- はじめに
- 第1章 フレームリーディングでつくる国語の授業
- 一 物語を読むことは、謎解きすることである
- (1)『ごんぎつね』の謎を解く
- (2)「登場人物」とは
- (3)冒頭の一文を確認する
- (4)「中心人物」とは
- (5)「ごん」の設定と結末
- (6)兵十の人物設定
- (7)『ごんぎつね』の謎
- (8)加助と兵十の関係をさぐる
- (9)兵十・加助から茂平おじいさんへ
- 二 フレームリーディングという考え方
- 三 フレームリーディングと「深い学び」
- (1)フレームリーディングの三つのステップ
- (2)これから求められる「深い学び」
- (3)国語科で育成すべき資質・能力に培うフレームリーディング
- 第2章 文学教材をフレームリーディングで読む
- 一年生
- おおきなかぶ
- 繰り返しの構造をとらえる
- お手がみ
- 物語の最初と最後で何が変わったかをとらえる
- 二年生
- スーホの白い馬
- 物語の伏線をとらえる
- かさこじぞう
- 人物の設定・人物像をとらえる
- 三年生
- モチモチの木
- クライマックス場面をとらえる
- おにたのぼうし
- 対比の構造で作品を読む
- 四年生
- 白いぼうし
- ファンタジーの構造をとらえる
- 一つの花
- 対比の構造をとらえる
- 五年生
- 大造じいさんとガン
- 中心人物の変容から主題をとらえる
- やまなし
- 題名を手がかりに、主題をとらえる
- 六年生
- 海の命
- 中心人物の生き方から主題をとらえる
- きつねの窓
- ファンタジーの構造から主題をとらえる
- おわりに
はじめに
一 読むことの授業を「深い学び」にするために
国語科の授業の中で、「読むこと」の授業を、「深い学び」にしなければなりません。そのために考えるべき視点が次の二つです。
◆文章(情報)を多面的・多角的にとらえ、創造的思考力を育むための授業になること。
◆文章(情報)を構造化してとらえる力を育む授業になること。
この二つを念頭におくと、授業が変わるはずです。なぜ変わるのか、どのように変わるのか。私は次のように考えています。
(1)創造的思考力を育む授業をつくる
「読むこと」における創造的思考力とは、まったく何もないところから、考えを生み出すというものではありません。文章が目の前にあって、子どもがそれを読んでいると、確かに文字は追っているけれども、それだけでは見えていないものがあります。何気なく読んだだけでは見えていないものを、言葉と言葉をつなぎ合わせることによって見えるようにする力。これが創造的思考力です。書かれている言葉を確認するだけの読みの授業では、子どもの学びを「深い学び」にすることはできません。今日の授業のどこに、創造的思考力を育むためのしかけや発問があるのかが、教師の考えどころです。
創造的思考力を伸ばすためには、書かれている言葉を多面的にとらえる必要があります。また、本文の言葉と挿絵を組み合わせたり、物語作品と別の情報とを組み合わせたりしながら、考えをつくり出していくこと、これが多角的な読み方です。
言葉と言葉を多面的につなぎ合わせる授業、作品と別の情報を多角的にとらえる授業を実現させるための一つの手法がフレームリーディングなのです。
例えば、『ごんぎつね』を、「ごん」というフレームで読むと、ある一つの解釈をつくり出すことができ、「兵十」というフレームで読むと、別の解釈がつくり出せる。フレームの当て方によって、一つの作品世界が違った解釈で見えてくるということが、フレームリーディングではあり得るのです。
(2)構造化する力を伸ばす
構造化する力を伸ばすためには、全体が見えていなければなりません。全体を見渡すためには、見渡せるような読み方ができることが必要です。文章全体を見渡すような読み方が、フレームリーディングでは可能です。
構造をとらえるためには、「変容・対比や類比・繰り返し・起承転結・具体と抽象・伏線」などの物語を読むための思考の枠組みが必要です。この枠組みをつくるのがフレームリーディングです。思考の枠組みをつくることができるような発問を、教師がしていくことが必要なのです。
また一方で、子どもはいきなり物語を構造化して読むことはできません。当然、発達段階も考慮する必要があります。しかし教師が、低学年のうちから、構造化した板書を子どもの目に触れさせるようにしていけば、子どもは知らず知らずのうちに、文章の構造を目にすることになります。この積み重ねが重要なのです。板書が構造的に示されるためには、教師の教材研究がどうしても必要になります。
二 フレームリーディングの三ステップ
今のところ、フレームリーディングの文学の授業を三つのステップで考えています。
第一段階のフレームリーディング 作品の大まかなフレームをつかむ
〈発問例〉
●登場人物は何人ですか。
●中心人物はだれですか。
●仲間はずれの人物はだれですか。それはなぜですか。
●出来事はいくつありますか。
●登場人物のセリフはいくつありますか。
●物語の最初と最後で何が変わりましたか。
●違いはいくつありますか。
●同じところはいくつありますか。
●文章の中から□□を見つけましょう。
第二段階のフレームリーディング 必要に応じて詳細に読む
〈発問例〉
●中心人物がもっとも大きく変わったと分かるところはどこですか。
●中心人物は、なぜこのようなことをしたのでしょう。
●中心人物は、このときどのような気持ち・思いだったのでしょう。
●この言葉(セリフ・叙述・場面など)は必要でしょうか。
●この場面を絵に描いてみましょう。
第三段階のフレームリーディング フレームを見直して主題をとらえる
〈発問例〉
●作品の題名は、なぜ『○○』なのでしょう。
●中心人物が変わったことで、変化したことはいくつありますか。
●作品の中に出てきた□□とは、何でしょうか。(登場したものの抽象化)
第一段階で作品の大枠をとらえ、第二段階で焦点化された課題について詳しく読み、その読みを第三段階で全体に返すことで、より深化したフレームリーディングになっていくという構想です。
三 謎解きをする子ども
『海の命』をフレームリーディングで学んだ後、ある子どもが次のような感想を書きました。
ぼくは、一つの問題でも、詳しく読めば別の問題も出てくるからこの文章は面白いと思いました。(中略)
この文章は、普通に読んでも気づかないところがある。より深く読まないと気づけない部分があるということが分かりました。これが文章の面白さ、国語の面白さです!
子どもは、多面的に読むことの面白さ、深く読むことの楽しさを実感しています。子どもが、読むことの面白さ、国語の楽しさを感じられるような授業を、一時間でも多くしたいのです。本書がその一助になれば幸いです。
筑波大学附属小学校 /青木 伸生
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