感を体験しよう
- (2) 授業づくりの基礎 枠を作るって?
- (3) 人間関係づくりの基礎 人への関心って?
- V 学級内ニーズの把握
- 1.学級内のニーズに気づく
- 〜見立てる力を高めよう
- (1) ニーズチェック座席表 どこにどんなニーズが
- (2) 文部科学省チェックリスト やっぱりこんな困難が
- (3) 行動を見る目 困った行動に切り込みを入れる
- (4) 社会性を見る目 社会性を見抜く力は育てる力
- (5) 背景を探る 柔軟性→豊かな仮説を
- (6) 実態を書く練習 行動を切り取って書く
- 2.学級内のリソースに気づく
- (1) 環境アセスメント 教室環境をチェック!
- (2) 学級集団のアセスメント 次は学級集団をとらえる!
- (3) 保護者のニーズ 保護者会でニーズをつかむ
- W 学級内アプローチ
- 1.集団アプローチ
- (1) 安定した集団生活のために
- @ 〔生活指導〕 忘れ物をなくす達人になる
- A 〔ルール提示〕 学級のルールは暗黙ではダメ
- B 日課・授業の構造化を図る
- C 多様な個性を認め合う保護者
- D 危機に強くなろう
- (2) 心理教育プログラム その子と学級を育てる!
- 2.学級内個別アプローチ
- (1) 学習面の支援
- @ 〔学習スタイル〕 自分に合った学び方
- A 強みで弱点をカバー
- B 〔支援ツール〕 自分に合った道具も活用
- (2) 行動面の支援
- @ 長所に注目しよう!
- A 気分転換を促す名手に
- B 〔個別の目標提示と評価〕 やる気になるがんばり表作り
- X 学級外アプローチ
- 〜チーム支援〜
- 1.チーム支援の考え方
- (1) 協力体制からチーム支援に チームで支援しないと
- 2.教師以外の人的資源の活用
- (1) 人的資源の発掘・活用 サポーターを活かす〜ボランティアなど〜
- Y 組織全体の支援力を向上させる
- 1.ケース検討の持ち方
- (1) ケース検討 ケース検討で元気をつけよう
- 2.個別の指導計画
- (1) 作成・活用・評価 計画を書く・評価するサイクル
- 3.保護者支援の力量
- (1) 面談を有効に 相談システム
- 4.外部機関との連携
- (1) 外部機関を知り連携する力をつける コンサルテーションを活かす
- コラム
- 特別支援教育を進める根拠について〈法律的な背景〉/ 心理検査WISC−Vはやれた方がいいのでしょうか/ 薬物療法について/ 著作権の扱い/ 「スクリーニング」と「アセスメント」/ 虐待の報告義務について/ 個人情報の扱い/ 個別の教育支援計画と移行計画
- (巻末資料)特別支援教育「校内研修」Q&A
- 終わりに
はじめに
特別支援教育の取組みが、各地域で、各学校で、一歩、一歩進んでいます。
私たち教師は、教師としての力量を磨くために、常に学んでいくことを求められています。まして、教育には、時代に応じた新たな課題も投げかけられています。生活科、絶対評価、総合的な学習の時間、国際理解、そして学力向上など、関心の大きさは、学校種や個人によって異なるでしょうが、数え切れないほどの課題と、各人が向き合いながら、日々の実践の中でそれぞれの答を出す作業をくり返しています。
特別支援教育についても、同様です。
全ての学校、全ての教師が、取組みを迫られる新たな課題であることに間違いありません。しかし、全ての学校で、全ての教師に、何もしなくても初めからそのような意識が芽を出すでしょうか。いいえ、違います。多くの新しいテーマが常に若干の誤解や少なからぬ抵抗を払いのけるところから取組みが始まったように、特別支援教育にも、壁がありました。「特殊教育の名前が変わっただけ」「特殊教育の人がやればいい」という誤解や、理念が理解されても「人も予算もつかないのにできるわけがない」という抵抗です。
しかし、特別支援教育に対する消極的な声は、年々小さくなっています。
それは、支援された子どもの笑顔が増えるからです。そして、教師が力をつけていくからです。
