- はしがき
- 第T章 狙われる学校と児童・生徒
- ―学校内外における凶悪事件発生件数とその特徴―
- 第1節 平成13年〜16年に全国の学校内で起きた凶悪事件数
- 第2節 年度別の主な学校への「不審者」侵入事件
- 第3節 通学路での女児誘拐,殺害事件
- 第4節 学校内外における「いじめ」の実態
- 第U章 文部科学省作成の「危機管理マニュアル」の問題点と課題
- 第1節 曖昧な「不審者」の概念
- 第2節 文科省の「不審者侵入時の危機管理マニュアル」に沿って対応した教員が殺害される
- 第3節 間違いだらけの文科省の「不審者への緊急対応マニュアル」
- ―実効性のある対応マニュアルとは―
- 第一項 再検討が求められる「緊急対応マニュアル」の内容
- 第二項 実効性のある対応マニュアルとは
- 第4節 マニュアルの「チェックポイント」の不備
- 第5節 遅れている学校独自の「危機管理マニュアル」の作成
- ―文科省による「学校の安全管理」状況調査から―
- 第一項 防犯マニュアル
- 第二項 防犯訓練
- 第三項 安全点検
- 第6節 「学校安全対策」の再点検
- ―文科省プロジェクトチームが提言―
- 第一項 各学校の安全対策の再点検
- 第二項 学校への不審者の侵入に備えた取り組み
- 第三項 学校,家庭,地域が連携した安全・安心な学校づくり
- 第四項 「地域に開かれた学校づくり」と「学校安全」
- 第7節 来校者に対する応対方法
- 第8節 学校の危機管理対策の基本
- ―不審者の侵入を未然に防ぐ危機対策が急務―
- 第V章 平和ボケ学校の危機管理対策の問題点と提言
- 第1節 お粗末な子どもの安全対策
- 第一項 「いかのおすし」で子どもを守れるか
- 第二項 子どもの登下校時の通学路での安全対策
- 第2節 「さすまた」で「不審者」を撃退できるか
- 第3節 教職員による「防犯教室」での安全指導の方法
- 第4節 「防犯ブザー」や「PHS緊急通報装置」で犯罪を回避できるか
- 第5節 子どもの「安全ビジネス」の効果
- 第6節 子どもを守るために「安全」をお金で買う時代
- ―PTA独自に警備員を雇って対応―
- 第7節 子どもを守るためのコスト(費用)とベネフィット(便益)
- 第W章 子どもを守るための学校における安全対策
- ―子どもたちに危機意識を身に付けさせることが急務―
- 第1節 「危機」と「危機意識」について
- 第一項 「危機」とは何か
- 第二項 個人の性格による危機意識の違い
- 第三項 日本人の「危機意識」欠如の社会的(環境)及び文化的背景
- 第四項 日本人はなぜ「安全神話」を信じるのか
- 第2節 子どもに「危機意識」を身に付けさせる方法
- 第一項 日本人と欧米人の「危機意識」の違い
- 第二項 凄惨な映像や写真報道のあり方 ―日本人の伝統的な死生観が障害に―
- 第三項 日本人の弱い性格が「PTSD」にかかりやすい ―「危機意識」に関する日・欧米比較―
- 第四項 「危機意識」を身に付けさせるための教育方法 ―実験教育の事例―
- 第X章 子どもを守るための学校の危機管理
- 第1節 学校の危機管理と影響管理
- 第2節 校内で子どもを巻き込んだ凶悪事件が発生した場合の対処法
- 第3節 誘拐・拉致犯罪から子どもを守るためのチェックリスト
- 第Y章 学校における「不法侵入者」対策
- 第1節 犯罪者の学校への不法侵入防止策
- ―ハード面の対策を中心に―
- 第一項 学校の安全・開放,両立は困難 ―地域住民への学校開放は敷地を仕切るか,休日に限らせる―
- 第二項 不法侵入防止策
- 第2節 学校のセキュリティ・システム
- 第3節 学校の危機広報
- ―学校の危機とマスコミ対応―
- 第一項 危機発生中のマスコミ対応
- 第二項 学校の具体的なマスコミ対応の要点
- 第三項 危機広報の基本姿勢
- 第4節 学校における危機事態対応に当たるリーダーの基本的心構え
- ―平時における準備が第一―
