- まえがき
- 1章 長男(自閉症?)と家族
- 1――啓介の成長
- 誕生・乳児期
- 保育園生活と障害告知
- 就学そして不登校
- 不登校からの回復
- 自閉症児の療育について
- 2――姉(有希)の子育ち
- 弟を迎える
- 保育園生活
- 弟との小学校生活
- 障害児とその兄弟姉妹
- 3――両親の変容
- 普通の家族としての出発,そして疑念
- 混乱と告知,そしてそれから
- 様々なハードル
- 悲しみとの融和(希望をもって今を生きる)
- 第2章 教師として
- 1――実態把握について
- 2――指導について(自閉症児とのかかわりを通して)
- 「さっちゃん」(学習態度の形成と般化の困難)
- 道夫君(コミュニケーション指導考)
- 靖君と智君(こだわりへの対応と友達関係の調整)
- 恵吾君と武君(異食と自傷行為の意味)
- 潤君(パニックをどうとらえるか)
- 昭三君(通常の学級の自閉症児・人間関係の重要性)
- 自閉症児の指導についての一考察
- 3――評価と記録の活用について
- データベース作成の動機とソフトの概要
- データベースを活用した評価と指導の検証
- 第3章 これからの障害児教育 *自閉症児の教育を中心に
- 保護者との関係
- 自閉症児とかかわる教師の専門性
- 学校における生活環境と学習環境
- ◆おわりに
まえがき
自閉症児を育てる家族の第一の願いは,子どもと共に安定した暮らしを続けることである。そして,障害児を教える教師の使命は,子どもと家族に希望を抱かせることである。
家族は我が子の障害を受け容れる過程で多くのストレスを受ける。しかし,我が子を大切に思ってくれる多くの支援者に気付くことで癒される。そして,歩みは遅いが確実に成長する我が子の姿と,天真爛漫な笑顔や寝顔に励まされ,そのままの子どもを自然に受容していく。そのように積み重ねられた毎日によって,自分たちもまた隣りの家族と何ら変わらないことに気付いていく。人は誰も皆,それぞれの悩みを抱え,それぞれの喜びを味わいつつ,懸命に,そしてしたたかに生き続けるのである。
この拙い記録の整理は,「広汎性発達障害(自閉症)」という障害を持つ我が子との暮らしが,自然にそして必然的に家族を育てた過程をまとめたものである。障害を持つ長男を育てながら,彼に育てられてきた両親と,彼を自然に受け入れ,家族を支えてきた長女の「育ちの跡」をまとめようとした試みでもある。
この手記を通して,同じような境遇にある家族に「こんなに力を抜いて生活できるのか」「我が家の方がよほど立派に思えてくる」「子どもの後ろをついていくことも必要かもしれないな」そんな感想を持って頂けることを願っている。どこにでもある,何ら特別なところのない家族の日常から,子育てと親〈家族〉の育ち,障害児の療育・福祉・教育,そして地域づくりなどについて改めて考えて頂ければこの上ない喜びである。
また,教師としての実践も付け加えた。是非ご批判を頂きたい。
そして,私の拙い仕事を一つの叩き台として,障害児教育に求められているものは何か。どのような生活を一緒に送ることが,教師・保母・施設職員などに求められているのか。障害をもつ人々との生活を自らの生活の糧を得ている人々の実りある人生とはどのようなものなのかを共に考えて頂けることを期待したい。
稿を進めるにあたって,我が子とはいえ,彼の尊厳にかかわる部分への配慮をしながらも,障害児を育てる際に起こる様々な「事実」を知って頂くことにも努めたい。事実に即して記述していくが,誰もが隠しておきたいことがある。そのような微妙な親子の心理も含めて読み解いて下さる作業を読者に委ねたい。
2002年10月 著者 /菅原 弘
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- 明治図書