- はじめに
- T 課題を持つための三つのスキル
- 1 課題は学習のエネルギー
- 2 課題を持つためのスキル
- 3 豊かな体験から課題が生まれる
- 4 課題を言葉にして学習を意識する
- 5 課題の持ち方を友だちから学ぶ
- 6 課題を共有して学習を広げる
- 7 マップ作りで自分の課題を分析する
- 8 課題の「なに(What)」と「なぜ(Why)」
- 9 「課題を言葉で表すスキル」を生かした実践──二年生・国語「ビーバーブック」──
- U 学習を計画するための四つのスキル
- 1 長い取り組みを支えるスキル
- 2 学習を計画するスキル
- 3 一回一回の学習を計画でつなげる
- 4 短期の計画で学習のペースを作る
- 5 長期的な計画を立てるスキルで時間の軸を作る
- 6 自分のペースに合わせて計画を見直す
- 7 「学習を計画するスキル」を生かした実践── 六年生・総合的な学習の時間「働く人」──
- V 発見を生む五つの調べ方スキル
- 1 発見を生む思いと技術
- 2 発見を生む調べ方スキル
- 3 五感を使って本物から学ぶ
- 4 発見を記録する
- 5 視点を絞って比較する
- 6 直接情報を集める
- 7 言葉にこだわって調べる
- W 書籍、インターネットの情報を生かす三つの調べ方スキル
- 1 二つの大きな情報源
- 2 情報を生かすスキル
- 3 学習に合った本を選ぶ
- 4 本から必要な情報を選ぶ
- 5 オリジナルの情報を作る
- 6 インターネットの情報を学習に生かす
- 7 インターネットの情報を検索するスキル
- 8 インターネットで探した資料の生かし方
- X 学習をまとめる四つのスキル
- 1 達成感を生むまとめ方
- 2 まとめで使うスキル
- 3 実験、工作型の自主学習のまとめ方
- 4 観察型の自主学習のまとめ方
- 5 調べ学習型のまとめ方
- 6 一冊の本に仕上げる
- Y 学びを伝える三つのスキル
- 1 伝えることで得られること
- 2 一人の相手に伝える「お店形式」
- 3 複数の友だちに伝える「ポスターセッション」
- 4 みんなに伝える「クラス発表」
- 5 中学校に向けた「代表発表」
- 6 「発表するスキル」を生かした実践――五年生・総合的な学習の時間「働く」
- Z 学びを評価する五つのスキル
- 1 評価することで成長を自覚する
- 2 学びを深める自己評価
- 3 互いを高める相互評価
- 4 親、教師からの評価を生かす
- 5 評価を生かし再び自分へ
- おわりに
はじめに
小学生のころ六年生のお兄さんが朝会で理科研究の表彰状を受け取る姿はとても輝いて見えた。
自分もお兄さんみたいになりたい。そんな不純な動機で六年生の夏休みに始めた微生物の研究。
田んぼの水、池の水、川の水とさまざまな水の中の微生物を探した。顕微鏡で初めてみるミジンコは子ども心にも感動した。調べたことを模造紙何枚にも書いた。自分にとっては初めての大研究だった。
「誉めてもらえるかな……?」
二学期の初めに理科の先生のところへ持っていった。先生は一言、
「これじゃ、だめだな」
「せっかくがんばって書いたのに……」先生は調べた内容はよいと誉めてくれた。ただ、研究の手順、書き方がよくない、といろいろアドバイスをしてくださった。
何度か模造紙を書き直しやっとOKをもらった時はうれしかった。
今思い出してみるとこの時初めて研究の仕方を教えてもらったのだ。
その後は、大学で卒論を書くまでこのような研究を書くこともなかったし、研究の仕方を教えてもらうこともなかった。
自分が先生になって、今度は子どもの夏休みの自由研究を見る側になった。
虫の大好きな子どもがクワガタを育てた観察記録を自由研究でしてきた。とてもすばらしい内容で大いに誉めた。
しかし、ふと考えた。この研究の仕方は私が教えたのだろうか……。
子どもに聞いてみたところ、やはりお父さんが親切に教えてくれたのだという。
当然といえば当然。私は研究の仕方を子どもたちに教えていなかった。
すばらしい研究をした子どもがいることをうれしく思う一方で、教師の自分がまったく関わっていないことを残念に感じた。
「自ら進んで取り組む子ども……」「自主的に……」毎年のように校内研究では子どもたちの主体的な学びを育成することを研究してきたが、本当に子どもたちに学ぶ力をつけてきたのだろうか。
今、勤務するお茶の水女子大学附属小学校には自主学習の時間がある。初めは、自由研究を一年間続けているのかな、と思った。他の小学校でもこのような学習は行われているのではないかと思って見ていたら少し違った。一年生から六年生まで毎週一時間から二時間、それを六年間続けていると聞いて少し驚いた。
毎日どこかの学年、どこかのクラスが教室や図書コーナーで静かに机に向かっている。子どもたちもこのような風景を自然に感じているようだった。
この時間、子どもにはとても評判がいい。何せ自分の好きな研究ができるのだから。
教師も誰もやめようとは言わない。子どもが一人で学ぶことを大事にしているし、この学習で身に付ける力が他の教科、総合的な学習の時間でちゃんと役立つことを知っているからだ。
附属だから、研究校だからという理由より、子どもも教師も自主学習で育つ力を大事にしているからつづけているというのが本音だろう。
自主学習を子どもたちと取り組む中でずいぶん苦労もした。
しかし、教科の時間では見られない、個々の子どもたちが少しずつ成長していく姿が見られた。自分でひたむきに学ぶ姿の美しさに感激したことは何度もある。大人があれこれとおせっかいを焼かなくても子どもはもともと自分で学ぶ力を持っているんだなと思うことも多かった。自分で調べる課題を決め、計画を立て、修正しながら、調べ、考え、発見し、成果をまとめ伝えていく。このように学習全体を構想し取り組む力が身に付くのだと感じた。
自主的に学ぶ子どもに育てたいという願いはすべての教師に共通するだろう。
自主学習はその願いに近づくことができる時間だ。また子どもたちの本当の学びとは何なのかを教師がもう一度振り返り考えることのできる時間である。
特別な準備がなくても始められる。教科の時間、総合的な時間の中で明日から取り組むことができる手軽さもある。始めてみると苦労も多いが発見も多いのが自主学習である。
本書は自主学習に取り組む中で、子どもたちや先輩の先生方から教えられた、子どもたちの学びに必要なスキル、またそれを育てる教師の指導をまとめたものである。
教科の時間、また総合的な学習の時間で子どもたちに自主的に学ぶスキルを身に付けさせたいと考えている先生方の参考になれば幸いである。
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- 明治図書