- 第Z章 学内で突発的な凶悪犯罪が起きた場合,教職員は対応できるか
- ―茨城県内の小学校教員を対象にした「学校の危機管理対策」に関するアンケート調査結果から―
- 第1節 教職員の危機意識について
- 第2節 「最悪の事態に備える」
- 第3節 教職員の自然観及び災害観
- 第4節 自分の身を守る「自己防衛」
- 第5節 凄惨な現場写真のマスコミ報道
- 第6節 「安全神話」について
- 第7節 教職員の性格について
- 第8節 「不審者」が学内に侵入したら,子どもたちを守れるか
- 第9節 「不法侵入者」を取り押さえるのに「」は役に立つのか
- 第10節 「不審者」に子どもたちが刃物で襲われてけがをした際の応急処置
- 第11節 応急手当法「RICE」
- 第12節 「心的外傷後ストレス(PTSD)」について
- 第13節 子どもたちの身を守るための防犯グッズについて
- 第14節 子どもたちを忍耐強く育てるためには
- 第15節 子どもたちに「危機意識」を身に付けさせる方法
- 第16節 子どもたちの登下校時の安全確保の責任は父兄にあるか,学校にあるか
- 第17節 学校の危機管理問題に対する教職員の意見
- 第[章 小学校における安全教育指導の現状と課題
- ─関西地方の小学校の事例研究から―
- 第1節 学校の概要及び安全対策の特徴
- 第2節 子どもたちへの安全教育
- ─生命の大切さを学ぶ――安全教育指導案─
- 第一項 安全指導の概要
- 第二項 安全教育指導の題材について
- 第三項 安全に関する学習指導内容
- 第四項 安全指導の内容に対する著者の講評
- 第\章 学校における暴力問題に関する課題
- 第1節 「児童・生徒の心の変化」は家庭教育の低下が原因
- ―全日本校長会のアンケート調査結果から―
- 第一項 家族関係
- 第二項 生徒の心の変化
- 第2節 子どもたちに特に悪い影響を与えている要因
- 第3節 ヨーロッパ諸国の学校における暴力問題と対応
- ―フランスの事例―
- 第一項 校内暴力への対応策
- 第二項 ITの活用とフランスでの校内暴力の実態
- 第三項 親(保護者)の権利と責任 ―子どもの犯罪に対する親の法的責任―
- 参考文献
はしがき
近年,大阪教育大付属池田小学校児童殺傷事件,2人の児童が刃物で切られた京都府宇治市の市立宇治小学校など,学校で児童が襲われる事件が相次いでいる。そのたびに,学校の安全をどう守るかが問われてきた。
文部科学省は,池田小学校事件後の平成14年2月,学校に不審者が入り込んだときの「不審者侵入時の危機管理マニュアル」を作成し,全国の幼稚園から高校までのすべてに配布した。このマニュアルに基づいて,地元の教育委員会と学校が地域の実情に合わせて知恵を絞るようになった。ところが,2005年2月に大阪寝屋川市立中央小学校で卒業生の少年(17歳)に教職員3人が殺傷された事件で,殺害された男子教員が,文科省の作成した上記の「対応マニュアル」に沿って,(隔離・通報するため)2階の職員室に案内しようとして,少年に背後から刺されたのである。明らかに「対応マニュアル」に欠陥があったためであり,文科省は,この教職員殺傷事件を受けて,従来の危機管理マニュアルの見直しを余儀なくされている。
学校の施設は「明るく開かれた」学校をイメージしているため,外部からの侵入者に対して,防御するような設計がされていない。また,プール,体育館,視聴覚施設などの教育施設は整備されているが,子どもたちを守る施設整備は後手に回っているのが現状である。学校環境とは教育設備の充実を図るとともに,学校の安全性を確保することである。もし,学校での安全面が確保されていないのであれば,そこには多くの危機発生の要素が存在する。そして,何か事件が起きてから学校環境を改善しようとする,安全管理に基点を置くことのできない特徴がある。それは学校内の治安維持や学校生活の安全性を学校の目玉にするより,進学率,教育的設備の充実,カリキュラムの先進性を売り物にしたほうが,保護者や生徒の目を集めやすいという現実があるといえる。しかし,危機管理の視点から,学校の安全性が確保されないことで,児童・生徒が危機に直面してしまうと考えれば,教育環境に関する目の付けどころも変わっていくのではなかろうか。