子どもの困難を見抜き、支援を工夫することで子どもの姿が変わることは、心ある教師は早くから気づいていました。しかし、特別支援教育を推進するためには、個々の教師の良心や努力にだけ頼っているのではなく、教師集団の力量形成、学校組織の見直しに発展させていかなければなりません。そのためには、特別支援教育に全校で取組んでいく必要性を、多くの教師が肌で感じられるようにしなければなりません。それに最も大きく貢献するのが、校内研修といえます。
この推進に当たっているのは、特別支援教育コーディネーターです。その熱意は、学校を変え、教職員集団を変え、授業を変えていけるという研修意欲を駆り立てています。しかし、「やろう!」とかけ声をかける時期は終わりです。もう「特別支援教育について」「LDやADHDについて」という入門期に必要だったテーマをくり返すだけでは、校内の推進はありません。
しかし、一方では学校の現実とも向き合わなければならないでしょう。校内研修の時間が捻出されても、取組みたいテーマは複数あります。その年度のテーマを追究するために連続して行う校内研修もあれば、各分掌から提案された内容をこなすこともあるでしょう。
まして、校内研究などで優先される内容がある場合や、全ての学校が当たり前に取組む範囲で特別支援教育を位置付けている学校では、特別支援教育の校内研修を計画的・体系的に設定するのは容易なことではありません。しかし、だからこそ、少ない時間で教職員の意識を盛り立て、取組みの見通しを共有する場が重要になってきます。1年で体系立てられない分、数年がかりで計画的に学んでいくための設計が必要なのです。
そして、学校の実態に合わせた特別支援教育の推進を考える上で、忘れてはならないことがあります。外部の専門家から学ぶ研修会から、校内で主体的に学ぶ研修会への移行です。外部の専門家からは、深い学びが得られます。しかし、複数の講師に貴重な場を委ねることで、内容が重複したり、見方や使う用語が異なることで積み上げにくい場合もあります。まして、地域によっては、必要な時に必要な専門家を要請できるかという物理的な制限もあるでしょう。
むしろ、初期には、助けられ上手のコーディネーターとして専門家から学んできたコーディネーターが、今度は助け上手のコーディネーターとして、校内研修の全体計画を立て、自分も含めた校内や地域の教師の力を活用して、校内研修を積み上げていってほしいという願いからこの本は生まれました。そのことを通じて、地域の教師の力、助け上手コーディネーターの総力も上がるからです。
その際、特別支援教育の今後を展望し、全体像を概観し、今、自分の学校で必要な学びは何かを探り、そのための校内研修を企画・運営する力を培わねばなりません。この本は、そのような校内研修を効果的に設計しようとする際のシナリオです。特別支援教育コーディネーターや、特別支援教育の実践家に役立ててほしいと願っています。
この本は、次のような時に、役立つことと思います。
@ コーディネーターが、自校の特別支援教育の推進状況を評価し、より推進するために必要な領域や課題を認識し、それに沿って自身の理解を広げ、技能を磨こうとするとき。
A 学校として、実態に合った全体的継続的な研修計画を作成しようとするとき。
B 学校として、日常的に主体的な研修を進めていくために、教職員集団の力で(外部講師に頼らずに)できる研修を実施しようとするとき。
さらには、地域のコーディネーター同士が、得意とする研修を提供し合うことで、地域内で質の高い研修を実施できるようにしたいと願っています。
子どもたちが受け身の学習では、真の学力が身につかないのと同様に、私たち教師も、受け身の研修ではなく、自分たちに必要な課題を見つめ、迫っていく主体性が求められます。私自身、多くの学校で、伝え、体験し合い、考え合うことを通して、多くの先生方から学んで参りました。そのプロセスに感謝しながら、多くの心ある教師たちに、コーディネーターに、校内研修のよきリーダー、よきファシリテーター(促進する人)になってほしいと願ってこの本を作りました。
/橋 あつ子
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- 明治図書