- 1章 重視すべき指導
- 1 生活年齢を重視した指導を
- 2 将来の自立を見通した指導を
- 3 家庭生活を重視した指導を
- 4 実社会での訓練,指導を
- 5 主体性を引き出す指導を
- 自分の生活ができるようにする/ 自由と自主性は区別すべきである/ 押しつけでなく,できる援助をする/ 任せて待つ指導を大切にする/ 自主性は人間本来性のものである
- 6 社会的スキルを身につける
- @ 基本的生活に必要なスキル
- 着替え/ 排泄
- A 基本的相互交渉のスキル
- あいさつ・返事/ ことばでのやりとり
- B 職業・地域生活でのスキル
- 電話の使用
- C 認知的・対人行動のスキル
- 2章
- 1 食事
- @ 基本指導
- 欲求/ 量の調節/ 食器の扱い/ 食事マナー/ M子さんの事例
- A 偏食・過食への対応
- 偏食/ 過食
- 2 衣服の着脱
- @ 実態把握をしっかりとする
- 指示,援助をしないときの実態把握/ 指示,援助をしたときの実態把握
- A 指導の基本
- 意欲を引き出す/ できる工夫をする/ 生活の質を高める/ 早期の指導が決め手となる/ 思いつきの指導が子どもをだめにする/ 意識を育てることが大切である
- 3 排泄
- 基本動作の指導を徹底する/ 実社会で通用するマナーを身につける/ 清潔心を育てる/ マナーを育てる/ 正しい行動を育てる/ 実社会での評価を重視する
- 4 清潔
- @ 指導の基本
- きれいを実感させる指導を/ 何よりも,まず気づかせる指導を/ 子どもに気づきやすい状況づくりを/ 適切なことばがけを/ 心地よさを実感させる
- A 家庭への働きかけ
- 課題を明確にする/ 家庭へ働きかける
- B 具体的指導
- 手洗い・洗面
- 5 就寝・起床
- 昼間の生活を充実させる/ 基本的生活習慣を確立させる/ 就寝前・起床後の活動を重視する/ 生活のリズムを作る
- 6 生活のリズム
- N君の事例
- 3章 生活力の向上のための指導
- 1 基本的考え方
- 2 集団・移動
- 対症療法的指導は効果はない/ 集団を質的に向上させる/ 外での訓練を取り入れる
- 3 遊び
- 遊びの楽しさを教える/ 自ら遊ぶ活動を用意する/ 指導者は子どものレベルに立つ/ 後かたづけを軽視しない
- 4 応対
- 返事・あいさつがなぜ必要か/ あいさつの指導/ 返事の指導/ 受け答えの指導
- 5 礼儀
- 自他の区別/ 生活のマナー・ルール/ ことばづかい・態度
- 6 指示の理解
- 真剣に対応する/ 意味のあることばがけをする/ 理解の確認をする
- 7 身だしなみ
- 身だしなみがなぜ重要か/ 自分で整える/ 自立に向けた援助を行う/ 行動の仕方を教える
- 8 持ち物の管理
- 自分の物を意識させる指導を/ 時間をかけて徹底した指導を
- 9 対人関係
- 問題解決/ 創意・工夫/ ユーモア感覚
- 10 手伝い
- @ 家事手伝い
- 親任せでは効果は上がらない/ 重視して欲しい指導
- A 指導の実際
- 買い物/ 掃除/ 食事づくり
- 11 お金(買い物)
- @ 指導の基本
- 現場での指導を重視する/ 計算よりも支払いの仕方を教える/ 机上よりも実際の指導を/ 頭の働く活動を/ 目的ある買い物を
- A 指導の実際
- 小学1年生のT君の事例/ 中学部のN君の事例/ 高等部のH君の事例
- 12 自主通学
- @ 自主通学
- 自立の力を信じる/ トラブルが適応力を増す/ 自力外出へ発展させる
- A 交通機関の利用
- 早期に取り組む/ 現場での指導を重視する/ いろいろな乗り物を利用させる
- 13 自己決定・自己選択
- 子どもの主体性を確保する/ 子どもの意志,気持ちを大切にする/ 体験を積み重ねる
- 14 余暇
- 学校で指導すべきこと/ 家庭で指導すべきこと/ 地域社会で指導すべきこと
- 15 外食
- 食事マナーを身につける/ 外へ連れ出す機会を多くする/ 一人で外食できる/ 本物に触れさせる
- 16 コミュニケーション
- コミュニケーションマインドを育てる/ 状況が把握できる子どもを育てる/ 子どもの興味・関心を大切にする
- 4章 就労の実現のための指導
- 1 実社会で通用する子どもを育てる
- 15年目に入った自閉症児のO君/ 単身赴任した自閉症児のN君
- 2 就労事例に学ぶ
- 事例1/ 事例2
- 3 就労を目指すための指導のポイント
- 主体的行動の差/ 認知的対人行動の差/ 指導者の姿勢の差
まえがき
障害児教育においては,自立,就労は決してはずすことのできない目標であり,それに向けた指導が学校でも家庭でも熱心に行われています。しかしながら,その成果は一向に上がっておらず,学校を卒業しても,自立できない,就労できない者が大半であるというのが現状です。どうしてでしようか。障害児は自立することが困難なのでしようか。就労は無理なのでしようか。私は決してそうは思いません。自立できる,就労できる指導が行われていないから,できないのではないか,と思っています。指導者側にこそ責任があると言えば言い過ぎでしょうか。
ことばもなく,パニックを頻繁に起こす自閉症児のY君は,将来は施設へいく以外ないと言われていた,大変重度な子どもでした。ところが,その彼が親と教師の2人3脚による指導で,見事就職を果たしました。就職当初は,どれだけ続いてくれるのかと不安の毎日でしたが,1年が過ぎ,5年が経ち,10年が経ち,とうとう,現在15年目を迎えています。この間,不況により会社の経営者が替わり,人員整理も何度も行われましたが,Y君は一度もその対象になりませんでした。ことばもなく重度ですが,精一杯活動している姿が高く評価され,今日まで続いているのです。障害は重度ですが,間違いなく自立した生活を送っています。何がY君をここまで成長させたのでしようか。
彼に対する指導経過を考察してみて,基本的生活習慣の確立と生活力の向上が,今の彼を支えているということがわかりました。
自立というと,指導者は大抵は,あれもこれもできなければならない,この子には無理だなどと考えますが,決してそうではないのです。ごく基本的なことが正しく,確かにできれば自立,就労はそれほど難しいことではないのです。
本書はこうした事例を参考にしながら,どうすれば,この子ども達が伸びるのか,生き生きと活動できるのか,自立できるのか,そして私たちの最終目標である就労を実現できるのか,その指導法をまとめたものです。
自立,就労に最低必要であると思われる内容を取り上げています。
一人でも多くの子ども達が自立,就労できるようになればと願っています。そのために本書が多少なりとも役立つことがあれば幸いです。
1998年6月 著 者
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- 明治図書