- 序章 中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
- 発刊に寄せて 武蔵村山市教育委員会教育長 /蛭田 正朝
- はじめに 武蔵村山市立第四小学校長 /福本 菊江
- T 国語力を高める音読・朗読・暗唱
- 一 国語力は萬学の基礎である(国語教育の体系化)
- 1 国語学力は学校教育の中心
- 2 生きて働く国語力とは
- 3 音読・朗読・暗唱は伝統的な学習法
- 4 音読・朗読とは
- 5 音読の効果
- 6 音読・朗読・暗唱で育つ言語行動力
- 7 音読指導による基礎・基本・統合発信力の獲得
- 二 音読・朗読・暗唱で生き生き授業づくり(指導法の組織化)
- 三 音読・朗読指導の学年系統表
- U 音読で「基礎的技能」が定着する授業づくり
- 一 定着させたい音読スキル
- 1 朗読を支える基本
- 2 表現する読み
- 二 授業展開と絶対評価(単一技能の定着)
- 【1年生】姿勢・口形・正しい発声・発音
- 【2年生】アクセント・強弱・間・速さ・大小―詩「きりなしうた」「とっきっき」他―
- 【3年生】はっきりした発音・濁音と鼻濁音・適切な音量や速さ―詩「夕日がせなかをおしてくる」―
- 【4年生】はっきりした発声と発音・適切な音量と速さ―詩「ともだち」「はやくちうた」―
- 【5年生】母音の無声化・アクセント・会話文・地の文・強調・間―「注文の多い料理店」―
- 【6年生】強弱・抑揚・高低イントネーション・強調・間―「三内丸山遺跡」―
- V 音読・朗読で「基本的能力」を高める授業づくり
- 一 絶対評価を押さえた授業展開(基本的能力を高める学習)
- 【1年生】大きな声で 楽しく読もう!―「おおきな かぶ」―
- 【2年生】人物の様子や気持ちを考えながら、思いを伝え合おう!―「かさこじぞう」―
- 【3年生】自然に親しみ、自然を愛する心を育てよう!―詩「山みちのうた」宮沢章二―
- 【4年生】感動を中心に組み立て直して音読しよう!―「ごんぎつね」―
- 【5年生】人物の気持ちや情景を思い浮かべて朗読発表をしよう!―「大造じいさんとガン」―
- 【6年生】太一の世界を読み味わおう!―「海の命」―
- W 音読・朗読・群読で「統合発信力」を獲得する授業づくり
- 【2年生】ブックトークをしよう!―物語文「お手紙」から発展して―
- 【6年生】心に響いた詩を選び、感動を伝えよう!―「転校した友に贈る詩集テープ作り」―
- X 学校・家庭・地域との連携で「言語行動力」を育てる授業づくり
- 一 目指す価値ある言語行動力
- 二 協力・協調力と自己表現力を駆使した言語行動〈生きる力に連動〉
- 1 あいさつ「おはよう運動週間」
- 2 親子読書
- 3 ことわざに親しむ指導
- 4 学校だより・詩の音読・暗唱賞
- あとがき 武蔵村山市立第四小学校教頭 /小川 隆志
音読・朗読は「基礎的技能・基本的能力・総合発信力」を確実に定着
序章 「音読・朗読・暗唱で 世紀を生きる」
――よき言語生活者を育てる――
中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
経済協力開発機構「OECD」国際学力調査によると、国語の学力が低下しているという結果が出された。特に読解力については調査参加国の中で六位である。 文章の内容を的確に読み取れないと、豊かな表現もできないものである。書かれてある内容を正しく読解するには、一字・一語・一文に注意しながら、一連の文章を声に出して読むことが前提条件である。つまり、音読を重視した指導を怠ってはならないということである。
最近の学校教育における重要課題は、「学力向上対策」である。学力は、国語力が完全に獲得されていないと向上しないということを再確認する必要がある。学力の低下は、わが国の衰退にもつながる。
「正しく美しい日本語は、音読・朗読・暗唱から」は、第一九次国語審議会の答申に盛り込まれた重要事項である。現時点において、文部科学省が提示している 「音読・朗読・暗唱で日本語教育を!」 も、さきの審議会の答申を継承したことになる。
