- はじめに
- 特別ではない,特別なニーズをもつ子どものためのサポート法
- 1 多くの情報から必要なものを取り出すことに困難を抱える子どもへのサポート
- たくさんのイラストがあると数えられない(1年)
- 指示されたイラストがどこかわからない(1年)
- 表から必要な情報を取り出し,整理することができない(3年)
- 2 作業することに困難を抱える子どもへのサポート
- イラストを○で囲むことができない(1年)
- おはじきやブロックを操作することができない(1年)
- 色を塗ることができない(1年)
- はさみをうまく使うことができない(2年)
- 定規をうまく使うことができない(2年)
- 紙をうまく折ることができない(2年)
- 直角に合わせることができない(2年)
- コンパスをうまく使うことができない(3年)
- はかりをうまく使うことができない(3年)
- そろばんをうまく使うことができない(3年)
- 分度器をうまく使うことができない(4年)
- 垂直や平行な直線をかくことができない(4年)
- 展開図をかいて立体をつくることができない(5年)
- 3 場面をイメージすることに困難を抱える子どもへのサポート
- お話づくりができない(1年)
- 単位のイメージをもつことができない(2年)
- 問題づくりができない(3年)
- □を使った立式ができない(3年)
- 言葉から場面をイメージすることができない(5年)
- 文字が入ると場面をイメージすることができない(6年)
- 点対称をイメージすることができない(6年)
- 比の場面をイメージすることができない(6年)
- 縮尺のイメージをつかむことができない(6年)
- 比例の場面のイメージをつかむことができない(6年)
- 反比例の場面のイメージをつかむことができない(6年)
- 4 かくことに困難を抱える子どもへのサポート
- 位をそろえて書くことができない①(2年)
- 位をそろえて書くことができない②(4年)
- 展開図をかくことができない(4年)
- 見取図をかくことができない(4年)
- 形を変えて拡大図や縮図をかいてしまう(6年)
- 5 記憶に困難を抱える子どもへのサポート
- かけ算九九を覚えられない(2年)
- いったん覚えたことを思い出すことができない①(3年)
- いったん覚えたことを思い出すことができない②(5年)
- 「速さ・道のり・時間」の関係式を覚えることができない(6年)
- 単位の関係を思い出すことができない(6年)
- 6 2つのものを区別することに困難を抱える子どもへのサポート
- 似た形状の数を比較することができない(2年)
- 時間と時刻を区別することができない(3年)
- 道のりと距離を区別することができない(3年)
- 7 複数の情報を扱うことに困難を抱える子どもへのサポート
- 複数の考え方を同時に扱うことができない(3年)
- 複数の既習の方法を使うことができない(5年)
- 問題文の情報を使って数直線をつくることができない(5年)
- 複数の図形が組み合わされた問題を解くことができない(6年)
- 8 1つに集中すると他を忘れてしまう子どもへのサポート
- 小数点を打つことを忘れてしまう(3年)
- 約分を忘れてしてしまう(5年)
- 9 計算することに困難を抱える子どもへのサポート
- 2けた×2けたの計算ができない(3年)
- わり算の筆算ができない①(4年)
- わり算の筆算ができない②(4年)
- ( )のついた計算ができない(4年)
- 四捨五入ができない(4年)
- 通分ができない(5年)
- 10 情報の読み取りに困難を抱える子どもへのサポート
- グラフの読み取りができない(3年)
- 桁数の多い数の読み取りができない(4年)
- 数直線の読み取りができない(4年)
はじめに
教師駆け出し時代に,こんな子どもとの出会いがありました。
空間認知に困難を抱えると診断されていた,A子さん(仮名)との出会いです。前担任からの引き継ぎでは,次のようなことを言われました。
「A子さんは,板書の1行が2行にも3行にも見えるそうです。だから,黒板の字をノートに書くのは極めて難しいです」
A子さんとのはじめての算数授業。
他の子は次々に板書を写していきます。A子さんも一生懸命に書いていますが,字の大きさは3㎝大で,字と字の間も2㎝以上離れています。
「向山型算数」に出会ったばかりの私は,赤鉛筆指導を行いました。A子さんのノートに赤鉛筆で薄く字を書いたのです。
そして,小さな声でA子さんに言いました。
「なぞってごらん」
このような指導を1か月続けましたが,A子さんはうまく書けるようにはなりませんでした。
「どうして書けるようにならないんだろう。赤鉛筆を使ってるのに…」
2か月が過ぎました。私は相変わらずA子さんのノートに赤鉛筆で薄く字を書くだけの指導を続けていました。A子さんは,黙って純真無垢にそれをなぞり続けていました。でも,私が赤鉛筆で書いた部分以外は,以前と変わらない字でした。
ちょうどそのころ,向山洋一氏の「赤えんぴつ,赤ペン指導には原則がある」という論文(『教室ツーウェイ』2003年2月号)をもう一度よく読んでみました。すると,私の赤鉛筆指導は,形を真似ていただけで,まったく指導の原則を踏まえていなかったことに気付きました。
次の授業から,指導の仕方を変えました。
まず,「なぞってごらん」と毎回言うことをやめました。やめた当初,A子さんは戸惑う姿を見せましたが,すぐに自分でなぞれるようになりました。
また,わり算の学習のとき,
24÷3=□
↑
3×8=24
ここまでを赤鉛筆で薄く書き,□の中は書かずに大きな声で言いました。
「ここは自分でやってごらん」
大きくうなずくA子さん。
しばらくして,私のところにノートを持って来ました。
私の書いた赤鉛筆の跡がまったく見えません。そして,□の中にはきれいな字で「8」と書いてありました。
「すごい!ここは自分一人でやったんだなぁ!!」
と教室に響き渡るような大きな声で言って,花まるを書いてあげました。
「やったぁ!!」
と,とび上がって喜ぶA子さんの姿が今も頭から離れません。
読者の先生方の中にも,A子さんのような子どもを担任し,授業を通して少しでも算数の力を付けたいと日々悪戦苦闘している方が大勢いらっしゃると思います。そこで本書では,私が学んできた向山型算数の指導法をベースに,通常学級の算数授業で試していただきたい特別なニーズをもつ子どもへのサポートの仕方を紹介しました。
本書を出版するにあたって,向山型算数の提唱者である向山洋一氏に感謝申し上げます。また,多大なご助言,多くの励ましの言葉をいただいた明治図書の矢口氏にもお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
2014年2月 /赤塚 邦彦
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- 明治図書
- 算数の指導方法の探す中で、それぞれの困難を持つ子どもに合わせた支援のヒントを入手できる。便利な本。2024/2/1840代・小学校教員