- 序章 「活用型スキル」は「生きる力」を育む言語行動力である
- ―日本人形成の教育理念に基づく「活用型国語力」の習得法― 中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
- はじめに 統括責任者 /金久 愼一
- T 古典教育の変遷と漢詩
- 一 古典教材の読みを楽しむ
- 1 漢詩に興味を示す児童たち
- 2 古人の思いにふれる漢詩ブーム
- 二 古典教育の変遷
- 1 古典に対する学習指導要領の変遷
- 2 音読と暗唱重視の古典指導
- 三 時代を超えて生き続けている漢詩
- 1 漢詩を読むことの価値
- 2 漢詩指導の系統
- U 活用型国語学力を育成する漢詩指導
- 一 古典教材「漢詩」授業の増大
- 1 日本の古典としての漢文
- 2 漢詩集作成の意義
- 3 漢詩の刺激付けと児童の反応
- 二 新しい視点に立つ漢詩の授業
- 1 活用型学力の育成
- 2 「習得」と「活用」の視点に立った国語科教育の体系
- V 活用型「漢詩暗唱スキル」授業の構想
- 一 漢詩スキル指導で大切にしたい力
- 1 スキル指導の精選・統合・構造化の必要性
- 2 漢詩暗唱スキルの授業構想
- W 活用型「漢詩暗唱スキル」ステップワークの展開
- 五年生
- 自然をうたう(五年) 〈夏夜涼を追う〉〈夏夜〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…自然(花鳥風月)の仲間を探そう
- ステップ2…二つの漢詩を比べて、同じ所・違う所を探してみよう
- ステップ3…暗唱したお気に入りの漢詩を友達に聞かせよう
- 五 学習のまとめと評価
- 春の季節をうたう(五年) 〈春暁〉〈春夜〉〈田園楽七首 其六〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…漢詩に対して興味を持とう
- ステップ2…関係付けを通して、共通点、差異点を考え合おう
- ステップ3…興味ある漢詩を選び、暗唱しよう
- 五 学習のまとめと評価
- ことわざが含まれる漢詩の世界をうたう(五年) 〈雑詩十二首 其一〉〈偶成〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…ことわざから漢詩を知ろう
- ステップ2…漢詩からことわざを探そう
- ステップ3…漢詩で交流しよう
- 五 学習のまとめと評価
- 情景をうたう(五年) 〈不識庵 機山を撃つの図に題す〉〈廬山の瀑布を望む〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数五時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…群読に挑戦〜日本の漢詩編〜
- ステップ2…群読に挑戦〜中国の漢詩編〜
- ステップ3…群読鑑賞会を開く
- 五 学習のまとめと評価
- 六年生
- 人生をうたう@(六年) 〈登科後〉〈再び下第す〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…漢詩を楽しんで音読しよう
- ステップ2…作者の思いを想像しながら、二つの詩を読み比べよう
- ステップ3…好きな詩を選び、暗唱しよう
- 五 学習のまとめと評価
- 人生をうたうA(六年) 〈秋浦の歌〉〈鏡に照らして白髪を見る〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…漢詩のリズムを感じ取ろう
- ステップ2…老いについて考えよう
- ステップ3…時間の使い方を考え直そう
- 五 学習のまとめと評価
- 自然をうたう@(六年) 〈白鷺鸞〉〈菊花〉〈十五夜月を望む〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…漢詩のリズムを感じ取ろう@
- 漢詩のリズムを感じ取ろうA
- ステップ2…漢詩のリズムを感じ取ろうB
- 漢詩のリズムを感じ取ろうC
- ステップ3…漢詩のリズムを感じ取ろうD
- 五 学習のまとめと評価
- 自然をうたうA(六年) 〈客中初夏〉〈山亭夏日〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…漢詩のリズムを感じ取ろう
- ステップ2…二つの詩を読み比べよう
- ステップ3…好きな詩を選んで暗唱しよう
- 五 学習のまとめと評価
- 故郷をうたう(六年) 〈雑詩〉〈絶句〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…漢詩を楽しんで音読しよう
- ステップ2…漢詩の作者の思いを想像して音読しよう
- ステップ3…気に入った場面を想像し、好きな漢詩を音読しよう
- 五 学習のまとめと評価
- 家族をうたう(六年) 〈春望〉〈月夜〉
- 一 学習指導のねらい
- 1 児童の姿と指導のねらい
- 2 ワークシートの活用方法
- 二 学習指導計画(総時数三時間)
- 三 スキル学習指導で活用する漢詩
- 四 漢詩暗唱スキルワーク活用の実際
- ステップ1…リズム感を味わいながら、漢詩を音読しよう
- ステップ2…情景や作者の思いを考えながら、漢詩を音読しよう