伝統的で効果的な学習の方法を軽視したら、母国語の教育の進展を阻むことになり、ひいては国語力の低下を招き、その結果は学力不振、国力低迷となる。
「正しく美しい母国語で優れた日本人の育成〜よき言語生活者として生きる!」を日本再建の合言葉としたいものである。このあるべき姿が見えたとき、「世界の中の日本人として、母語を駆使・運用し、国際社会に伍していく国際人」を育てたことになる。
音読・朗読・暗唱の指導が大切であるといっても、声を出して読む活動を増やしたり、暗記させるだけでなく、その活動を通してどんな「国語力」が獲得されるかを明確にすることが実践者の課題である。
音読で「生きて働く国語力」を確実に定着させるためには、学習者の能力に応じた指導を意図的・計画的に行うことが前提条件である。また、国語科で何を指導するかも明確にする必要がある。国語科教育では、従来、指導すべき技能や能力についての考え方が多岐にわたっていたようである。「基礎・基本」か「基礎基本」かについてもいろいろな解釈がある。そこで、国語力を確実に定着させるために「言語の基礎的技能」と「言語の基本的能力」および、「言語の統合発信力」の機能を明らかにし、螺旋的に構造化する必要がある。さらに、低学年では「基礎的技能」を、中学年においては「基本的能力」を、そして高学年で「統合発信力」について、それぞれ重点的に指導するようにしたいものである。
これまでの音読指導では、音読の初歩段階での基盤・中核となる基礎的技能をはっきりと位置づけていなかった。また、各学年の発達段階の核となる基本的能力が明示されていなかった。それに、「基礎的技能と基本的能力」を応用・波及し、統合発信力として駆使・運用させるような意図的・計画的な音読・朗読・暗唱指導ではなかった。
新しい視点に立つ音読・朗読指導においては、基礎的技能の指導段階で、発声・発音・間・リズム・イントネーション・緩急・転調などについて、段階的に繰り返し学習を徹底する必要がある。
また、基本的能力の指導段階では、各ジャンルを代表する典型的な文章や作品を精選し、声を出して読む方法を徹底的に指導しなければならないのである。さらに、統合発信力の指導段階においては、音読・朗読・暗唱の知識・情報、あるいは朗読文化などについて広く深く学ぶのである。ここで獲得した統合発信力は「総合的な学習の時間」に駆使され波及・応用されるはずである。
例えば、基礎的技能の学習段階で修得された発声・発音スキルは、基本的能力の学習段階の詩や文学文・説明文等の理解・表現活動に生きて働くようにシステム化しなければならない。さらに、統合発信力の学習段階においては、基礎的技能や基本的能力で獲得した文学文・説明文の読み・会話・話し合い・インタビューなどの能力、およびこの活動を支えている、順序・要点・要約・段階・要旨・主題等の諸活動が駆使・運用され、価値のある情報発信・受信交流活動によって、人間関係力を獲得していくことが「真の生きて働く音読・朗読力」であり、波及・応用力に富む究極の国語力である。この統合発信力獲得の過程においては、朗読文化の追究・想像を目指すことが重要である。
このように、音読・朗読指導は、発声・発音・語彙の拡充などの「基礎学習」から、文・文章の読み書き能力、対話・話し合い・プレゼンテーション等の話す・聞く能力の習得の「基本学習」、さらには、文化の獲得創造に及ぶ、「統合学習」へと連動する幅広く奥深いものである。
従来の音読指導には、何のためにも、何を、いつ、どこで、どのように指導するか〜という秩序化・体系化がなかった。特に指導法においては、既習の技能・能力を次の学習過程に応用させるシステム化の研究が未開拓であった。つまり、「わかる→かわる→できる」「レベル1→レベル2→レベル3」「ホップ→ステップ→ジャンプ」といった、「生きて働く国語力」が獲得される段階的な「指導法の組織化」の研究が未開拓であった。
