- はじめに
- 第1章 ICT活用の理論と実践 全単元共通のねらいと基本姿勢
- 「個別最適な学び」と「協働的な学び」を意識したICTの活用
- ICTの活用の場面について
- 本書の内容を支える基本活用
- 生徒が考え,生徒とともにつくる授業に
- 第2章の構成
- 第2章 ICT活用を位置づけた中学校数学の授業モデル
- 式の展開と因数分解 全11時間
- 『窓の面積を求めよう』(第1時)
- 『様々な式の展開の共通点を見つけよう』(第4・5時)
- 『計算のきまりを説明しよう』(第10・11時)
- 平方根 全8時間
- 『√2について調べよう』(第2時)
- 『コピー機の秘密を調べよう』(第7・8時)
- 二次方程式 全11時間
- 『誕生日がいつになるか考えよう』(第1時)
- 『能率的に解こう』(第8時)
- 関数y=ax^2 全11時間
- 『y=ax^2の比例定数について調べよう』(第2時)
- 『ビー玉が転がる様子について分析しよう』(第5時)
- 『3階から地面までの高さを求めよう』(第9時)
- 相似な図形 全10時間
- 『内角の二等分線の性質を発見しよう』(第6時)
- 『外角の二等分線の性質を発見しよう』(第7時)
- 『時計の高さを求めよう』(第10時)
- 円の性質 全10時間
- 『円周角の定理の逆を証明しよう』(第3時)
- 『方べきの定理を証明しよう』(第5時)
- 『9点円を証明しよう』(第9時)
- 三平方の定理 全13時間
- 『ネットの長さを求めよう』(第12・13時)
- 標本調査 全7時間
- 『〇〇中の魅力について調査しよう』(第1時)
はじめに
GIGAスクール構想以降,各地で様々な試みが進んでいます。手ごたえとやりがいを感じている方もいらっしゃるでしょう。一方で,急激な変化に対応するのは難しいとお感じの方もいるでしょう。もっと変えていきたいのに,障壁が多いとお感じの方もいるでしょう。それは,これまでしておくべきだったのに対処してこなかったことが最大の原因であると私は感じます。しかしながら,これをきっかけにタブレットを文房具として使うことやクラウド上のシステムを使いこなすこと,あるいはネット上のリソースの活用などを前提に,学校での学びのあり方,学校外での学びのあり方,また,先生方の働き方など様々なことの変革の第一歩が,戻れない形で始まったと思います。それぞれ地に足がついた形での試行錯誤と相互理解を深めながら,10年くらいをかけて次世代にバトンタッチをしていくことになると思います。
本書では,愛知教育大学附属名古屋中学校数学科の「今」を,皆さまにも利用可能な形で,理論的に,またそれぞれの学年・単元ごとにまとめました。それは,たゆまぬ見直しと改変の繰り返しの成果でもあります。ICT活用を中心に,概観してみましょう。
1990年頃,在籍されていた先生方たちは授業のあり方と授業の核になる問題と配列を見直し,カリキュラムを再構成しました。その成果の一つは,玉置崇ほか『数学の授業を感動の連続に』(明治図書,1996)です。普通教室での授業が多いですが,ICT活用をしている授業では,コンピュータ室を使いました。
2000年になると,授業の基本は変えませんでしたが,ICT活用は,コンピュータ室から普通教室に変わりました。プロジェクタという大画面を共有すること,生徒の視線が集まること,黒板に投影したらチョークの書き込みが有効なことなど,いろいろなノウハウも見つけました。普通教室でコンピュータと同じようなグループに1台の学びを可能にしてくれたのは,ネットブックでした。安価な分,画面も小さいし性能も低いけど,コンピュータ室で取り組んでいたことが教室で可能で,しかもネットワークが使える魅力を実感したのでした。
大きな変革が2010年に訪れます。iPadの登場です。ネットブックでの実践があったので,スムーズにタブレットに移行できました。それと並行して,当時の先生方はそれまでの「個人追究」と「集団追究」という2つの軸に加えて「グループでの学び合い」を入れたいと提案し,OBの先生方と議論になりました。現役は実践で納得していただくよう努力しました。常時T字型に机を配置し,4人で話し合える体制をつくり,必要に応じて学び合いを生かす実践を積み重ねていく中で,OBからの異論も消えました。そして,このスタイルに4人に1台というタブレットは,とても親和性があることも実感しました。
そういう学びがスタンダードとして定着したとき,コロナ禍が訪れたのです。
3密禁止のため4人1組という学び合いができなくなりました。広域から生徒が集まる学校なので,オンライン授業をどうするかという問題もありました。大学附属の利点もありますが,それ以上に大きいのは数学科の4人の合意と協力を確立できれば,数学科としての改革をすぐに実行できる点です。実際,名古屋中学校の中でも数学科は特別で,オンライン授業も,Google Classroomも他教科に率先して取り組んできました。
このような経過を踏まえて到達した名古屋中学校数学科の「今」をまとめたのが本書です。多数のアイデアと実践をできるだけ多くの学校でも利用可能な形で記述してみました。でも,それをそのまま取り入れれば,必ずうまくいくとは限りません。いくつもの変化を繰り返し,その経緯を踏まえた現状でもありますし,今後もきっと変わっていくからです。タブレットをはじめとするICTは,いろいろなことに変化と影響があります。
例えば,1人1台端末導入以降,生徒のキーボード入力のスピードはとても速くなりました。ロイロノート・スクールの使い方も変化していきそうです。先生方,生徒たち,保護者や地域・行政の相互理解や協調が不可欠です。これまで,あまりに変わらなかった分,寄せては返す波のように,何度も改変を繰り返しながら前に進むしかないのです。特に,予算などの問題も避けることはできません。タブレットはそれだけではあまり有効ではなく,クラウド上のシステムや生徒用デジタル教科書が必要です。その経費を誰が負担すべきかなどの交渉も,前進のためには必要なこともあります。彼らがタフに戦ってきた様子も読み取ってください。そして,皆さんもタフに戦ってください。
本書の中で時々登場するGC(GC/html5)は,私が開発した動的幾何ソフト(作図ツール)です。開発から30年以上が経過しました。名古屋中をはじめとする全国の先生方に授業をしていただき,改善点を指摘していただき改良してきました。今のhtml5版はiPadの登場に合わせて2010年に大きく改版したものです。啓林館のデジタル教科書の各種コンテンツの中でも使われています。
私のサイト(省略)には,そのサンプルがあります。本格的に使いたい方は,オンライン保存(省略)をご覧ください。無料で自由に作図・保存し,使っていただくことができます。また,GCに関する理論的・実践的なことを,拙著『ICTで変わる数学的探究―次世代の学びを成功に導く7つの条件―』(明治図書,2021)にまとめておりますので,本書に合わせてご一読いただけますと幸いです。
愛知教育大学教授 /飯島 康之
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- 明治図書
- 単元ごとに取り扱うICTをどのタイミングで使うべきか、生徒にどのような力を身につけさせたいかがとても分かりやすかった。2024/3/1230代・中学校教員
- 具体的な内容が多くて良い2023/12/1550代・中学校管理職
- とても勉強になりました。2023/10/1930代・中学校教員