- はじめに
- 第1章 アクティブ・ラーニングが登場してきた背景
- 1 今日の教育課題
- 2 学校の学びを振り返る
- 第2章 アクティブ・ラーニングという「学び」が必要となる理由
- 1 将来の社会で役立つ学びとは
- 2 我が国で検討されている初等中等教育で育む資質・能力とは
- 3 なぜアクティブ・ラーニングが必要とされるのか
- 4 学校教育におけるアクティブ・ラーニングの位置付け
- 第3章 アクティブ・ラーニングの充実―「見方・考え方」を働かせる―
- 1 アクティブ・ラーニングの課題とその対応
- 2 「見方・考え方」の活用
- 第4章 アクティブ・ラーニングを実現する教師の授業づくりと学習環境
- 1 アクティブ・ラーニングを実現する教師の資質・能力
- 2 アクティブ・ラーニングを含む授業デザイン・単元デザイン
- 3 アクティブ・ラーニングをもたらす教材開発
- 4 アクティブ・ラーニングをもたらす「問い」と教師の知識観
- 5 アクティブ・ラーニングと学習環境
- 第5章 各教科等におけるアクティブ・ラーニングの姿
- 1 言語系教科
- 2 社会系教科
- 3 自然系教科
- 4 芸術系教科
- 5 総合系
- 第6章 アクティブ・ラーニングと学習評価
- 1 学習評価の考え方について
- 2 資質・能力目標と「観点別学習状況の評価」の観点
- 3 「観点別学習状況の評価」の見取りにあたって
- 4 評価方法の工夫
- 5 教育活動全体とアクティブ・ラーニング及び学習評価
- 第7章 諸外国のアクティブ・ラーニング
- 1 アメリカ
- 2 イギリス
- 3 ドイツ
- おわりに
はじめに
アクティブ・ラーニングは近年教育界で最も注目された用語と言えよう。それはこの用語に活動的,積極的というイメージがあり,実現すれば何かすべてのことがうまくゆきそうだという期待を持たせるからだろう。しかし,「アクティブ・ラーニングとは何か?」と問われると,「これがそうだ!」と誰も明快に答えることができない。だからどのような授業になるのかについては様々な言説が飛び交うことになる。
このような混乱を少なからず生じさせたのは,アクティブ・ラーニングが児童生徒の主体的・協働的な「学び」の「総称」であるがゆえに,幾つもの「学び」の姿があり,特定のものをもってこれがアクティブ・ラーニングだと断定できないからだ。
本書はこのような混乱を整理するとともに,アクティブ・ラーニングの意義を再確認し授業の中でどのように実現すればよいか,その道筋を明らかにしようとするものである。この目的に沿って,本書は以下のような構成をとっている。
第1章では,アクティブ・ラーニングが求められるようになった背景を今日の学校教育が抱える課題(学んだことが社会生活で役立たないという問題や,要素還元主義に立つ近代の学校カリキュラムの問題)から読み解く。そして,その「解」を花巻農学校の教師であった宮沢賢治の授業をもとに考察する。
第2章では,アクティブ・ラーニングが必要とされる理由を次の2点から解き明かす。まず1つは,不透明な将来の社会や人工知能の発達で仕事が奪われるといったこれからの社会の有り様を見据え,世界的な教育改革の流れの中で資質・能力の育成が求められていることから明らかにする。そして,もう1つは,資質・能力はそれを働かせる学習場面が設けられていなければ育たないということから明らかにする。
第3章では,今日,アクティブ・ラーニングが展開される中で,「活動あって学びなし」といった批判が現れてきたことなど,いくつかの懸念が生まれたことを指摘する。そして,アクティブ・ラーニングを方向付ける視点として「主体的・対話的で深い学び」が示されるとともに,より一層の充実のために「見方・考え方」という処方箋が提起されたこと及びその授業イメージ(社会科)を示す。
第4章では,「主体的・対話的で深い学び」となるアクティブ・ラーニングを実現するには教師の力量が必要であることを指摘する。そして,教師が授業を実施するまでのプロセスを整理し,教師として必要な資質・能力について,教員養成,採用試験の内容,授業デザイン・単元デザインや教材開発,教師の知識観など多様な観点から明らかにする。
第5章では,「次期学習指導要領に向けたこれまでの審議のまとめ(素案)」など中央教育審議会で配付された資料を基に,各教科等でどのようなアクティブ・ラーニングが実現されようとしているのか,「言語系」「社会系」「自然系」「芸術系」「総合系」を取り上げて,その学習イメージを具体的に示す。
第6章では,目標準拠評価の考え方を再確認しながらアクティブ・ラーニングと学習評価(観点別学習状況の評価)との関係について述べる。また,アクティブ・ラーニングが児童生徒の資質・能力を育成するための「学び」であることを踏まえ,学習評価にあたってどのような見取りをすればよいのかその方法などについて言及する。
第7章では,我が国より一足早く資質・能力の育成を図るためにコンピテンシーベースのカリキュラム改革を行い,児童生徒の主体的・協働的な「学び」をもたらす指導をしているアメリカ,イギリス,ドイツの授業例を紹介する。なお,紹介する事例は筆者が実際に訪問し参観した学校の授業であるため,その国の一般的なものというわけではない。
最後に,本書では次のような図(モデル)を数多く挿入しているので,ここでその理由について述べておきたい。
図(省略)
それは,図(モデル)も理論(概念的知識)の一つだとする科学哲学の考え方に基づいている。つまり,「理論は,……モデル,つまり実在システムのレプリカだとすると,必ずしもそれが文で表現される必要はない……言語で表されることが多いけど……図,グラフ,ダイヤグラム,事例,最近ではアニメーションなどによっても表されている」(戸田山和久『科学哲学の冒険』NHKブックス,2005,pp.236〜237)という考え方である。
このように考えると,授業でも文章(命題化されたもの)で書かれた理論で自然や社会をとらえるだけでなく,図(モデル)などでもとらえるという発想に立てば,児童生徒もこれまで以上に理論の活用ができるようになり,アクティブ・ラーニングで求められる「深い学び」の実現が効果的になされるのではないだろうか。
最後になりましたが,執筆の機縁を与えていただいた編集部の及川誠氏にお礼を申し上げます。
2016年11月 /大杉 昭英
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- 明治図書
- ありがとうございます2017/4/1630代・小学校教員
- 分かりやすく書かれてあるので、教育の動向知るのであれば外観できます。2017/4/6かん
- 教員にとって必要な知識を得られる本でした。2017/2/440代・小学校教員
- アクティブラーニングに関する基礎的な整理から、教科ごとの特徴や評価について丁寧にまとめられていて、理解しやすかった。2017/2/220代社会科教員