以上の視点に立って、新しい音読・朗読の学習法を開拓し、確かな国語学力をつける国語科教育の実践理論を確立したいのである。
本書『音読・朗読・暗唱で国語力を高める』は、次のような具体的事項を取り上げて、国語科の授業は勿論、総合的な学習の時間や学校の教育活動の充実・活性化に役立つように構成してある。
○ 音読・朗読・暗唱の教育的機能と、発達段階に応じた指導事項、並びに「基礎学習」「基本学習」「統合学習」の特徴と・効果と、その指導方法の具体例を紹介
○ 学年ごとに基本的能力を定着する「基礎学習」。基本的能力を習得する「基本学習」。統合発信力を獲得する「統合学習」について、教科書教材や開発教材(音読集・声を出せ!)等でいきいき授業を展開し、音読・朗読・暗唱の効果を実証
○ 音読・朗読・群読・暗唱活動を通して、一人一人の子供の国語学力が向上するように絶対評価を重視している。
しかも、評価規準を数量化した自己評価を導入した「子供が創る学習法」を創造
福本菊江先生は、教諭時代に研究主任として「授業研究を軸にした校内研究法」を確立した。また、校長時代には「校内研究を軸にした学校経営」を実現した。音読・朗読等の研究においては、学級担任・研究主任の体験過程で、実践的な研究の積み重ねを通して実践理論を確立した。その成果として、「音読・朗読・暗唱教材『声を出せ!』」<基礎コース・充実コース・発展コース/VTR/CD構成で全7巻>(朝日新聞社発行)の完成に協力した。
加えて、東京創造国語研究会会長・全国創造国語研究会副会長・全国小学校国語教育研究会副会長の立場にあって、豊かな人間性と奉仕・貢献の精神で一貫し、研究者を育て研究会の充実・発展に寄与している。
さらに、校内研修の集大成として二○○三年二月二四日に「全国国語科教育研究大会」を開催した。
研究テーマは「生きて働く『言語行動力』の育成〜音読・朗読・暗唱で国語力を高める〜」である。「基礎的技能・基本的能力・統合発信力」の螺旋的系統で、伝え合う力を定着するメインとしての言語行動である手紙文を中心に一二学級(全学級)で授業を公開した。まさに、「国語教育立国論」の理念追究と理論確率に連動する、価値ある研究大会を全国的規模で開催したのである。
二一世紀を拓く教育を実現するために、教師としての必須条件は、学級担任として、あるいは研究主任や教頭として研究を積み重ね、指導理論と技術を獲得し子供の幸せ実現に向かって努力することである。校長は自分の専門教科・領域で指導力を十分に発揮し、その成果を公開するような意気込みが必要である。
福本先生は、謙虚さと誠実さとをモットーに、教師として進むべき道を一歩一歩力強く実践してきた。
本書の発刊を契機に、これからも、この道一筋に歩み続けていくことを期待している。また、愛語として常に実践してこられた「子供を愛し研究に徹する」精神で、研究者育成の道を切り拓いていくことを切に望んでいる。
本書『音読・朗読・暗唱で国語力を高める』は、教師としての生きがい発見の書であり、日本語の美しさに共感・感動する書である。また、国語力を確実に獲得させる指導理論と技術を授業で実証できる教育必携の書でもある。
武蔵村山市は、新世紀を拓く教育の理念を高く掲げ、確たる構想を描いて、その実現に向かって多大な実績をあげている。本書の企画・出版や、全国国語科教育研究大会も、その一環としての価値ある事業と位置づけている。特に全国大会は、一九九○年に新しい国語科教育のあり方を方向づけ、全国大会を構想した武蔵村山市立第二小学校の校内研究の公開発表を継続・発展させたという歴史的経緯がある。「継続は力なり」の実証でもある。
教育長の蛭田正朝先生は、常に広い視野に立って、教育の動向を見極め、国語科教育についても深い研究と洞察力で進むべき方向を明示されている。武蔵村山市が、これからも教育立国論、並びに国語教育立国論の理念と構想に連動する事業を展開することと固く信じているものである。
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- 明治図書