一方,登下校時に女子児童が誘拐・拉致される事件が頻発している。そのため全国の幼稚園,小・中学校では,児童・生徒に対して避難訓練や誘拐から身を守るための「防犯教室」が開かれている。その主な内容は,子どもたちが登下校時に危険に遭わないように「行かない」「乗らない」「大声を出す」「すぐ逃げる」「知らせる」という5つの防犯対策の指導である。この5つの頭文字をつなげた合言葉《いかのおすし》を子どもたちに暗記させて,上記の5つの行動目標について説明している。
また,児童・生徒が襲われた場合には,「手荷物や傘を振り回して自分の身を守る」ことや「不審者の手に噛み付く」などの護身術を教えている。これらの防御策は確かに「自己防衛」のテクニックとして,万一襲われた時に役に立つ場合もある。しかし,場所によっては危険を感じて大声で助けを求めても近くに誰もいなければ助けてもらえないし(一般的に誘拐者は人気のない場所で待ち伏せして襲うのである),また護身術は体力に勝る大人に通用するはずがない。したがって,こうした対症療法的な防御策を教えるよりも,まず,児童・生徒(特に女子)に対し,不審者に襲われたら「怖いことである」という「危機感」を持たせることが何よりも大事なことである。そして自分自身で襲われるような環境(1人歩き・遊び,1人での登下校など)を絶対につくらないように習慣づけさせることである。つまり,万事「他人を見たら泥棒と思え」の不信感丸出しでなく「ひょっとしたら」というように(この考え方を)うまく取り入れさせることである。児童・生徒一人ひとりに「予想もしない出来事が起きる可能性があり,常に頭のどこかにそれを意識(自己防衛意識)させる」という危機管理発想が必要なのである。
児童・生徒に「危機意識」を身に付けさせるための具体的な方策としては,実際に危機に遭ったり,見たりしなくても,それに備えることを繰り返していれば,自然に「危機意識」は身に付くのである。例えば,自宅や学校の玄関口や窓に鍵をかけるという行為を毎日何回かすることによって,強盗に入られる可能性があるということを自分の頭の中にインプットした状態に置いておくことができる。
いずれにせよ,これからの学校の防犯・防災対策は,児童・生徒への徹底した安全教育の指導および教職員に対する危機管理能力の向上,そして,学校施設への不審者の侵入対策避難経路,監視・通報システムなど,ソフト・ハード両面による効果的な安全対策が必要となる。
本書では,現在,全国の幼稚園から高校まですべての学校が使用している文部科学省が作成した「不審者侵入時の危機管理マニュアル」で改善すべき箇所の説明と実効性のある対応マニュアルの紹介,“よいこのお約束――合言葉は《いかのおすし》”などの安全指導の問題点について解説する。そのうえで,子どもたちに危機意識を身に付けさせるための方策,学校における不審者対策について具体的に解説する。また,学校現場で不測事態が起きた場合の戦略的な対応法,さらに,「学内で突発的な凶悪犯罪が起きた場合,教職員は対応できるか」について小学校教職員200人を対象に実施したアンケート調査結果の報告および関西地方の小学校における子どもたちを守るための「安全教育指導」の事例を紹介する。
本書の上梓にあたり,アンケート調査の集計を手伝ってくれた日本大学国際関係学部大泉研究室の及川裕司君に一方ならぬお世話になった,ここに記して感謝の意を表したい。
最後に,本書の刊行ならびに校正その他の諸事万端については,明治図書出版編集長樋口雅子氏の懇篤なる御援助をいただいたことに深く感謝したい。
平成17年8月 日本大学教授 /大泉 光一
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