- ま え が き
- 1章 働くことと自立
- 1 障害児教育が目指すもの
- ■ 親の本心
- ■ 可能性を引き出す
- ■ 家族の幸せが最終目標
- 2 自立の考え方
- ■ 自立的支援が必要である
- ■ 子どもは自立の力を持っている
- 3 働くことがなぜ必要か
- ■ 人間の基本的欲求
- ■ 卒業後の生活
- 4 就労者と未就労者の違い
- ■ 生活意欲の差
- ■ 情緒の安定度の差
- 5 就労に必要な力
- ■ 労働省の調査
- ■ 筆者による調査
- ■ 調査結果の検討
- ■ 基本的生活習慣の指導
- ■ 基本的相互交渉のスキル
- ■ 認知的日常生活のスキル
- ■ 職業生活のスキル
- ■ 認知的対人行動
- ■ 身体的スキル
- ■ その他
- 2章 働くことの指導目標
- 1 自主的,主体的に行動できる
- ■ 二人の事例
- ■ 主体的行動を引き出す
- 2 働くことに喜びを感じる
- ■ 働く喜びを引き出すには
- ■ N君の事例
- 3 余暇を楽しむことができる
- ■ 子ども主体の余暇の利用が大切
- ■ Aさんの事例
- ■ B君の事例
- ■ Y君の事例
- 4 人と交流ができる
- ■ D君の事例
- ■ O君の事例
- 5 自己選択,自己決定できる
- ■ Kさんの事例
- 3章 働くことの指導の基本
- 1 生活を重視する
- 2 技能よりも働く意識を育てる
- 3 訓練はあまり必要ない
- 4 援助の仕方が重要である
- ■ ある作業学習の授業
- ■ 現場実習での事例
- ■ 一人でできる状況作りが大切である
- 5 可能性に期待する
- ■ A君の事例
- ■ B君の事例
- 6 プライドを充足する
- ■ C君の事例
- ■ E君の事例
- 7 教師の姿勢が重要である
- ■ 子どものことを第一に考える
- ■ 親と連携できる
- ■ 真剣さが重要である
- 8 働く生活を重視する
- ■ N君の事例
- 9 実社会に通用しなければ意味がない
- 10 一般就労を目指した取り組みをする
- ■ 筆者による指導事例
- 〔指導の実際〕/ 第1回現場実習/ 第1回アルバイト/ 第2回現場実習/ 高等部3年生時の指導/ 第3回現場実習/ 第2回アルバイト/ 第4回現場実習/ 第5回現場実習/ 第3回アルバイト/ 第6回現場実習
- 4章 働くことの指導の実際
- 1 小学部段階での指導
- ■ 人に役立つ活動をする
- ■ 中途半端なことはさせない
- ■ 共同作業を取り入れる
- ■ 家庭生活を重視する
- 2 中学部段階での指導
- ■ 生産的活動を重視する
- ■ 物を作ることの喜びを知る
- ■ 自立的な活動を重視する
- 3 高等部段階での指導
- ■ 実社会に出ることを想定した指導を行う
- ■ 働くことの意味を分からせる
- ■ 人間関係を大切にする
- ■ 働くことを中心とした生活作りをする
- 4 作業学習
- ■ 労働性の高い作業学習を
- ■ 目標の持てる作業学習を
- ■ 子どもができる作業学習を
- ■ 子どもが見通しの持てる作業学習を
- 5 現場実習
- ■ 現場実習はなぜ必要か
- ■ 現場実習と作業学習の違い
- ■ 現場実習の指導のポイント
- 6 進路指導
- ■ 進路指導の基本
- ■ 進路指導の実際
- 5章 就労事例
- 1 鉄工所で働くT君の事例
- T君の実態/ 進路指導/ 就職の実現
- 2 ホテルで働くKさんの事例
- Kさんの実態/ 就職までの道のり/ 教えられたこと
- 3 豆腐製造会社で働くY君の事例
- Y君の実態/ 就労状況/ 進路指導/ 生活状況
- 4 病院で働くNさんの事例
- Nさんの実態/ 就労状況/ 高等部での実態/ 進路指導
- 5 リネン会社で働くO君の事例
- O君の実態/ 高等部入学時の実態/ 現場実習/ 就労状況
- 6 縫製会社で働くS君の事例
- S君の実態/ 進路指導/ 就労状況
- 7 クリーニング会社で働くI君の事例
- I君の実態/ 進路指導/ 就労状況/ 転職
- 8 リネン会社で働くS君の事例
- S君の実態/ 就労状況/ 進路指導/ 就労当初
- 9 クリーニング会社で働いていたM君の事例
- M君の実態/ 進路指導/ 就労後の状況
- 10 冷凍食品会社で働くTさんの事例
- Tさんの実態/ 就労状況/ 進路指導/ 就労後
- 11 護岸ブロック会社で働くY君の事例
- Y君の実態/ 就労状況/ 高等部での実態/ 指導の実際/ 進路指導/ 15年間で進歩したこと
- 6章 就労を目指すための学校教育への提言
- 1 現場での指導を重視する
- 2 職場側の要求を的確に把握する
- 3 支援体制を確立する
- 4 職場,親,教師が連携する
- 5 余暇を充実させる
- 6 家庭指導を重視する
- あ と が き
まえがき
私は「職場で働き,地域で生活することは,人間としての当たり前の権利であり,何よりも,この子ども達が最も望んでいることである」と信じています。教育というのは,人間として生きる当たり前の権利を保障し,子どもの願いに応える営みです。能力が高い,低い,障害が軽い,重いは関係ありません。人間として見ればみんな同じです。人間として生まれた以上は,人間としての生活を,しかもよりよい生活を求め続けていくのは当然のことです。
ところが,最近の教育を見ていると,障害児を障害児としてしかみない教育が堂々と行われているような気がします。よく,教師から「障害児だから施設で生活すればよい」「障害児だから障害児仲間と暮らせばよい」「重度だから就職は無理だ」などという発言を聞くことがあります。障害児と我々の幸せは別だとする,こうした教師のもとで教育を受ける子ども達に,本当の幸せが訪れるでしょうか。訪れるとは思えません。こういう教師には障害児教育に携わって欲しくない,と思うのは私だけでしょうか。障害児教育の教師は子どもを一人の人間として認め,人間としての生き方を求め続ける教師であって欲しいのです。
本書は,人間が人間として生きていくために最も重要な働くことの指導に焦点をあて整理してみました。働くことの指導というと,あまりよい印象を持たない人もいますが,私は,働くことの指導ほど重要で,子どもを伸ばす,生かす指導はないと思っています。このことは本書でも事例をあげ,繰り返し述べましたが,働くことの指導を通して,成長,自立した子どもが実にたくさんいるのです。
私は,これまで実社会にたくさんの子どもを送り出してきました。私の実践体験から考えると,教師が子どもの将来を見据え,真剣に,働くことの指導に取り組むならば,どんな重度な子どもでも,就労は可能であるし,自立も間違いなくできる,と断言できます。本書を通して,そのことが少しでも,ご理解いただけ,働くことの指導の重要性を認識いただければ幸いです。
是非,一人でも多くの子ども達が,人並みに近い生活ができるようになることを目指した取り組みを行って欲しいと思います。
本書は「就労自立を果たす指導法」の3部作の最終作としてまとめました。1部,2部,3部をあわせてお読みいただき,就労自立へ向けた指導を,一貫的に行い成果をあげてほしいと願っています。
1998年3月 著 者
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- 明治図書