- プロローグ──水辺少年はどこへ消えたか──
- 第T章 ステップアップ 川を識る
- 1 オープンな総合学習材
- 2 川づくり新時代──参加と連携──
- (1) 大きく変わった河川法
- (2) 参加と連携を図る川のプロジェクト学習
- (3) 「天井川」を教えよう
- 第U章 川プロ学習パート1 中部地方・庄内川(土岐川)のケース
- 1 川に沿った3つの小学校教育連携
- 2 上・中・下流3校の実践
- (1) 多治見市立昭和小学校の河川プロジェクト学習─上流─
- (2) 名古屋市立志段味西小学校の河川プロジェクト学習─中流─
- (3) 名古屋市立長須賀小学校の河川プロジェクト学習─下流─
- (4) 河川認識を高める3校連携の概念
- 3 子どもの河川イメージ
- (1) 昭和小学校(上流)の子どもが描いた絵地図の内容
- (2) 志段味西小学校(中流)の子どもが描いた絵地図の内容
- 第V章 川プロ学習パート2 九州地方・白川のケース
- 1 阿蘇山の恵み,白川を使った総合「しらかわ」について
- (1) 教材は地域素材「白川」
- (2) 総合「しらかわ」の各学年の学習テーマ
- 2 総合「しらかわ」の実践(大津南小学校4年1組)
- 単元 白川研究室〜TV会議で白川上流の長陽小学校と交流しよう〜
- (1) 単元の指導計画
- (2) 白川を線で考える
- (3) テレビ会議で上流の小学校とつながる
- (4) 課題設定からプロジェクト学習へ
- (5) 白川調査大作戦
- (6) 調査したことをホームページにまとめる
- 3 第2回TV会議で報告
- 4 総合「しらかわ」プロジェクト学習の成果
- (1) 川のプロフェッショナルとして身につけた「資質や能力」
- (2) 問題解決のための資質や能力
- 第W章 川プロ学習パート3 東北地方・阿武隈川のケース
- 1 「川と子ども館」の参加プログラム
- (1) プロジェクトの舞台
- (2) 川遊びを通しての親子三代のコミュニケーション
- (3) おじいちゃん,おばあちゃんからの話を聞く
- 2 川遊び/あぶくま川とあだたら川
- (1) あぶくま川
- (2) あだたら川
- 3 遊びの体験
- 4 三世代・川遊びマップづくり
- 5 川遊びと環境学習
- (1) 子どもたちが学んだもの
- (2) 遊びと暮らしマップがもたらしたもの
- 第X章 川プロ学習の道具箱
- 1 川を理解する方法─測量・水質・地名・地図─
- 2 学習の場としての川─河原・博物館─
- 3 支援してくれる相手─行政・企業・NPO─
- エピローグ─河川環境学習から地球の水環境学習へ─
- (1) 「水辺の楽校」に見る河川学習
- (2) 地球の水環境学習
プロローグ
――水辺少年はどこへ消えたか――
子どもが川で遊ばなくなって久しい。ほんの30年前までは,水ガキや河童とも呼ばれ,全国いたるところで川遊びを楽しんでいたものである。学校にプールが備わり,川は一方で危険な場所というレッテルが貼られ,子どもたちが水辺から遠ざかってしまった。心理的に川から疎遠になれば,川の魅力をいくら説明されても理解できない。川の水はどこからやってきて,どこへ流れ下っていくのかさえも実感できないままでいる。日本の川は滝だとも言われるくらい短くて急流だが,その短い川さえも全体像がつかめないのだ。
ちょうど,20年ほど以前になるが,愛知県と長野県の県境にある津具村という小さな山村で子どもの遊び調査を実施したことがある。小さな盆地の中央を流れる小川では,子どもたちが実に細かな認識を示していた。ある4年生の男の子は,川の流れの速さ・遅さと,深さ・浅さに分けて,棲んでいる数種類の魚を見事に分類して認識していたし,淵にもぐってアユやニジマスをつかまえることもできていた。川遊びの好きな祖父からさまざまな知恵を教わったという。これも教育である。その村で同じ調査をその3年後に行った際には,もう1人も自然について詳しい子どもは見られなかった。昨年,20年ぶりに訪れた際には,子どもが川へ入ることさえも禁止されていた。河原においしげっているアシやヨシがささって危ないことと水質が悪化したことが原因らしい。過疎の村で美しい風景が眺められる村でさえこうである。
河川を活かした学習は,総合的な学習の時間(以下,総合学習と略記)が開始される平成14年度からぜひ復活したいものである。もちろん川についての知恵や知識だけでなく,豊かな川体験を基盤にしてのことである。川についてのプロ級の子どもを「川プロ」と本書では位置づけている。さらに,川のプロジェクト学習を略称して「川プロ」と呼ぶことにもしたい。「川プロ」にはこの2つの意味を持たせて,教育によって水辺少年を再生したいものである。
本書は,主に寺本の編著によるが,末尾に掲げた分担執筆者のお力で編集されたものでもある。熊本県の佐藤氏は,阿蘇山から流れ下る美しい白川という川にほれ込み,当地で精力的な川学習を展開してくれている若手の教員である。体育と情報教育が専門だが,川についての取り組みは人一倍エネルギッシュである。2人目の執筆者の内藤女史は,東京世田谷で三世代遊び場図鑑を作成した1人で,子どもの野外遊びや造形指導にかけてはプロである。研究所を立ち上げ,民間で子どものまち環境のあり方にさまざまな提言を寄せられている。直接,執筆には加わっていないが,河川に関する認識調査のデータを提供してくれた国島氏は,寺本研究室を一昨年度卒業した新進の教師である。名古屋市内の小学校に勤務している都会派でもある。
本書の内容で中心となった庄内川(土岐川)の教育実践については,国土交通省中部地方整備局庄内川工事事務所が平成13年3月に発行した『庄内川の実践を通して――川の学習ガイドブック』192ページによるところが大きい。この冊子は,私も加わっていた庄内川教育連携懇談会という組織が作成したものであり,下記の方々に大変お世話になった。記して感謝の意を表したい。
原田守博助教授(名城大学理工学部),磯村公夫校長(多治見市立昭和小学校),伊勢良宣校長(名古屋市立志段味西小学校),市江稔校長(名古屋市立長須賀小学校),小俣篤所長(国土交通省中部整備局庄内川工事事務所),江上和也氏(財団法人リバーフロント整備センター,当時)。
本書が全国の河川近くの小・中学校の先生方に読まれ,河川を取り入れた新しい総合学習の開始に一役を買うことになれば,望外の喜びである。出版にあたっては今回も樋口雅子さんに大変お世話になった。深く感謝したい。
平成14年2月 /寺本 潔
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- 明治図書