- プロローグ:エネルギーからはじまる総合学習
- 第T章 「見えないエネルギー」から「見えるエネルギー」へ
- 1 これからの“3E”を考える
- (1) エネルギー・資源・環境から世界を見る
- (2) “3E”のトレードオフ関係
- (3) “3E”の調和に向けて
- (4) 一人ひとりにできること
- 2 総合学習材としての環境とエネルギー
- (1) 自分と世界をつなぐテーマとしての「環境とエネルギー」
- (2) エネルギーと環境から見えてくる世界
- 3 つくる学習から働きかける学習まで
- (1) 学習の4ステップ
- (2) つくる学習の指導方法
- (3) 知る学習の指導方法
- (4) 調べる学習の指導方法
- (5) 働きかける学習の指導方法
- 第U章 エネルギー総合学習で育てる学力像
- 1 暮らしを見つめなおす総合学習
- (1) 地球市民として求められる資質
- (2) 開かれた学びをつくる
- (3) エネルギーや環境問題をリアルに総合的に探求する学びをつくる
- (4) 子どもたちが判断し,自他の権利を書き込む学びをつくる
- 2 地域環境から地球環境学習まで見据える力
- (1) 地域環境学習の効果
- (2) 地球環境学習まで見据える力
- 3 課題設定能力から自己評価まで
- (1) 活動や体験の深まりをどう評価するか
- (2) 相互評価の勧め
- (3) 他教科との合科的な指導を経て評価する場合
- 第V章 エネルギー総合学習の実践
- 1 小学校3年「ぼくらは節電チャレンジャー」
- (1) 主題設定の理由
- (2) 研究の仮説と手だて
- (3) 研究の方法(単元構想)
- (4) 実践と考察
- (5) 研究の成果と今後の課題
- 2 小学校5年「ゲームボーイから電気を考えよう!」
- (1) ゲームボーイを入り口としたエネルギー・環境学習のねらい
- (2) 学習の流れ
- (3) 学習の様子
- (4) 学習を終えて
- 3 小学校6年「電気となかよく暮らそう」
- (1) はじめに
- (2) 単元目標
- (3) 指導計画(35時間完了)
- (4) 実践報告
- (5) おわりに
- 4 小学校5年「JRセントラルタワーズに隠されたエネルギー効率のひみつ」
- (1) 名古屋の新しいシンボルでエネルギー・環境学習
- (2) 学習前の省エネルギーに関する子どもの実態
- (3) 学習の流れ
- (4) 学習の様子
- (5) 学習を終えて
- 5 中学校1年「つながりから環境を考えよう」
- (1) はじめに
- (2) 授業の流れ
- (3) 授業の様子
- (4) 授業を終えて
- 6 中学校1年「我が家の道具50年史」
- (1) はじめに
- (2) 単元について
- (3) 単元構成
- (4) 授業実践
- (5) おわりに
- 7 中学校2年「電気から日本のエネルギー問題を考えよう!」
- (1) はじめに
- (2) 実践の内容
- (3) おわりに
- 8 中学校3年「今池エコ宣言」
- (1) はじめに
- (2) 総合学習「環境」を学年教師集団としてどう取り組んだのか
- (3) 単元目標
- (4) 指導計画(15時間完了)
- (5) 授業の様子
- (6) 授業を終えて
- 第W章 エネルギー総合学習のための道具箱
- 1 簡単発電キット
- (1) 人力発電自転車(でんきの科学館所蔵)
- (2) 手回し発電機
- (3) 手づくり電池(果物電池・備長炭電池)
- 2 使える「エネルギー・環境パンフレット」
- (1) 人間の暮らし方とエネルギーの関わり
- (2) エネルギー・環境学習関連のパンフレット
- 3 行けば学べる科学館
- (1) 名古屋はじめての火力発電所
- (2) 現在の「でんきの科学館」
- (3) 総合学習へのアプローチ
- (4) エネルギー学習へのアプローチ
- (5) そのほかの科学館や博物館も探してみよう!
- 第X章 だれでも指導できる簡単電力学習指導術
- 1 電柱ウオッチング
- (1) 電気はどのように家庭まで運ばれてくるの?
- (2) 家の前の電柱をながめてみよう
- (3) 電柱に取り付けられている主な器具とその役割
- (4) 電柱がなくても電気は通る?