- ステップ3…杜甫への手紙を書いて、杜甫の漢詩を暗唱しよう
- 五 学習のまとめと評価
- おわりに /金久 愼一
はじめに
古典教育に関わる「伝統的な言語文化教育」は、今回の学習指導要領の改訂で新しく設けられた事項である。小学校では、低学年で「昔話や神話、伝承」、中学年では「短歌、俳句」、高学年では「古文、漢文、近代以降の文語調の文章」などにふれるように示されている。そして、音読・朗読・暗唱を行うことが指導事項として取り上げられている。
今回の改訂は平成二十年に中央教育審議会から出された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」に基づいているのであるが、答申には次のように述べられている。
○ 国際社会で活躍する日本人の育成を図る上で、我が国や郷土の伝統や文化を受け止め、そのよさを継承・発展させるための教育を充実することが必要である。世界に貢献するものとして自らの国や郷土の伝統や文化について理解を深め、尊重する態度を身につけてこそ、グローバル化社会の中で、自分とは異なる文化や歴史に敬意を払い、これらに立脚する人々と共存することができる。また、伝統や文化についての深い理解は、他者や社会との関係だけでなく、自己と対話しながら自分を深めていく上でも極めて重要である。
○ 国語は、長い歴史の中で形成されてきた我が国の文化の基盤を成すものであり、また、文化そのものである。国語の一つ一つの言葉には、我々の先人の情感や感動が集積されており、伝統的な文化を理解・継承し、新しい文化を創造、発展させるためには、国語は欠くことのできないものである。(中略)国語科では、小学校の低・中学年から、古典などの暗唱により、言葉の美しさやリズムを体感させた上で、我が国において長く親しまれている和歌・物語・俳諧、漢詩・漢文などの古典や物語、詩、伝記、民話などの近代以降の作品に触れ、理解を深めることが重要である。
つまり、今後、世界にはばたく人間として必要となる資質は、「我が国や郷土の伝統や文化を受け止め、そのよさを継承・発展させること」「自分とは異なる文化や歴史に敬意を払い、共存できること」「他者や社会との関係だけでなく、自己と対話しながら自分を深めていくこと」であり、そのために、「自らの国や郷土の伝統や文化について理解を深め、尊重する態度を身につけること」であると述べられている。また、伝統的な言語文化教育の意義のほか、その学習方法も「古典などの暗唱」と具体的に示されており、学習すべき対象も「和歌・物語・俳諧、漢詩・漢文などの古典」と記されている。
注視すべきことは、小学校の低・中学年から古典などの暗唱により、言葉の美しさやリズムを体感させることの教育的意義を明示していることである。
この考えを基盤とした新学習指導要領の改訂を受けて、現在、全国各地の小・中学校や地方自治体などにより、独自の「暗唱詩集」が作成され、児童生徒に暗唱活動を促すようになってきた。中には、毎朝、十分間を利用して「朝の暗唱タイム」などと称して意欲的に活動を推進している学校もある。「教室から声が聞かれなくなったことは悲しいことである」と、ある教育者が音読・朗読の減少したことを嘆いておられた。しかし、今後、児童が古典にふれ、全国各地の学校から音読・朗読・暗唱活動が行われるようになることは喜ばしいことである。おそらく、古典を口ずさみ、古典について語り合う児童が増えてくることであろう。しかし、指導者の中には、「意味もわからないままに繰り返し読ませることは効率の悪い学習方法である」という根強い考えがある。また、実践者から「全く意味がわからないのでおもしろくない。意味を教えてください」という児童生徒からの要望が強い、などという声も出され、今後、具体的な指導方法のあり方を求める声が強くなってくるのは事実である。
本書全三巻は小学校児童の漢詩指導のあり方に焦点化した漢詩暗唱スキルワーク集である。児童が漢詩に出会い、漢詩の読みを知り、漢詩に書かれている作者の人間観、社会観、自然観などにふれ、共鳴・共感しながら暗唱活動を行うことの必要性とその活用型学力の育成指導プロセスを児童の心の流れに沿ったワークシートと連動させながら具体的に書いている実践の書である。
本書全三巻は次のような内容構成としている。
第一巻 活用型「漢詩暗唱スキル」ステップワークの開発(低学年)〜言葉の響きやリズムを身体で楽しむ
第二巻 活用型「漢詩暗唱スキル」ステップワークの開発(中学年)〜言葉の響きやリズムの楽しさを味わう
第三巻 活用型「漢詩暗唱スキル」ステップワークの開発(高学年)〜言葉の響きやリズムの美しさを味わう
それぞれの巻において、低学年・中学年・高学年の児童の発達段階を想定し、親しんでほしいという願いをこめながら漢詩を選定した。そして、さらには、どのようなワークにすれば、児童の漢詩暗唱スキルが身に付くのかを模索しながら具体的実践を積んできた。そうした模索の実践を数例紹介している。今後、どのような漢詩を選定し、どのような授業を実践したらよいのかと悩まれている全国の指導者の参考にしていただければ幸いである。
全三巻統括責任者 西九州大学 子ども学部 /金久 愼一
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- 明治図書