- 2 自販機ウォッチング
- 3 電気のもとは恐竜だ:化石燃料学習
- エピローグ
- <コラム>
- ・アジアのエネルギー事情と地球環境
- ・環境にやさしい暮らし方
- ・雷のひみつ
- ・電力王─福沢桃介─
- ・コンセントとプラグの秘密
- ・原子力発電の仕組み─原子力は小さな巨人?─
- ・現代と江戸時代の衣服の循環を比べてみよう
- ・畑でつくるエネルギー─デンマークの風力発電─
- ・ネットサーフィン
- ・風土に根ざした地方の電力事情
- ・食べ物とエネルギー投入量─アメリカの牛は4億人分の穀類を食い尽くす!?─
- ・電柱のカラスの巣
プロローグ
エネルギーからはじまる総合学習
本書は,エネルギーを題材にした「総合的な学習の時間」(以下,総合学習と略記)の具体的な取り組みを紹介する教育書である。エネルギーは地域の特性を反映した側面も有しながら,全国,あるいは地球全域にわたる問題を学べるユニークなテーマである。つまり,どこでもできる総合学習と言える。「どこでも」と述べた理由は,次のことを考えてみればわかりやすい。
現代のわたしたちの生活はエネルギー無くしては一時も成り立たない。毎日の生活を思い出せば,朝起きて,洗面台の明りをつけるときも,トイレに入って洗浄機能付きの便器を作動させるときも電気を使っている。
朝食を作る際にガスレンジで炒め物をこしらえたり,冷蔵庫から食材をとりだしたりする際にもたくさんのエネルギーの恩恵に浴しているのだ。職場である学校に通勤するときでも自家用車のエンジンを動かすきっかけはバッテリーで蓄えた電気がシリンダーで火花を起こしてくれるし,何といっても走りだすパワーをガソリンという化石燃料の燃焼によってまかなっている。 電車通勤の教師でも自分の乗っている重たい車両が動くには大きな電気エネルギーによっていることに気づくはずである。教室に入って授業する場合でも児童生徒たちの机や椅子といった工業製品が製作される場合や,ノートや鉛筆,チョークなどの備品さえも製造される場合に,それらの製品を作るために工作機械が使われているか,そしてそれを動かすのにどれだけの電気エネルギーの恩恵を受けているか計り知れない。
「もしも,電気が無かったら……」という設定で生活を想像してみると,こういったさまざまなエネルギーの恩恵がすぐに想像できるだろう。または,家庭で「これはエネルギーのおかげで動いているな,と考えたものを10個見つけて来なさい」という宿題を与えただけでも面白い発見学習ができるに違いない。
テレビ,冷蔵庫,電子レンジ,エアコン,オルガン,電話,パソコン,ストーブ,ソーラーシステム,自転車などといったように電気から太陽光,人力まで,すぐにいろいろなエネルギーの存在に気付くことができる。
こうした学習からエネルギー源の種類を学び始めることを開始し,次第に資源や環境にまで関心を広げたり,深めさせたりしたいものである。
この100年間に世界人口は3倍以上になり,60億人を突破している。100年間にエネルギー消費量はかつての10倍以上にもなっている。貧富の差は国によって急速に拡大しているのである。
しかし,どの国の人もみんなが便利で幸せな生活をしたいのである。先進国はかつて自分たちの国も歩んできた道を振り返りながら,発展途上国と手を携えてC02の排出に気をつけていく必要がある。
地球に住む子どもたちが暮らす1軒の家から地球環境までを視野に入れた社会的判断力を備えた資質・能力(エネルギー・リテラシー)を育成することがいま求められている。
本書を読んでいただき,そういったテーマの学習指導に全国の先生方が関心を持っていただければ幸いである。エネルギーに関する総合学習は教材開発の面でも指導方法の側面でも未だフロンティアである。本書の執筆者はその授業づくりのフロンティアに積極的に挑んでいただいた力量のある教師陣ばかりではあるが,もし不備な箇所があるとしたら,それは編者である筆者の責任である。どうかご容赦いただきたい。そして,本書で描いた教育実践を上回るような優れた実践を是非,読者の皆さんの工夫と努力でつくりあげていただきたいと願っている。
末尾ではあるが,本冊子の編集・発行については,中部電力広報部の方々には,大変お世話になった。記して感謝申し上げる次第である。
2002年4月 編者を代表して /寺本 潔
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- 明治図書